第12話 辺境伯の娘

 辺境伯の城の最上階まで上った俺は、見覚えのある扉の前に立っていた。夢の中で見た扉だった。赤い色で塗られている……。流石に宙には浮いてないな。夢と現実は、やはり違いがあると思い微笑した。そして俺は、扉を開けて中へ入った。

 中はちゃんと部屋だった。ぱっと見て女性の部屋だとわかる。俺は、部屋の奥まで歩んで行くと、お姫様が使用するようなベッドが見えた。


「誰?」


 ベッドから声がした。俺は、急に我に返った。よく考えたら無断で女性の部屋に入ってしまった。怪しすぎる奴になってるじゃないか。そんなことを思っていたら、白いワンピースでフリル付きネグリジェ姿が起き上がり、ベッドから出てきた。


「レディーの部屋にノックもせず入るなんて、マナーがなってないわね」


 落ち着いた声で若い女性は言った。彼女は、銀色の長い髪に透き通るように白い肌、青い瞳をしていた。以前に頻繁ひんぱんに夢の中で出てきた彼女だった。これは、運命の赤い糸なのか? 取りえずは、お決まりの自己紹介をしてみるか。


「ノックしなくて、ごめん。俺は、蓮輔。君は?」


「私は、ロゼルーナ」


「よろしく。ロゼルーナ」


 ロゼルーナと名乗った彼女に俺は、手を差し出した。彼女は、俺の手を握った。その手は、少し冷たかった。守ってあげなきゃと思ってしまう。


「温かい。この温かさ、お母様を思い出すわ……」


 ロゼルーナは、俺の手を力強くギュッと握った。以外に握力があるな。これ以上は止めて……。俺は、痛さに耐えきれなくなって、顔をしかめてしまう。

 すると察してくれたのかロゼルーナは、直ぐに手を放してくれた。


「ごめんなさい。痛かったかしら?」


 悪気のない表情で謝るロゼルーナを見ると怒れないな。守るなんて生意気でした! そう心の中で謝罪。


「大丈夫。平気だよ」


 俺は、気を使ってそう言ったが、ほっといたら骨をくだかれたかも? 内心ヒヤッとした。

 その握力の強さを知ってしまって、どうしても質問したいという気持ちになった。俺はロゼルーナの瞳をじっと見つめていた。


「ねぇ、ロゼルーナ。一つ聞いていいかな?」


「何? いいわよ」


 ロゼルーナは、いいと言ってくれた。まぁ、この段階で『うるせぇ、話しかけんなカスが!』と言う女性ならば、関係を築く事はないからな。俺からもお断りとなる。


「あの、その、ロゼルーナはヴァンパイアなの?」


 俺は、恐る恐る聞いてみた。


「フフフ、ズバッとくわね。まぁ、いいわ。卑猥ひわいな質問なら、死んでたわよ……」


 ロゼルーナは、微笑しながら言った。ちょっと返答に間が有るのは、俺が怖がるんじゃないかと思ってるからかもしれないな。しかし、エッチな話は、タブーだな。まぁ、初対面の女性に卑猥なことを言い出すなんて、アニメで出て来るエロ爺さんぐらいだろうな。死んで本望な奴。しかし卑猥かぁ――経験あるの? バスト何カップとか? そんな質問かな。つまりセクハラ発言と言う事か。


「……私は、ダンピールよ。亡くなった母が人間だったの。簡単に言えば吸血鬼と人間の混血ね」


「そうなんだ」


 俺は、そうとしか言うことが出来なかった……。

 沈黙の時が始まろうとした時、扉をノックする音がした。ロゼルーナが返事をすると、扉が開いて、あの執事が立っていた。


「お嬢様、旦那様が、お呼びです。お二人で地下の広間までいらして下さいませ」


 それだけ言うと執事は、お辞儀をして扉を閉めた。


「お父様が読んでいるわ。急がないと。ちょっと待って……」


「ロ、ロゼルーナ! ど、どうしたの?」


 ネグリジェを俺の目の前で脱ぎだしたロゼルーナ。俺は、慌てて、素早く後ろを向いて尋ねる。


「これを脱いだらやる事は、決まってるでしょ!」


「えっ!」


 ロゼルーナの言葉に俺は、思わず声を上げてから、唾を飲んだ。俺の心の準備がまだだよ。


「ドレスに着替えるのよ」


 ロゼルーナは、きっぱりと言った。そうだと思うけどさ。でも、俺の前で脱ぎだすからへんに期待しちゃったよ。おっと、卑猥な発言したら殺されるんだったな。でも俺の前で着替えるのは平気なんだなぁ。理解不能におちいった俺は、目を閉じて、無我の境地で部屋のオブジェになる努力をした。理性を保つために……。

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