第5話 体育館でもイライラ

キーンコーンカーンコーン


「終わった……」


5限の始業のチャイムと同時に一条先輩のティーセットの片付けが終わった。


「片付けぐらい自分でやってくれよ……これは1週間足らずでやめる人が続出するのも頷けるわ」


もう今日の体力を全て使い果たしたぐらい疲れたが授業には出なくちゃならない。

しかも体育……行くか…。

気だるい気持ちながらも俺は体操服に着替えて体育館に向かう。

体育館に行くと既にみんなが軽い準備運動を終えてバスケのチームを作っていた。


「すみません。遅くなりました」

「おお鷹宮か」


俺は体育教師の長谷川先生に遅れたことを謝罪する。

だが長谷川はそんなことまったく気にしていなかった。


「気にすんな。お前が遅れてくることは分かってたからな」

「そうですか」

「ああ、あの7人には誰しも手を焼くからな。俺も一度は注意したんだが一条と六倉、あと七星に完全論破されちまって何も言えなくなっちまってな」


明らかに口論で勝てなそうな面子じゃねえか。長谷川先生、よくその3人に注意しようと思ったな。


「まあそういうことだからお前があいつらの世話役やってる間は遅刻は許す。おい簾藤れんどう、鷹宮をお前のチームに入れてやってやれ」

「わかりました」


一人のさわやかイケメンがこっちに来る。


「おつかれはるき

「おうあずまよろしくな」


俺は東のチームに入りることになった。

こいつの名は簾藤東、俺と同じクラスでめちゃクソ性格のいいイケメンだ。

あの7人のせいで少しばかり話題性が欠けるが学園内でも屈指のモテ男で告白された数も優に二桁は超えている。だがなぜか一向に彼女を作らない。

そのせいでクラスのみならず学年すら超えて女子どもがコイツの彼女の座を狙っている。

今の期間は男子はバスケで体育館を半分に分けて2チーム交代制で試合をしている。

体育館の半分側では女子がバレーをしている。そして女子の方には六倉がいる。


「どう世話役は」

「死ぬわ。他の奴らが1週間足らずで土下座でやめたって聞いたときは話を疑ったが今なら納得だわ」

「あはは……僕からしたら開がそのことを知らなかったことに驚いたけどね」

「いろいろと忙しくて学校終わったら速攻バイトだったからな。まともに課題やる時間が昼休みぐらいしかなかったからそういう話には疎かったのが仇となったわ」

「そうだね。だけど僕はいつか開が七獣姫のお世話役になると思ってたけどね」


七獣姫、それは俺が世話してる7人の総称だ。それぞれが動物にちなんだ姫の名で呼ばれていることからいつの間にか定着したものだ。だが俺はそのこともこの依頼を受けるまで知らなかった。そしてこの世話役もこの学園では有名な話らしく、東の話によると多分知らなかったのは俺だけではないかとのことだ。


「そうかよ」

「それで続けられそうかい?」

「続けなくちゃいけない。正直俺は今この仕事に縋るしかないからな」

「そうか。開なら案外その役が務まりそうだね」

「もうちっとあいつらが遠慮ってもんを理解してくれたら助かるんだがな」

「それは今更の話だよ」

「ちょっとそこ!!」


女子の方から六倉の大きな声が聞こえてきた。

それを聞いて俺はまた頭を悩ます。

頼むから問題だけは起こさないでくれ……

それを見ていた東は苦笑する。


「あはは……」

「もうやめてくれ……」

「行かなくていいの?」

「そうなるよな……」


俺は重い腰を上げて六倉のところに行く。

案の定六倉はイライラした様子で同じグループの女子生徒を見ていた。


「六倉…」

「あ"?なんでアンタがここにいるのよ」


俺が来たことで更に機嫌が悪くなったようだ。だがしかしここで引くわけにもいかない。


「さっきの声、こっちにも聞こえてきたぞ?」

「なによアンタには関係ないでしょう?」

「俺はお前たちの世話役をやってんだ。関係ないことはないだろう。それにしても流石にきつく言い過ぎなんじゃなかったのか?」

「うるさいわね。だいたいこっちの事情も知らないのに首を突っ込んでこないでよ!もういい!!」


そう言って六倉は体育館から出て行ってしまった。

流石に出て行ってしまったことには仕方がない。俺は六倉に絡まれていた女子に声を掛ける。


「霧崎」

「鷹宮君」

「さっきは六倉が悪かったな」

「ちょっとなんで鷹宮君が謝るの?」

「俺はあいつの世話役だからな」

「そんなの関係ないよ」

「そう言ってくれるのは助かる。あいつも悪気があったわけじゃないんだ」

「鷹宮君は六倉さんの肩を持つの?」


霧崎は明らかに不機嫌な声でそう返してきた。しかし今の俺にそんなことはどうでもいい。というか女の喧嘩にはあんまり関わりたくないのが正直な感想だ。だが六倉が関わっている時点でそうもいかない。だから俺は俺の思ったことをはっきりと伝える。


「悪いな。今の俺はこれでもかなり満身創痍でな。誰かの肩を持つ体力をなんてない。だが流石に試合中に外の奴とくっちゃべってミスをするのはいただけないな」

「ゔっ…!」


俺がそう言った瞬間霧崎は分が悪い顔をした。


「見てたんだ」

「ああ」


霧崎はさっき試合中にも関わらず外の女友達と話していて六倉の声でとっさにボールを拾おうとしたが間に合わなかった。それに怒った六倉が強い口調で霧崎を問い詰めたって言うのがことの真相だ。まあ、真剣にやってる奴からしたら御立腹なのも頷ける理由ちゃっ理由か。


「あいつも真剣にやってんだ。お前一人のミスでお前が損を被るのは構わない。だが不真面目で他人に損を与えるのは違うと思うぞ」

「ゔっ……ごめんなさい」

「謝る相手は俺じゃないがな。ちゃんと後で六倉にも言っとけ」

「分かったわ……」


後はこれで六倉が素直に許してくれればいいんだが……手回しはしとくか……

一旦東のところに戻る。


「おつかれ。いい手際じゃん」

「できるなら披露する場面が来ないことを祈るさ」


こうして俺の最初の1週間をなんとか乗り切った。

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