第22話 人々の希望となる笑顔を守る存在

 翌日、ミヤマオ城の城壁の中は、王都の民で埋めつくされていた。その人々の表情は、皆が笑顔だったようだ。

 暗黒教祖と魔人の脅威きょういが無くなり、倒すのに貢献こうけんした英雄が新しい王となったこと。更に王が婚約を発表したことで民は喜んでのお祭り騒ぎだ。

 勿論もちろん、ラピーチ王のきさきになるのは美姫だ。美姫なら民に愛される王妃になるだろう。

 ラピーチ王と美姫とエディットが謁見台に立ち、群衆に手を振ると歓声が沸き上がった。素晴らしい光景だ。

 俺は、心の底から二人の婚約を祝福していた。


 俺と赤子のリーエルを抱いたロゼルーナは、その光景を見た後にリンと由衣に別れを告げた。由衣は、泣きそうな顔だった。でも由衣は、リンに耳打ちされて、何か言われた後に微笑んだ。移動魔法ワーベラで行けば、いつでも会えるとでも言われたのだろうか? まぁ、由衣とは、喧嘩けんかもしたけど今では楽しい思い出だ――ありがとう由衣。


 それから、ラピーチ王が用意してくれた馬車で、目的の地の北の山に向かった。馬の手綱を握るのは、ロゼルーナだ。


「ラピーチ王と美姫より先に馬車の旅になったな」


 俺は、ロゼルーナに言って微笑しながら、ゆりかごのリーエルを乗せてから馬車に乗った。

 そして、俺達は、ミヤマオ城を後にした。

 王都の街中も明るい雰囲気で、どんちゃん騒ぎだ。人々の笑顔で満ちあふれていた。この平和が永遠に続くことを俺は、願った……。



 *****


 夕日が沈む頃に馬車は、北の山の山頂程にある屋敷やしきに到着した。鳥のさえずりだけが聞こえる、静かな場所だった。屋敷は、ラピーチ王の子供の頃に山で遊ぶ為に建てたそうで、庶民的な感じの規模と作りだ。

 俺達は、屋敷の中に入った。中は、直ぐに住めるように清掃されている。赤ちゃん用のベッドも用意されていた。俺は、リーエルをベッドに寝かしつけて近くにある椅子に腰かけた。


「ふぅ。少し疲れたな」


 俺は呟き、目を閉じた。老いた体は疲れやすいな。ああ、昨日も腕輪の魔法を少し使ってしまったからな。その分老いたのか。そう思いつつ、高校生だった頃の生活を思い出していた。楽しかったけれど、怠惰たいだに暮らして時間を無駄にしていた。今なら思うことが出来る。若さと時間は宝であったな……。


 

 目を開けると部屋は、薄暗くなっていた。俺は少し眠っていたようだ。


「ロゼルーナ?」


 俺は、ロゼルーナを呼んだ。だが、返事が無い。窓を見ると月の光が差し込んでいる。俺は、その光に誘われるようにドアを開けて外に出た。すると、黒いドレス姿のロゼルーナが、月の光に照らされながら空を見上げていた。月と星空を眺めていたようだ。

 俺の姿に気が付いたロゼルーナは、微笑みを浮かべた。今の俺には、その笑顔こそが宝物だ。そうしみじみと思った。

 ロゼルーナが俺に歩み寄って来る。俺の目の前に来ると、彼女と見詰め合っていた。


「ねぇ、憶えてる? お父様が蓮輔に宝をくれるって言ったのを」


 ロゼルーナが俺に訪ねた。宝か。言われるまでは忘れていた。特に当てにしていなかったせいもある……。少し考えるとそんな事を言っていたと記憶がよみがえる。


「ああ。そう言えば、宝を褒美ほうびにと言っていた」


 俺がそう答えると、ロゼルーナは、照れたような表情をした。


「お父様の宝は……私よ」


 そう言うとロゼルーナは、俺に抱き着いて唇にキスをした。月の光が二人を照らしていた。俺は目を閉じて彼女を強く抱きしめた。

 彼女は、まさしく俺の希望と言う宝だったんだ。彼女とリーエル、愛する家族を守っていく事を決意する。

 それから俺は今夜、人間の無常と言うからを脱がせる気持ちになった。人間を超えれば、時の指輪で肉体の時間を戻せる……? そうなれば、次は俺が人々の希望になろう。魔族や魔物の脅威から人々と、その笑顔を守る存在になるんだ! 

 ロゼルーナは俺の首筋に唇を寄せた。俺は、彼女に身をまかせた。

 そして、ロゼルーナは、再び唇に熱いキスをした。ほんのりと香る血の匂いと味に俺の体が熱くなる。ロゼルーナと一つになった感覚だ。

 すると、俺の薬指の時の指輪が光り輝きだしていた……。

                             おわり

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笑顔戦記 零式菩薩改 @reisiki-b-kai

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