第9話 心の目覚め

 窓からの陽の光を感じたのと、ホトトギスのような鳴き声が耳に入り目覚めた俺は、朝のさわやかな風にでもあたろうかと、城の庭に出て見た。

 そして少し歩いてみる事にした。俺は、ふいに苦笑した。朝から散歩とは。俺も爺臭じじくさくなったかな。普通はジョギングだよな。

 俺が歩いていると、向こうから、メイド服を着た女性が歩いて来る。当然メイドだろうな。


「おはようございます。予言の勇者様ですよね?」


「おはよう。まぁ、そう呼ばれているみたいだけど」


 挨拶だけと思ったんだけど。勇者と呼ばれることに照れて、頭を右手で押さえながら返答した。


「私は、ゴブリン島から救出してもらった者です。今日から、お城で働かせて頂きます。私、来月には、ロンボダルの街に住んでいる恋人と結婚するんです。勇者様達のおかげです。ありがとうございました」


 そう言ってメイドの女性は、お辞儀をしてくれた。


「結婚するんだね。おめでとう。お幸せに」


「はい! 勇者様も世界を救う為に、これからも頑張って下さい。失礼します」


 俺の言葉にメイドの女性は、満面の笑顔になっていた。頑張ってくださいと言われた俺も気分が良くなるよ。

 一礼して、メイドの女性はその場を去って行った……。

 俺は、さっきの女性の笑顔を見れて嬉しかった。猿ヤン、お笑い芸の夢は無くしたけど、笑顔を発見できたよ。笑顔を作り出せたよ! 心の中で叫んだ。みんなを笑顔にする為に、その笑顔を守るために――苦難を乗り越えて、頑張るんだ。たとえ危険な戦いになろうとも! 俺の心は、目覚めていた……。



 *****


俺達は、エディットに謁見の間に呼び出された。エディットは、玉座にいつも通り座り、その段下の脇、大臣が居るであろう場所に由衣が居る。何だ? まさか、私達は、恋人同士です。つき合ってますわ。とかの発表会じゃないだろうな。


「蓮輔!」


 由衣が俺の名を強い口調で呼んだ。その後、何も言わず睨んでいた。無言でプレッシャーを与えているようだ。余計な事を言うな! ってことか。帳尻を合わせとくか。俺は、由衣の方を見てうなずいて合図する。

 おっと、エディットの話しがそろそろ始まるみたいだな。


「まず、今日は、皆に発表があるの。由衣を女王補佐官に任命したわ。これから由衣は、私のそばで業務をしてもらうから。皆もそのつもりで」


 エディットは、そう発表した。なるほど、これで二人いつも一緒に居られるな。まぁ、由衣を戦闘任務で怪我けがでもされたら、俺達がタダで済まされないかもな。そう思い俺的には、気にならなかった。

 美姫や先生の顔を見ると、何故? って表情をしている様だった。


幼馴染おさななじみとして、尋ねるわ。大丈夫なの? エディット」


 リンがエディットに尋ねる。その口ぶりから、全てお見通しなのかもしれない?


「リン、心配しないで。世界を救うまでよ。その後は、考えているから」


 エディットは、何かを決意したかのように真剣な表情と強い口調だった。


「リーエルに、時の指輪を返すわ。リンに調べてもらったけど、何も解らないし、リンがつけても変化なしだったみたいよ。リン、渡してあげて」


 エディットの言葉に従いリンがリーエルにゴールドの指輪を手渡した。一見どこにでもある指輪だな。あんな指輪が戦いに必要なのか? 俺は不安になってきた。

 リーエルが指輪を指でつかんで、まじまじと見ていたが、指輪を左手の人差し指につけた。


 「この指輪は、人間には使用出来ないようになっていると聞いているわ。遥か昔、幼い頃は触れる事も許されなかったけど……うっ……。熱い。体が熱いわ」


 指輪が光り輝き出した。リーエルの額から汗が流れだしている。


「わかったわ! する、契約するわ!」


 突然のリーエルの叫び声に驚かされた。何かと会話しているのか? リーエルだけ聞こえてるようだな。俺達は、彼女をただ見守ることしか出来なかった。


「はああっ!」


 リーエルの気合を入れるような声。彼女の身体全体が光輝いた。そして、徐々に光は消えて行く。


「だ、大丈夫か? リーエル」


 心配して、尋ねた俺にリーエルが事の成り行きを説明をしてくれた。時の指輪と契約したとの事だ。リーエルの生きてきた時間を指輪の魔法と交換できるようになったらしいのだ。生きた時間を交換? じゃあ、最後にリーエルは消滅するのだろうか? 俺は、心配になり質問してみる。


「使い過ぎなければ大丈夫よ。私は、エルフだし。適度に使えば若返って、嬉しいかも」


 リーエルは、俺の心配をよそに、嬉しそうに笑った。


「私もそれ欲しいわ……」


 先生がリーエルの時の指輪を凝視して呟いた。やっぱ、年を取るのは、嫌なんだろうな。女性だから尚更なおさらだろうな。


「時の指輪が、効力を発揮して良かったわ。これで、あと生命の腕輪があれば……」


 エディットが俺の顔色をうかがう感じで俺の方を見ながら言った。


「行こう! その腕輪を手に入れに!」


 俺は、気合いを入れてそう叫んだ。エディットの表情が明るくなった。


「蓮輔。行ってくれるの? 良かった。これで、国民に希望ができた。女王として国民に顔向けができるわ」


「ああ、行くよエディット。笑顔を作る為に。そして、その笑顔を守る為に。それが俺の運命だと思ったんだ」


 俺の決意を聞いたエディットは、今度は涙ぐんだようだ。


「おいおい、エディット。そこは、涙じゃないだろ。明るく頼むぜ。俺なんて蓮輔が、やる気を出してくれて、嬉しくてたまらないんだからな」


 ラピーチは、そう言って俺の肩を笑顔で抱いた。


「今度から私も一緒に行くから……よろしく」


 リンが、ぶっきらぼうに言った。エディットの側役は、由衣と交代か。


「宮廷魔導士が来てくれるのは、心強いわね。時の指輪は、主に防御と回復魔法系に効力を発揮するみたいだから……」


 リーエルが指に付けた指輪を眺めながら話す。


「で、いつ行くの?」


 リンが皆の方に向かって尋ねた。


「行くなら、早く行こう。俺は、夏休みの宿題も早めに終わらすタイプなんだ」


 珍しく犬養が発言した。犬養らしい意見だな。真面目だなぁ。


「流石、犬養君ね。感心したわよ」


「先生、ありがとうございます。また、先生の授業を受けていた頃に早く戻りたいです」


 宿題と言う単語に反応したのか? 犬養をめ、教師の顔に戻った先生がいた。犬養は、頬を少し赤らめて、犬養なりのさり気ないアピールをしたようだ。


「……そ、そうね」


 先生は、躊躇ちゅちょしたのかな? 沈黙してから犬養の意見に同調したように見えた。


「犬養も蓮輔に負けない位にやる気じゃないか! よし! 目前の果実は迷わず収穫。と言うからな。昼食後に準備したら、直ぐに出発するぞ!」


 ラピーチが、拳を握りしめて腕を上げ叫んだ。言いたいのは、善は急げ。みたいなことだろうな。俺も気合いが入った気持ちになっていた。


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