第21話 戦士ギルド登録と初仕事

 謁見の間を出た俺は、部屋に帰る途中でリーエルを抱いたロゼルーナに出会った。ロゼルーナは、これからどうするのだろうか? 確か俺達の見届け役だったな。もう役目は終わりだろうな。


「ロゼルーナは、辺境伯の城に帰るの?」

 

「あの城に帰っても、お父様と麻夜お母様の邪魔しちゃ悪いし……」


 俺は、質問に深い意味は無かったのだが、ロゼルーナは何か、もじもじとしながら話した。行くとこが無いのかもな。でも、こんな爺さんと一緒に行動するの嫌だろうと思ったが、物は試しか。


「じゃあ、俺と北の山にある屋敷に来るかい?」


 俺は、冗談のつもりで老人の戯言たわごとを言ってみた。怒らないでくれ。今の俺って弱いから。


「いいわよ。リーエルも一緒でいいなら行くわ」


 俺の眼を見詰めて返事をしたロゼルーナ。予想外の反応だったが俺は嬉しかった。リーエルも勿論もちろん一緒だと言うと、ロゼルーナは、微笑んで俺の提案に承諾しょうだくした。


「これ、リーエルが成長するまで蓮輔が持ってて」


 そう言い、時の指輪を俺の左手の薬指につける。しかし、リーエルがつけた時と違っていた。指輪と俺に変化は何も起きなかった。俺が人間だからか……?



 *****


 俺とロゼルーナは、城から出て街に繰り出した。

 二人っきりで、街に行くなんてデート――なら嬉しいのだけど。ロゼルーナは、腰に剣も装備していながら、リーエルを背負って来ている。アンバランスな様相ようそうだなぁ。それだから実際は三人なんだよね。両親と子共の三人にも見えないか。はたから見ると娘と孫と出かける祖父じいさん? 

 まぁ、実のところは、ミヤマオ城を出発する明日の前に、ロンボダルの街の戦士ギルドに登録をしに行くだけだった。


 戦士ギルドの場所に行く途中、人々を見た。闇に覆われた空が解消され、元の太陽が輝く空の下では、皆が元気に活動しているようだ。街が活気に満ちているのを感じる。女性達も安心していき通りしている。街の子供達は、無邪気な笑顔で遊んでいる。それを見ると、心がなごやかになるんだ。



 *****


 戦士ギルドの中はガランとしている。冒険者等はミッションに忙しいのだろう。受付のカウンターらしき所に女性が一人立っているのが見えた。あそこで手続きをすればいいんだな……。

 俺は、真っ直ぐにカウンターに向かう。


「あの、宮廷魔導士からの紹介で来た者ですが……」


「ロンボダル戦士ギルドへようこそ。私は、受付のミルティーと申します。あれ、宮廷魔導士リン様からの紹介状は届いていますが、それによると勇者様の御歳おとしはもっと若いはずでしたので......」


 受付女性のミルティ―は、年齢とかけ離れた姿の俺を見て不思議に思ったのか? あるいは、偽物と警戒したのかもしれない? 俺は、苦笑いをした。俺が予言の勇者なのは、話しているらしいが、けた経緯いきさつなどは話さずに年齢をそのまま紹介したのだろう……。


「どうやら、間違った報告があったようですね。年齢は、見た目どうりです。俺は、蓮輔。それと彼女は、ロゼルーナです」


 俺は、サラッとその場のお茶を御濁にごすと、自己紹介をした。ミルティーは、年齢の事はそれ以上は気にしなかった。けれど、ロゼルーナをまじまじと見ている様子だ。


「綺麗なひと……。年齢が離れた奥さん? ですよね。でも、旦那だんなさんは、こんなに美しい奥さんの為に毎晩のように頑張ってくれちゃいますよね? 奥さんがうらやましいなぁ」


 えっ!? 驚いて心の中で叫ぶ。俺は、一瞬耳を疑った。典型的な、エロオヤジが言いそうなセクシャルハラスメント発言だ。


「何? 死ぬわよ」


 無表情で返答するロゼルーナ。返答と言っていいか分からんが――その雰囲気からして、冗談でもおどしでもないのを俺は感じ取った。気を付けなければ、これからの状況の如何いかんによっては、ロゼルーナは剣を抜いてしまいそうだ。


「ええっ!? あの、死ぬって?」


 ミルティ―は、驚いた様な声を出した。おれは、慌てて素早く動いてロゼルーナの後ろに回る。我ながらくさっても鯛、老いても勇者と言える動きだ! それから背負った赤子に気を付けながら、ロゼルーナの口を両手でふさいだ。

 さてと、何とかしないと。戦士ギルドに喧嘩けんかを売りに来たんじゃないんだから……。


「あはは。頑張りすぎると、俺の身が持たなくて死んじゃうと言いたいんですよ」


 俺は、ひきつった笑顔をしながら、ミルティ―に話しを合わせた。するとミルティーはご機嫌な様子になり、俺達二人のギルド登録手続きを進めてくれる。


 そうしていると、レザーアーマー装備の男性が一人、戦士ギルドに飛び込んで来る様に入って来た。見たところ冒険者の初心者っぽいと思わせる若さだ。


「ミルティーさん、大変です! 魔物のオーク三匹が街の入口付近に侵入してます!」


「な、何ですって!」


 ミルティーが驚いた様な声を出したと思った瞬間に、彼女は受付カウンターを飛び出していた。そして、報告した男性の胸に飛び込んで抱き着いた。わざとらしく思ってしまうのは、俺だけだろうか? それとも実は恋人だったのか? 男性に助けを求めるミルティーに対して抱き着かれている男性は慣れた様子でなだめるように注意しながらミルティーを引き離した。

 ミルティ―と男性の会話に聞き耳を立てていると、どうやらミルティ―の息子のダルが友達と遊んでいるのをオークが出た辺りの街の入口で見かけたらしい。ミルティ―は、さっきとは打って変わって意気消沈した様子に思えた。息子を心配してのことだろうな。

 ギルドの中には、知らせに来た男性と俺達以外に冒険者らしき姿は見当みあたらない……。


「ミルティー、俺達が対処に行きましょうか?」


「あ、ありがとうございます。それでは、私が依頼します。蓮輔さんとロゼルーナさん、よろしくお願いします」


 俺達は、レザーアーマーの男性にその場所までの案内を頼むと、直ぐにギルドをあとにした。



 *****

 

 俺達は、案内されて街の入口近くまで来ると、オーク三匹と遭遇そうぐうした。一匹のオークが人間の子供一人を両手で抱えているのを確認できた。子供は、泣きわめいている。もしかしてミルティ―の息子のダルなのか? と思った瞬間に建物の陰から何かが飛び出してきた。


「わーっ! 爺さん、助けてよぉ! 友達がつかまっちまったぁ!」


 子供が叫びながら俺達の前に現れた。慌てているようだが、元気が有るようだ。オークに警戒しながら話しを聞くと、この子がダルだった。オークの姿を見つけて、友人を置き去りにして直ぐに隠れたらしい――まぁ無事で何よりだ。


 俺は、腕輪の魔法を何時いつでも発動する心構えだ。ロゼルーナも背負っていたリーエルを案内役の男性に預けて、剣を抜く体勢たいせいのようだ。


「お前ら! 食い物と人間のめすを渡せ! さもないと、このガキを殺す!」


 子供を抱きかかえたオークが叫んだ。そして、子供を両手で持ち上げた。


「今だロゼルーナ! オクリコマ!」


「わかってるわ! 蓮輔!」


 俺は、ロゼルーナに向かって合図の叫び声を上げた。そして子供を持ち上げているオークに拳を向けて、魔法オクリコマを使用する。対象のオークは、スローな動きになっている。

 ロゼルーナは、俺に返事をすると同時に剣を抜くと、スローな状態のオークに向かって駆け出していた。

 

 アッと言う間だ。オークの断末魔だんまつまが辺りに響く。子供を持ち上げたオークの胴体は、ロゼルーナの剣で切り裂かれた。ロゼルーナは、即座に剣をその場に落とすと、オークが放した子供を素早くキャッチした。

 

 残りのオークが武器無しのロゼルーナを襲うつもりだろう。だが、そうは問屋が卸さない! 俺は、即座にオーク二匹に向かって、魔法ホウマジリヤを連射する。

 ホウマジリヤに頭や体の数か所を撃ち抜かれたオーク二匹は、バタバタと倒れて息絶えた。

 ロゼルーナが助けた子供は、オークが全て倒されると泣き止んでいた。恐怖から解放されたようだ。俺は、その子の頭を撫でてやった。すると微笑んで名前を教えてくれた。カフェオと名乗った。


「お爺さん達、どうもありがとう。僕もこれからは強い男になるよ。大人になったら、弱い人達を魔物や悪者から守れる男になりたいんだ――騎士になりたいよ!」


「いい心がけだな。大丈夫だよ。カフェオならきっと強い騎士になれるさ。俺が保証するよ」


 俺がカフェオの望みに太鼓判を押してやると、カフェオは喜んだようで小躍こおどりする。それを見たダルも一緒にはしゃぎ出した。ダルも騎士になりたいのだろうか? まぁ、二人とも無事で良かった……。

 こうして俺とロゼルーナは、オーク討伐と未来の騎士候補を救う事が出来た。戦士ギルドでの初仕事は無事に達成したのである。


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