第6話 ゴブリン島への進入
「腹いっぱいになったし、そろそろ行くぞ!」
ラピーチが出発開始の号令をかける。あれ、いつの間にか猿ヤンとジュリアンの姿が見えなくなっていた。
「なぁ、由衣。猿ヤンを見なかったか?」
「猿谷? 猿谷なら、向こうの森の大木に歩いて行くのを見たような……」
由衣が指差して、俺にそう教えてくれる。
「何? トイレかしら? それとも、また熊と遊んでるじゃないでしょうね」
リーエルが笑えない冗談を言う。心配になってきたじゃないか。
「俺、行って呼んで来るよ」
そう、由衣とリーエルに言って由衣が教えてくれた森の大木の方へ向かった。
*****
森に入ると大木の方から
二人は、数秒見つめ合っていた。やがて、ジュリアンが目を閉じた。猿ヤンの顔がジュリアンの顔に近づいていく。俺は、思わず息を呑んだ。そして、猿ヤンとジュリアンの唇が重なったのを見た。勇者は見た! って言ってる場合じゃない。のぞきみたいで嫌だなぁ。だが、俺の好奇心が言う。見せてもらおうか猿ヤンの……。いや、駄目だ。俺は、静かに幌馬車まで戻って行く。
「猿谷は居た?」
「さ、さぁ。見なかったよ。そのうち戻るだろう」
由衣の質問に
さっき会った二人がキスか。これが、共通の刺激体験が恋愛感情を生む的なやつか。猿ヤンに春がやって来たな。良かったなぁ、猿ヤン。
少しして、猿ヤンとジュリアンがさり気なく帰って来た。二人が照れているかのように見えるのは、俺だけだろうか? 何はともあれ全員が幌馬車に乗り込んだ。
「それじゃ、行くぜ! はあっ!」
ラピーチの掛け声と共に恋愛幌馬車は、それぞれの思いを乗せて世界旅行に。じゃなくて、ゴブリン退治に向かって、再出発するのであった……。
*****
昼食後からしばらくたって、まだ遠くて小さくだが、俺達の目に湖が見える。
「皆、あの湖がノニオ湖だ。いよいよ敵さんの領域に入るから、気を引き締めろ」
ラピーチが気合いの入った感じで皆に注意を促した。
「ええっ。こわーい」
ラピーチの横に座る美姫がラピーチに抱き着いた。
「大丈夫だ。美姫は、俺が守るよ」
「うん。お願いね、ラピーチ」
そう言い合いながら、見つめ合う二人。おいおいラピーチ、前を見て。二人共、気を引き締めてくれよ。頼むよ。二人を見ていると、俺の気も緩みそうだからな。
*****
目前に馬車二台のすれ違いが出来る位の幅の木製の橋が見えた。その橋の両脇に一匹ずつ、全身が濃い緑色の肌で
「野郎共め、生意気に見張りなんか立てやがって。美姫、後ろに下がるんだ」
ラピーチは、そう言い美姫を幌馬車の幌の中に下がらせた。
「リーエル、前に来てくれ。左の奴を弓で頼む。右は、
「分かったわ。左は、任せて」
リーエルは、ロングボウの攻撃準備に入った。
幌馬車は、橋のたもとまであと少しの位置で停車した。それと同時にリーエルが矢を射る。
左のゴブリンの喉に矢が刺さって緑の液体が飛び散る。奴らの血は、緑色か!? 俺は心で叫ぶ。左のゴブリンは、倒れた。
ラピーチは両手用大型剣のグレートソードを持つと、馬車から飛び降りた。そして右のゴブリンに向かって突撃して行く。俺も念のため、後を追う。
「ギギー! 何だギ、お前達!」
右のゴブリンは、うろたえた様子で叫んだ。そして、ラピーチに向かって槍を突き立てた。
「うおりゃー!」
ラピーチは、叫びながらゴブリンの槍を下から剣ではね上げた。そして透かさず剣を左上から右下へ、ゴブリンの両足目掛けて振り抜いた。
「ギギャー!」
ゴブリンの悲鳴が響いた。ゴブリンは、両足を切断されて、のたうち回っている。
「おい、お前らの巣は島の何処だ」
ラピーチが奴を尋問し始めた。
「ギ、ギ、島の奥の洞窟だギ。だが、この橋を渡るべからずだギ」
ゴブリンが答える。意外と素直だな。バカだからか?
「
「ギギ、そうだギ。助けに来たのかギ? もうたっぷり交尾したギ。フヒヒ」
ゴブリンは、舌なめずりをし、挑発的な笑みをラピーチにした。
「じゃあ、お前には、この特大サイズを突っ込んでやる!」
そう言いラピーチは、奴の胴体に剣を突き刺した。ゴブリンは、逝った。
そして、ラピーチと俺は、幌馬車に戻る。
「さてと、島の奥の洞窟が目的地だが、ゴブリンが橋を渡るべからずだってよ」
ラピーチが皆にそう言ったら、猿ヤンがそれに反応したようで右手を上げた。
「端じゃなく、真ん中を堂々と行けば?」
猿ヤンが笑顔で言った。マジか? やはり、それ言うんだな。お約束か。
「だよな! 行くぜ! はあっ!」
ラピーチも嬉しそうに叫び、馬を勢い良く走らせ出す。幌馬車は橋の、ど真ん中を爆走して行くのであった……。
ゴブリン島に架かる橋を渡りきると草原が続いていた。たまに、廃墟になった大きな屋敷が幾つか建っているぐらいだ。
*****
幌馬車は、更に島の奥まで駆け抜けて行く。
やがて、目の前に大きな洞窟が見えた。ラピーチは幌馬車を洞窟の少し手前で停車させた。
「皆、着いたぞ。見張りは、居ないようだな。流石に此処まで侵入してくるとは思わないようだな……。よし、進入準備だ」
ラピーチは、皆に武装するように促した。ラピーチは、グレートソードを背負い。スピアを手に取った。リーエルの他は、それぞれに合った剣を腰に装備して、手には弾倉付きクロスボウを持った。女性は、後方からの援護担当とし、ポーションなど荷物を持ってもらった。
「リーエルは、後ろを守ってやってくれ」
リーエルの腕を信頼しての事だろうな。その言葉には、大事な役目を頼む気持ちが感じられる。言った後にラピーチが美姫をチラット見た。
「了解」
責任重大と思ったのか? リーエルは、見たことない真剣な顔で答えていた。
「ジュリアン。危ないから、これを着なよ」
ハードレザーアーマーを脱いで、ジュリアンに渡そうとする猿ヤン。
「でも、猿ヤンは、大丈夫?」
ジュリアンは、不安気な顔で猿ヤンを見つめた。
「俺は、すばしっこいから大丈夫だよ。ヤバイ時は、蓮ちゃんの後ろに隠れるからさ」
「俺は、盾かよ!」
透かさず、つっこみを入れた俺に猿ヤンは、満足そうに笑った……。
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