第3話 予言の者達

「私は、リーエル。あんた達、見たことない格好ね」


 緑色の服の女性は、リーエルと名乗た。俺と美姫は、言葉が出ずにいた。俺は、リーエルの耳を見詰めていた。


「な、何? この耳が、そんなに珍しいの? エルフを見たことないの?」


 リーエルは、俺の視線に気づいて、右耳を触りながら質問してきた。ゲームやアニメで見たことあるって言えないよなぁ。俺は、頭に色々なエルフが思い浮かんだ。


「エルフに会ったのは初めてなんだ。俺の名前は、蓮輔。遠くから来たんだ。よろしく、リーエル。エルフも言葉が通じるんだね」


「何言ってるの? 当たり前でしょう。モンスターでも喋る奴いるじゃない。知能がある程度あるなら言葉は通じるわ」


 リーエルの口振りから、言語が違うという概念がいねんが無いみたいだ。


「そ、そうだよね」


 俺は、愛想あいそ笑いしながら答えた。


「そうよ。神様が、そう創られたのよ」


 リーエルが空を見上げて言った。彼女が言うと説得力がある。


「あの、私は美姫。助けてくれて、ありがとう」


「宜しく、美姫。丁度、通りかかって良かったわ。こいつらは、お尋ね者の極悪非道ごくあくひどうの盗賊団よ」


 リーエルの言葉で、今更ながら恐怖する俺。


「どうりで、滅茶苦茶めちゃくちゃな奴等だと思ったよ。本当に、ありがとう。リーエルの弓の腕前は、凄いなぁ。感動したよ」


「え? そう? いやぁー、それ程でも……あるかな」


 リーエルは微笑んで、頭を押さえながら答えた。クールなタイプかと思ったけど親しみやすい感じで良かった。


「蓮輔も美姫も武器を持たずに旅をするなんて、無謀よ。命が幾つ有っても足りないわよ」


「たははは。俺達、急にここへ来たから……でも、反省するよ」


「私、ソフトボールで使うバットを持って来れば良かったかな?」


 美姫が話すのを聞いた俺は、冗談なのか? と思った。普段から、バット持って行動するって、暴走族のレディースだぞ。ここへ来るのも、分からなかったんだし。そんなことを考えたが、美姫の表情が、やる気満々な感じがした。それが、妙に可愛い。


「今度は持って来てよ。強打者さん」


 俺は、そう答えた。それから俺と美姫は、リーエルを連れて、由衣達の所へ戻ることにした。

 やばい、由衣のスカートを忘れるところだった。忘れていたら半殺しだな。俺は苦笑した。

 

 由衣達の所に戻ると、犬養は目を閉じて、横たわっていた。他は、木の根元に座り込んでいる。いや、由衣が見えない。

 リーエルの事を紹介した俺は、由衣を呼ぶ為に名を叫んだ。すると、少し離れた大木の後ろから手が出て、手招いている。俺は、招かれるままに近づいた。


「由衣、持ってきたぞ。ほい」


 そう言って由衣の手にスカートを渡した。


「ありがとう……。ねぇ、臭いを嗅いだりしなかった?」


「し、しないよ! するわけないだろ!」


 思いもしなかったことを言われたが、女子の履いてたスカートだと意識すると、ドキドキして、言葉が上擦うわずった。


「じゃあ、頭に被らなかったでしょうね?」


「はぁ? 由衣! お前は、俺を変態だと思ってるのか? 縛られた美姫の前でだな、お前のスカート被った姿を想像してみろ。奴等より、別の意味で危ない人間だぞ」


 由衣に変態のように言われて、心のドキドキが一瞬で冷めた。由衣は、スカートを履き終わり、大木の後ろから出てきた。


「私、そんなに魅力ないのかな?」


 俺の顔を見ながら、質問か独り言か判らない感じで呟いた。俺は、そういう問題なのか? と心で叫んだ。

 俺と由衣は皆と合流した。リーエルが犬養の体の傷ついた箇所に手を当てている。


「聖なる力よ、出でよ。ヒルール……」


 そうリーエルが言うと、手が光輝いた。見た感じ、回復魔法だな。彼女の行為が終わると、犬養は起き上がった。


「不思議だ。体の痛みが消えた……俺は、犬養です。ありがとう」


「当たり前でしょ。回復魔法なんだから。私は、リーエルよ。治療代は、五千万テカルでいいわ」


「えっ、治療代が要るんですか? テカル? つけで、分割払いでいいですか?」


 犬養が泣きそうな表情で真面目に言った。リーエルは、吹き出しそうな表情をしている感じだな。これテレビなら、なんちゃってと、プラカードを持って出て来るパターンだなぁ。


「あはは! 冗談よ、冗談。無料よ、ごめんね」


 リーエルの満足そうな笑顔に対して犬養は、無表情で無言だったのが俺は怖かった。



 *****


 少しの休憩のつもりだった。でも辺りは、すっかり闇夜に包まれていた。リーエルは、火を起こし、焚火を始めた。そして色々と教えてくれた……。

 ここは、ボダリア国で、最近になって王が亡くなり、王の娘が即位して治めていること。通貨は、テカル。この森は、ロンボダルと言う王都からは、近いことなどだ。


「あと、私の気になることは、モンスターが攻撃的になったことよ。私のエルフ村も私がいない間に、ゴブリンに襲われて……」


 リーエルの顔がくもり、悲しそうな目をして声を震わせた。


「リーエルさん、話してくれて、ありがとう」


 先生が最後にそう言ってから、みんな黙ったままになった。俺もそうだが、みんな元の世界への帰り方や、これからどうしていいか分からずに不安だったのだろう。

 辺りには、焚火たきびのパチパチ音が鳴り、ふくろうの鳴き声が響いていた……。


「何か近づいて来るわ。皆、気を付けて」


 俺は、うとうとしていたが、リーエルの声で、一気に目が覚めた。彼女は、鋭い目つきで森の入り口の方を見ている。皆、焚火を囲むのを止めて、気配と対称の方に集まった。

 リーエルは、ロングソードを鞘から抜いた。冗談を言ってた時とは、想像もつかないオーラだ。


「そこで、止まりなさい!」


 リーエル叫んだ。焚火たきびに照らされて、少し離れた所に姿が見える。紫色のとんがり帽子に黄色のワンビース姿。そして、紫色のマントを羽織っていた。あんな格好をするのは、魔法使いかハロウィンパーティーぐらいだぜ。お菓子が欲しそうな雰囲気じゃないな……。


「何なの!」

 

とんがり帽子の人物が叫んだ。それは、聞き覚えのある女性の声だった。


「あれ、リンの声だよね? 美姫」


「うん。私も、そう思う」


 由衣と美姫も声の主が戸部鈴だと感じたようだ。俺の心も、そうであることを願った。


「何? 知り合い? もっと寄っていいわよ!」


 リーエルが、とんがり帽子の女性への忠告を解除した。その女性は、焚火の前にやって来た。


「どうも……」


 そう言って、立っているとんがり帽子の女性は、やはり戸部だった。


「鈴、あんた何処に居たの?」


「無事で良かったぁ」


「リンちゃん今晩ワンワンナウ!」


「戸部!」


 美術部の仲間が戸部に、思い思いの声を掛けていた。俺は、戸部の様子をうかがっているだけでいた。先生も戸部を見詰めている様子だった。


「戸部さん、先生は嬉しいわ。戸部さんも、コスプレに目覚めたのね?」


「なんでやねん!」


 俺と猿ヤンと由衣がほぼ同時に声を揃えて叫んでいた。俺は気を取り直して戸部に話し掛ける事にした。


「戸部、俺達は元の世界に帰れるのか?」


「――今は、無理よ。イエロークリスタルのパワーを復活させる迄は無理」


「戸部、それは、どうやったら復活するんだ?」


「強大な魔力をクリスタルに注ぐの。私には無理……。あと、私の本当の名は、リントビアよ。まぁ、呼び方はリンでいいわよ」


 俺は、元の世界に直ぐに帰れないことと、戸部、いや、リンが異世界人だったことにショックを受けて喋れなくなった。皆も多分同じと思う。


「やはり、エルフが一緒に居るわね」


 リンが小さく呟いたのを俺は、聞いた」


「おい! お前が、原因なのか?」


 険しい顔をした徹也さんがリンに向かって怒鳴った。リンは、無言で懐から指揮棒のような杖を出して、美術部員達と先生とを指した……。


「おい、シカトしてんじゃねぇ!」


 徹也さんの怒りのメーターが上がってきている。やばいぞ。

 リンは、杖を持った右手を天にかかげた。


「飛ぶわよ! ワーベラ!」


 リンの叫びと共に、徹也さんと麗香さん以外の体が赤い光に包まれていた……。



 ***** 


 夜空に満天の星空、月は輝き、地上を照らしている。俺は、天をあおいでいた。

 次に、俺の目の前に城の門らしき大きな扉が目に入った。門の脇に塔があり、その横は、高い城壁が続いている。どうやら瞬間的に移動したらしい。リンが魔法を使ったのか? 凄いな。俺は、皆が居るか不安になり、後ろを振り向いた。皆は、少し離れた所に居た。安心した俺は、皆に歩み寄った。


「ここ何処?」


「わぁー、あの門、お城かな?」


「め、眩暈が……」


「わぁーでけー門!」


「皆、無事? 落ち着いて。先生の近くに集まりなさい」


 美術部の皆は、瞬間移動に興奮していた。なんか、修学旅行みたいだな。俺は、笑みがこぼれていた。しかし、それも直ぐに止まるんだ。リンの傍に駆け寄る。


「リン、徹也さんと麗香さんは、置き去りにしたのか?」


「あの知らない、二人の大人のことね。そうよ」


 リンが淡々とした口調で答えた。その感じが俺をイラっとさせた。


「何故だ! 徹也さんは、俺達を救ってくれたんだぞ!」


「知らないわよ! あの二人は、必要ないの!」


 俺とリンが大声で言い合いになった。もう、置いて逃げたくない思いが、俺にはあった。


「二人共、こんな所で喧嘩して大丈夫?」


 リーエルが見かねたのか、あきれた様な顔で寄って来て言った。思えば、リンと言い合いになることは学校じゃ、無かったな。


「こらー! お前ら何者だ!」


 門の脇の塔から大声で怒鳴り声がした。俺達は一瞬で凍り付いたように、動きと喋りが止まる。そうしていると、塔から門番兵らしき男が槍を手に持って、こちらに駆けて来る……。リンがその門番兵が確認しやすい位置へと俺達より前に出た。


「リントビア様達でしたか。失礼致しました」


 門番兵は、リンの顔を見ると納得した様子だった。それから直ぐに門は開かれた。俺達はリンの後を無言で付いて行き、城内へ入った……。

 それから、城内で食事の持て成しを受けた後、客間に案内されて直ぐに死んだ様に眠った。



 *****


  夜が明け俺達は、謁見の間と呼ばれる広間に集められた。中央に赤いカーペットがいてあり、三段高い玉座まで続いている。凄い豪華な装飾の場所だな。俺は、緊張した。

 玉座には、若く美しい女王陛下が座っていた。見た感じ同じか年下だな。段下の脇に大臣か爺やか知らんが、老人がいる。その横にリンと、鎧は着てないが剣装備の兵士の男が立っていた。


「古より言い伝えられし、予言の者達よ。ミヤマオ城へようこそ、歓迎します。私は女王のエディット」


 女王陛下が自己紹介してくれたのは良いとして、予言の者達ってなんだ? 全然わからない。一方的に言われても困る。こんな気持ちは、学級委員長を押し付けられるより嫌な気分だ。


「あの、予言の者達とは、何でしょうか?」


 先生が尋ねた。すると、女王陛下がリンを見ると、リンが頷いた。


「クリスタル輝き、この世に魔の使いの現れを知らす。魔の力で闇の世界になろう時、異界の地より黒き衣の者達現る。その者達、女エルフと共に、時の指輪と生命の腕輪を用いて、闇を祓うであろう……」


 リンが静かに語った。王家に伝わるイエロークリスタルが、ある日、突然輝きだしたのだと言う。そして、宮廷きゅうてい魔導士のリンは女王に相談を受けた。リンが調べていたら、突然に俺達の世界の学校へ飛んだそうなのだ。そして、魔法の力と持っていた宝石で生活していたらしい。学校は、魔法で理事長を魅了して潜り込み、予言の者達を探していたとか。


「リン、俺達は、予定外じゃないのか? 剣道部や弓道部が来るべきじゃないか? 美術部は、どう考えても戦闘向きじゃないぞ」


 犬養が冷静な口調でリンに尋ねる。


「私も間違いだと思ったわ。でも、女エルフが居た……」


 リンがリーエルをチラッと見て言った。


「もう、暗黒教祖と呼ばれる者が、東の廃墟はいきょ神殿に現れたと言う報告を聞いています。その者は、魔物を集め太陽のない闇の世界を企むと言う噂も。もう、あまり,時間がないのです。神の魔法具である、時の指輪と生命の腕輪は使う者を選ぶと聞きます。あなた達を信じて、この世界の運命を託します」


 女王陛下が俺達を真剣な表情で見ながら、熱く語った。うわぁ。すげープレッシャーだよ。頼む、嘘ぴょんとか言ってくれ。


「ちょっと待ってよ。私が予言のエルフだったとしても、時の指輪がないわよ。村が襲われた時に、ゴブリンに奪われたのよ」


「それじゃ、ゴブリンから俺達で奪い返すしかねぇな!」


 リーエルの絶望的な言葉を打ち消すように兵士の男が叫んだ。俺達というのは、当然俺らのこと含んでますよね? 拒否権ないっすよね? 俺は心で文句を言った。


「くっくっくっ……。悪あがきは止めておけ。おとなしく、闇に飲まれるのだ」


 そう言う老人の目は、白目までも真紅だった。老人は短剣を懐から出した。


「ギリウラス! 大臣のあなたが、どうしたのです?」


 女王陛下が青ざめた表情で、震えた声を出した。老人は、女王陛下を睨んでいた。


「や、闇の声が……。命令する。お、お、お前のひ、光を奪えと。ひゃひゃー!」


 叫ぶ老人。リンが少し後ろに下がると、兵士の男が老人を攻撃出来るポイント迄寄った。


「うおりゃー!」


そう叫ぶと同時に兵士の男は剣を抜き、大きく振ったのが見えた。一瞬だった。ゴロンと何かが転んだ。それは、ギリウラスと呼ばれる大臣で老人の切断された首だった……。

首無し胴体は、暗黒教祖のメインカメラの眼を失っただけで終わらずに、血しぶきを上げて横に倒れた。


「キャー!」


「うわー!」


 美術部員の女子は悲鳴を、男子は驚きの声を上げていた……。


「ギリウラスの奴、いつの間に洗脳されやがった? これは、急がねぇとな」


「では、ラピーチ。予言の者達を頼むわ」


 女王陛下は、その兵士をピーチャと呼んだ。


「ああ、従妹いとこのお前の頼みだからな。お任せあれ、女王陛下」


 そう言ってから、ラピーチは、こちらを向き、俺達をジッと見た……。


「よーし、お前達は鍛える必要があるな。俺は、ボダリア国の特務騎士ラピーチだ。よろしくな」


 ゴブリン退治に行く前に俺達は戦闘訓練をするのだそうだ。まぁ、今すぐ行っても死にに行くようなものだからなぁ。


「ゴブリン退治に行きたいかぁー!」


 ラピーチが突然叫んで拳を握りその手を上げた。


「……」


 俺達は、無反応だ。なんかテレビで見たことあるぞ。ラピーチの、この感じのノリ。


「お前ら、どうした? 次は、返事をしろよ……。ゴブリン退治に行きたいかぁー!」


 ラピーチが、さっきと同じ行動をした。無言だと安全の保障は無いだろうと悟る。


「おー!」


 俺は、やけくそな気分で拳を掲げて叫んだ。皆も行動は同じだった。猿ヤンは、笑顔だ。

 そして、俺は見た。女王陛下は、必死に笑いを堪える様な表情だったのを……。

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