第4話 御世話役の日常
「不味いわね。ちゃんと練習してきなさい」
「鷹宮、このパレット洗ってきて」
「ねえ暑いからお茶買って来て」
「あ、じゃあ私もコーラお願いしま~~す先輩♪」
この世話係の依頼を受けてはや一週間、毎度の如くこの学校に不釣り合いな教室に呼び出されては一条先輩に紅茶を入れさせられるわ、四乃原先輩には雑用押し付けらるわ、三秋には飲み物やら菓子を強請られるわ、それに二宮が便乗してくるわの毎日だ。
俺は四乃原先輩からパレットを受け取ってお茶とコーラを買いに行く。
「きついのは予感していたがまさかここまでだとは……」
俺は四乃原先輩から受け取ったパレットを水洗い場に置いて蛇口の下にパレットを置いて水で流す。そしてそのまま放置して近くの自販機でお茶とコーラを買う。
買ったお茶とコーラをハンカチを下に置いて汚れないように守ってパレットを洗う。
なぜ俺がハンカチを置いたのかと言うと最初に三秋と四乃原先輩の仕事が被ったときハンカチ無しで置いたことで汚いと買い戻されたからだ。
「洗い終わった」
パレットを拭いて更に濡れた手を別のハンカチで拭いてお茶とコーラを回収して戻る。
「はい。パレット洗い終わりました」
パレットを四乃原先輩に渡す。四乃原先輩はパレットを受け取り状態を確認する。
「これお茶、二宮はコーラ」
お茶を三秋に、コーラを二宮に渡す。
「鷹宮、まだここ汚れてる。次はちゃんと」
「ちょっとこれ冷たいやつじゃん。今日はホットの気分だったのに……」
もちろんやり終わった後の文句や愚痴も既に慣れた。
「ほんと大変ですね先輩~~♪」
「言うなら自分でやって来てくれねえかな?」
「どうせ三秋先輩のついでなんだし変わらないでしょう?」
それはそうだがよ……
『ピピッ』
「今度はなんだよ…」
スマホに着信が来たので確認すると五十嵐から今日予定していた弓道部の手伝い行けなくなったからその主将さんに詫び入れといて連絡がきた。
正直自分で行けと思うが常に運動部に引っ張りだこの五十嵐にそんな時間がないのも理解している。それから六倉からは生徒会に今月の決算報告書を理事長に渡すように生徒会室に来いと、更に立て続けに七星から図書館の本を返しに行ってほしいから自分の教室に来てくれて連絡が来た。
「頑張ってくださいねせ・ん・ぱ・い♡」
「そういうならお前も手伝えよ」
「いや~先輩の仕事を取るのは私の仕事じゃないんで」
「鷹宮君。話している暇があるのなら行きたまえ」
俺には注意して二宮にはなしかよ!?
「分かってますよ!行ってきますよ!!」
まずは四乃原先輩と三秋のやり直しをする。今度はパレットを最初に必死に洗い、その後温かいお茶を買って戻る。
「まあいい」
「今度からはちゃんとしてよね」
お礼は無いのかと言いたくもなるがそんな時間はない。急いで4階の七星のクラスに向かう。
「来たぞ七星」
「うむ、助かる」
七星の机には折り目の見えない分厚い本が綺麗にハンカチの上に10冊近く重ねられていた。
「これを返してくればいいんだな?」
「うむ。それとこれを借りてきてくれ」
そう言って一枚の紙きれを渡された。そこには倍の20冊近い本の名前が書かれていた。
「昼休み終わるまでによろしく頼む」
後から仕事増やしやがって…!そう思いながらも本10冊を抱えて3階の図書館に向かう。
「これ七星のやつです」
俺は司書さんに10冊の本を渡す。司書さんは本を返却ようのボックスに入れる。
「七星さんのね。ありがとう」
「それとこれ昼休みまでって」
俺は司書さんに七星から渡された紙を渡す。それを見た司書さんは少し溜め息を吐きながらも納得した。
「わかったわ。昼休み終わるまでには準備しとくから」
「ありがとうごさいます。後で取りにくるので」
俺は急いで生徒会室に向かう。
本当は図書館の本を借りるときは本人が借りなくちゃいけないんだが、七星に関しては学校側も承知なので俺が七星の使いだってわかっているので簡単に借りられるわけだ。
「来たぞ六倉」
「遅い、そこの書類よ。早く持っててよね」
「分かった」
相変わらずイライラしてるな。俺は書類の束を持って理事長室に向かう。
「失礼します。これ六倉から頼まれた決算報告書です」
「悪いね」
理事長は決算報告書を受け取る。俺はそのまま弓道部の主将を探しに行こうとしたら理事長がカップを持って俺に言った。
「どうかなお茶でも一杯」
「すみません。まだ仕事があって」
「そうか。それは残念だ。また時間があれば付き合ってくれるかな?」
「時間が取れるのなら、ですね」
「それはありがたい」
皮肉で言ったつもりだったんだがな……。そうだ理事長なら。
「理事長は弓道部の主将がどの教室の生徒か知ってますか?」
「安藤君か、どうして君が……ああ、五十嵐君のか」
自力で俺が聞いたことの意味を理解したようだ。それが理解できるなら俺の皮肉も理解できるだろう。いや理解できたうえで流した可能性もあるか。
「安藤君なら3年2組だよ」
「ありがとうございます。それでは失礼いたしました」
俺は理事長室を出て3年2組に向かう。
「すみません弓道部の安藤先輩はいますか?」
俺が3年2組の先輩方にそう聞くと一人の女子生徒がこっちにきた。
「私だと思うが」
「弓道部主将の安藤先輩ですね」
「ああそうだが」
「五十嵐から急用が入ったので今日予定をキャンセルしたいと」
俺が五十嵐からの伝言を伝えると安藤先輩は分かりやすくガッカリした。ちなみにこれは安藤先輩に限らず、運動部の主将たちはみんな大体同じ反応をする。それほど五十嵐が運動部から人気者ってことなのかこの1週間で嫌でも理解した。
「そうか。それは残念だがしょうがない。部のみんなには私が伝えておくから」
「ありがとうございます。五十嵐からも申し訳ないと」
「なに、こちらから頼んだことだからね。気にしてないよ。私からいつでも歓迎すると伝えといてくれ」
「分かりました」
五十嵐、六倉の仕事は終わった。後は図書館に戻って本を受け取って七星の仕事を終えれば。俺は急いで図書館に向かう。昼休みも残り15分しかない。
「すみません!」
図書館に着くと受付の机の上に大量の本が重ねてあった。
「ちょうど見つけ終わったところよ。ほら持って行きなさい」
「ありがとうございます」
俺は司書さんに御礼を言う。これだけの数、探すのにかなりの時間がかかっただろうに。
とりあえずこの量を一度に運ぶことはできないので3回に分けて運ぶことにした。
「重っ!?」
持ってみて分かるが本を持っているのかって思うのぐらい重い。それに分厚いのに加えかなり高く積み重なっているから一歩歩くごとに落としそうで怖い。
「大丈夫?」
司書さんが心配そうにそう聞いてきた。
「大丈夫です!」
時間もないので急いで七星のクラスに向かう。
だがそこに行くのに一つの関門があるのだ。
「はぁーー……なんやかんやこれが一番面倒かもしれない」
階段だ。七星のクラスに向かうには階段を上る必要がある。
「うぉ!?……あっぶね~~」
階段を一段上るたびに本が揺れる。そしてそれに合わそうとすると俺が落ちそうになる。毎度だがこれが一番体力を使う。
「七星持って来たぞ……」
なんとか七星のクラスに本を1回運び込めた。
「うん。ありがとう。そこに置いといて」
そう言って七星はまた本に集中する。
お前ならその本1冊読むのにそんなに時間かからないだろう、と思いながらも七星に指定された場所に本を置く。
「これが後2回……」
憂鬱な気持ちになりつつ俺は後2回本を運んだ。
「終わっだ~~」
昼休みが終わる5分前。これなら急げば菓子パン一個ぐらいは食べれるだろう。
そう思い急いで自分のクラスに戻ろうとしたときスマホが鳴った。
「嫌な予感しかしない」
恐る恐るスマホを開くと一条先輩から『ティーセットの片付けよろしく』と提示版に来ていた。
俺はその場で大きく肩を落とした。
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