第17話 暗黒教祖とダークプリースト

 俺達は、遂に神殿内部に突入した。此処は、一つの大きな部屋になっていた。壁に松明が燃やされているため真っ暗ではなかった。外の明るさとの差があり、見えにくかったが、だんだんと目が慣れて来るのにそう時間が掛からなかった。

 中央に一目見て魔族的な巨大な黒い化け物が座っている。髪の毛のない頭に二本角と尖った耳、蝙蝠こうもり的な翼に長い矢尻付き尻尾が有った。気持ちの悪い怪物だ。あれと戦う事になるのか? 手ごわそうな敵の姿を前にして緊張感が増した。


「まさか、ニョロネーが倒されるとは。誤算だったな。ダークプリーストのお前も同行させるべきだったか……」


 突然、声が聞こえた。声のした辺りを確認すると、いつの間にか黒いローブ姿でメイスを手に持った男が現れていた。奴が暗黒教祖か? 皆、直ぐに戦闘態勢になる。俺達が様子を窺っていた。すると、もう一人、黒のローブでフワフワと宙を浮いた小柄な奴が、その後ろから現れた。そいつは髑髏どくろの顔で、手に大きなかまを持っていた。見た目は、まるで死神だ。ダークプリーストというのは奴か。


「教祖様。奴らは、わたくしデタメトに始末させてください。かわいいスケルトンの敵討かたきうちですじゃ」


 二人の会話が教えてくれる。大きい方の男は、やはり暗黒教祖だったみたいだな。

 死神みたいな奴は、デタメトと己の名を喋って、俺達を襲う希望を出したようだ。暗黒教祖がロゼルーナの方を指差して、デタメトに何かささやいている。奴ら何を企んでいるんだ? 俺は嫌な胸騒ぎがしていた。


「何ごちゃごちゃ言ってるのよ! こっちから、やるわよ!」


 業を煮やしたリーエルが宣戦布告する。いつの間にか構えていたロングボウで矢を射った。矢はデタメトの髑髏の頭に突き刺さる。


「やりー! あはっ、あっけないわね!」


 リーエルは、矢の命中に喜び、はしゃいだ。だが直ぐにそれは、不安へと変わった。それは、奴が落下して倒れる様子が無いからだ。何故だ? 俺の驚きとは対照的に、あっけらかんとした様子で頭に刺さった矢を抜いて、投げ捨てたデタメト。


「やれやれ、若い者は我慢を知らん。おっと、エルフの娘か。それじゃ、わしより年上かもしれんな。失礼、失礼。焦らずとも、ゆっくりと可愛がってやるからの。ふぉふぉふぉ」


「皆、気を付けろ! 矢が効いてない!」


 ラピーチが青ざめて注意を促した。デタメトは、俺に向かって来ると鎌を振った。俺は、剣で受け止める。力は、強くないようだ。良かった。圧倒的にやられることは無さそうだ。リーエルは矢筒から矢を取り出している。また同じ結果になるのでは? と俺は不安な気持ちになる。


「あんたは、銀の武器に弱い系なんじゃない? 今度は銀の矢よ。これで、終わりよ!」


 リーエルは、そう叫んで銀の矢を射った。銀の矢はデタメトの顔である髑髏の眉間みけんに見事に命中している。どうだ?


「無駄じゃて!」


 銀の矢を抜いて手に持つと、ロゼルーナに向かって飛んで行く。そして、彼女に銀の矢を投げつけた。そんな攻撃があのロゼルーナに効くものか! とデタメトの攻撃を心の中で嘲笑ちょうしょうする。案の定、難なく避けたロゼルーナ。

 デタメトは、その瞬間にロゼルーナの間合いに入る。そして、黒色の水晶みたいな物を出した。


「ほれ! ブラッククリスタルが、お前のパワーを吸い取るぞい」


「何? 力が入らない」


 デタメトが、ブラッククリスタルをかざすとロゼルーナがひるんだ。

 ロゼルーナが怠い感じの表情で言った。デタメトは、持っている鎌をロゼルーナと反対方向に放り投げた。その後、デタメトはロゼルーナを羽交はがめした。俺は、焦った。


「ロゼルーナを離しやがれ!」


 俺は叫び、デタメトの背中を斬り付けた。しかし、何事もなかったように、デタメトはロゼルーナを羽交い絞めのままで巨大な化け物の所に飛行した。そして、尻尾の先の矢尻にロゼルーナの腹部を突き刺した。

 ロゼルーナの大きな悲鳴が神殿に響き渡る……。その時、化け物の眼が少し開いたように見えた。


「ロゼルーナあああぁぁぁ!」


 ロゼルーナの名を叫ぶ俺の気持ちは、絶望感に支配されそうになる。しかし、ダンピールのロゼルーナならば、まだ何とかなるはずだと己に言い聞かすのだ。

 

 デタメトは、ブラッククリスタルを暗黒教祖に手渡した。そして、こちらを向いた。


やかましいのう。騒がんでも、お前ら全員あの世へ送ってやるわい」


 デタメトは、勝ち誇ったような物言いだ……。放り投げた鎌の所に浮遊し拾い上げた。

 俺は、くやしくなってきた。何とか一矢報いっしむくいたい思いで、拳を握ってデタメトに向けた。そして生命の腕輪を発動させた。


「なめやがって! これでも喰らえ! ホウマジリヤ!」


 光の矢尻を十連射してみる。矢尻は、次々にデタメトに命中する――全てが奴の全身を貫いたのだが、奴は平然している様子だ。顔色や表情が無いだけに、余計にそう見えやがる……。だが、あきらめれるか!


「腕輪よ、他にどんな魔法がある?」


 俺の質問に腕輪が答えた。『電撃を与える、ゲキライコウがあるぞ』と、そう言う腕輪に、魔法の発動のやり方を教わった俺は、すぐさま実行に移した。

 俺の叫びと共に、黄色く光る稲妻の様な電撃ピームが奴に直撃し、凄まじい音と閃光を発した。しかし奴は微動だにしなかった。これ以上、無駄に魔法は使えない。俺は、魔法使用を解除した。俺は絶望におちいろうとしていた……。


「ふぉふぉふぉ。もう終わりじゃな? なぁに、この鎌で首を一撃で落としてやる。一瞬で楽になるからの」


 俺のもがき苦しむのを十分楽しんだ様子のデタメトは、俺を仕留めに入る構えのようだ。本当に死神に見えてきたな……。万策尽きた思いの俺は、死ぬ覚悟を決めようとしていた……。


「待ちなさい! 私が相手よ!」


 突然、叫び声フロアに反響する。この声は、リンだ。来てくれたのか。リンは、余裕の感じで歩いて来るのが見えた。しかし、俺の魔法攻撃は全て無駄だった。リンの魔法が通用するのだろうか? と、不安はぬぐえないでいる。


「小娘の魔導士か。ふぉふぉふぉ、わしの弟子にならぬか? 毎日、うひゃひゃな修行を仕込んでやるぞ」


 リンを完全に舐めた口調のデタメト。リンは、冷静だが、殺気十分って感じだ。


「何なの? あんた死んで……。ファイヤースワロー!」


 リンが右手の小さな杖をデタメトに向けて呪文の名を叫んだ。すぐさま光る赤玉が発射されて、デタメトの居る方へと向かって行くが、奴に避ける気配はない。やはり効力が無いと自信がそうさしているのだろうな。


「ふぉふぉふぉ。無駄無駄」


「ファイヤースワローは、狙った獲物を逃さない!」


 ミニ死神の余裕の言動をリンが叫び打ち消した。光る赤玉はミニ死神に当たらず避けて、神殿の隅に向かって行くようだ……。はずしたのか? よく見ると、気づかなかったが隅に宝箱が一つ置いてある。


「ま、まさか? そんな、ば、馬鹿な! 小娘め、知っておるのか!」


 デタメトは、初めて動揺したような声を上げた。光る赤玉は、宝箱に直撃して爆発した。

 吹き飛んだ宝箱の残骸ざんがいには、老人の人形が燃えながら転がっていた。


「うぎゃぁぁぁぁぁー! 熱い! 燃えるー!」


 デタメトが悲鳴を上げた後に、もがきながら叫ぶ。奴の身体は炎に包まれて燃え上っていた。


「あんたの魂の入った人形が燃え尽きるわ。終わりね」


 リンがそう言い終わる頃には、老人の人形もミニ死神も灰になっていた。なるほど、魂の抜け殻に幾ら攻撃しても無意味だったんだな。逆に魂入りの人形のダメージは、連動するという事か。リンが理解してくれていて助かったよ。


「やったな、リン! 流石は、宮廷魔導士だぜ!」


 ラピーチが叫んだ。俺も同意見だ。ほんとに頼りになる。後は、暗黒教祖を倒し、ロゼルーナを救うだけだ。そうすれば世界も救えるんだ。

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