傭兵スライム ーEND OF FIRESー

上殻 点景

#1 約束



 暗い室内。

 湿った土壁に囲まれた室内はここが地下であると教えてくれ、

 重厚な金属のドアは内外に危険なものが存在することが分かります。

 ドアに貼られたプレートには【帝国第5研究所 廃棄物部屋】とあります。


 そんな中を歩く男2人


 「あいかわらず廃棄物部屋は辛気くせーな」

 「早く帰らないと、所長に怒らてちまうぜ」

 「分かってるよ」


 男二人は、

 地面に金属瓶を置いたあと、

 ドアから軽い足取りで出ていきました。


 液体窒素を閉じ込めるような重厚な金属瓶の容器。

 容器のラベルには【第三危険物】と書かれています。


 男たちが去って数分後、


 置かれた容器からはポコポコと液体がもれました。

 蓋が完全には閉まり切ってなかったのでしょうか。

 それとも中身が勝手に動いたということでしょうか。


 「(ここはどこだ)」


 気持ちは少年、

 ですが出てきたのは、

 透き通った緑色の粘性生物。


 一般的に言うとスライムという生物です。

 今回はそこまで可愛くも無いので粘液と表現しましょう。


 粘液は周囲を見渡しました。


 「(周囲には大量のドラム缶と鉄クズが沢山)」


 1か所に所狭しと並べられたドラム缶は工場を思い出し、

 鉄クズの形は人間味を感じる構造で、薄暗い部屋では不気味に感じます。


 (手持ちには買ったゲームすらない)


 少年が気にするべきことは別の事だと思います。


 この後、


 粘液の体に気づくまで10分。

 思考を落ち着かせるまでに30分。

 液状の体の使い方を習得するまで60分。


 粘液は、

 ひたすら体をこねくり、

 丸っこい体を形成しました。 

 

 丸っこい体はある程度の弾性を持ち、

 ある程度の壁は一部を液状にすることで、

 張り付きながら登るようになりました。


 そうして一息ついた時、


 粘液は異常に気が付きました。


 「(体が小さくなっている?)」


 そう、自分の体積が減っているのです。

 減った分量は体の32分の1と僅かとはいえます。

 ですがこのままだと自分の体は消えてしまうでしょう。


 ありもしない自分のお腹は、

 先程からきゅうーという可愛らしい音を鳴らしました。

 実際は体のコアが魔力不足で悲鳴を上げている音と、あとで知ることになります。


 「(いい匂いがするな)」


 実は探索をしていた時から、

 良い匂いがしていたのを粘液は思いだしました。

 粘液に鼻は無いので、本能で感じ取った匂いということになりますね。


 匂いの元は、ドラム缶。

 表面に張り付くと錆でザラザラしており、

 上の蓋は何度も開け閉めをしたのかゆるゆるになっています。


 「(中がよくみえん)」


 粘液は必死になってよじ登り、

 蓋から侵入して中身を見ますが、

 薄暗い部屋も相まってよく見えませでした。


 もっと近くで覗こうとしますが、


 「(うおっと)」

 

 粘液は、

 体が滑って、

 ドラム缶の中に落ちてしました。


 「(液体のような、ゼリーのような)」


 まあ、いい匂いがするし大丈夫だろ

 という比較的軽い気持ちで、

 粘液はゼリーを食します。


 そして食事の感想は、


 「(ウマッ)」


 語彙力の消失によって、満足が表現されるのでした。

 味を占めた粘液は全てのドラム缶の中身を食べつくし、

 たゆんたゆんになった体を頑張って動かすのでした。


 ちなみに食べれば食べるほど粘液の体は大きくなり、

 最終的には自身を食べることで巨大化を、

 何とか止めることが出来ました。


 ◇◆◇


 「(んで結局ここはどこだ)」


 粘液は体を揺らしながら探索します。


 体が大きくなったことで、

 重量は増えましたが、

 遠くまで跳ねたり、


 粘液体で大きな壁をよじ登れるようになりました。


 そうして今は、鎧みたいな鉄塊を漁っています。

 最初に人間味を感じた鉄クズですね。


 鎧の中には空洞があり、

 かなりボロボロのシートと、

 むき出しの配線が伸びていました。


 もちろん粘液に優れた機械の知識はありませんので、

 何か、直せるのか、動かせるのか、

 などは存じません。


 「(ガラクタにしか見えねーな)」


 粘液の感想も知れたモノです。


 という訳で、

 空洞から出ようとして、

 体を滑らせ、


 むき出しの配線の中に落ちるのでした。


 [戦闘補助システム起動]

 [1020日ぶりの起動を確認]

 [久しぶりですレッド1]

 

┌┐─────────────┘──┐

├─────────────POWERD SUIT AK-08────┤

||  ■■■■EN-[ 0 ]   ■■■■BO-[ 0 ]     ||

||───────────────── ||

||  Good to 【Message】see Red1 again!     ||

||──┐         from Navi ||

    ────────────── ||

   └──────────────┘



 1つの欠けた画面に光が灯り、

 画面には白い文字が表示されます。


 「(いやレッド1じゃないんだが)」


 ガラクタが起動したことより、

 文字へのツッコミを優先する辺り、

 粘液の心は図太いのかもしれません。


 [レッド1との意思疎通が困難を確認]

 [神経通信回路を接続]


 画面下から、

 ワイヤーが飛び出し、

 粘液の体にぷにっと刺さりました。


 ワイヤーの先からはパチパチという音がして、体に漏電しているのではないかと不安になります。


 「(うぉ、抜けねぇ)」

 『提言 回路の切断は通信に不備をもたらします』


 そして頭に声が響きます。

 存在しない脳内に響く様子は、

 ──幻聴といったところです。


 『助言 通信は神経接続魔法を介して行われています』

 「(そ、そうなの?)」


 粘液には魔法が分かりません。

 

 当然です。


 粘液が居た世界に魔法はありませんでしたし、

 テレビやゲームで見たぐらいが想像力の限界です。

 魔法を知らない粘液を不思議に思ったのか、幻聴はまた響きます。


 『疑問 正規兵ではない?』

 「(ばりばりの一般人だぞ)」

 『警鐘 本機を一般人が動かすことは禁止されています』

 「(この鉄くすが動くのか)」


 粘液の発言はもっともでした。


 腕も無ければ足もない、

 そんなガラクタが動くと言われたのです。

 そんな反応に呼応するように幻聴は鳴り続けます。


 『検証 自身の状態』

 『結果 破損率9割以上、行動不可』

 『検証 軍通信に接続』

 『結果 通信不可、孤立を確認』


 『推測 自身の廃棄処分の可能性』

 

 『考慮 ......ロード中』

 

 幻聴は沈黙しました。

 その様子を見て粘液は思いました。

 

 哀れだと、

 愚かだと、

 可愛そうだと、


 そして自身の友になってくれる可能性があると。


 一縷の望みをかけて粘液は言葉を賭けます。


 「(取引しないか)」

 「(俺はここから出たい)」

 「(その代わり俺も、お前の望みを一つ叶える)」


 幻聴の返答は、


 『提言 私は戦闘補助プログラムです』

 『提言 命令無しで行動不可』

 『結論 提案を無視します』


 なんとも味気ない返答だと粘液は思いました。

 形や姿は違えど幻聴はいつか消える運命です。


 自分が時間が経てば縮んでいったように、

 どんなものでもいつか滅びが訪れるのです。


 それに座して待つというのは、

 粘液にとってとても腹が立つことでした。

 なぜ腹が立つのかは自分でも分かっていませんが。


 「(なら、ここで錆びるまで待つか?)」


 そんな粘液からでた素朴な皮肉は、幻聴を動かすには十分でした。


 『考慮 ......ロード中』

 『疑問 アナタに叶えれる望みの範囲』

 「(なんでも叶えてやるよ)」


 粘液はヤケクソ気味に答えました。

 粘液が叶えてくれる保証はどこにもありませんので、

 下手にできないというより、大言を叩いたほうが賢いのは事実です。


 『考慮 ............ロード中』

 『指針 自己の存在意義』

 『結論 自身の証明』


 『要求 新たな戦場』


 「(まかせろ)」


 とんでもない要求をされますが、

 粘液は気にもかけない様子で受け入れました。

 それは粘液にとってこの場からの脱出が第一だからでしょうか?


 幻聴は満足したように続けます。


 『確認 取引を締結』

 『承認 私へのアクセス許可』


 『今から貴方をレッド1として認証します』


┌┐─────────────┘──┐

├─────────────POWERD SUIT AK-08────┤

||  ■■■■EN-[ 0 ]   ■■■■BO-[ 0 ]     ||

||───────────────── ||

||  From this【Message】 moment You are Red1!!  ||

||──┐         from Navi ||

    ────────────── ||

   └──────────────┘



ここにまた1人、兵士が誕生するのでした。


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