第2話 異世界の初日

 暗い。真っ暗だ。ああ、また夢の中か? そうか、全部夢だったのか。俺は、ほっとした気持ちになった。あれ? 誰かが体を揺らしているぞ。母さんか? 俺は、寝ぼけた感じで、うっすらと目を開けた。目の前に俺の体を揺らす美姫がいた。今日の夢は違うな。いい夢だと思い、良い気分になる俺。夢だから何でもありだな。そう思い心が大きくなる。


「おはようのキスは?」


 俺は、むにゃむにゃの寝ぼけ声で呟いた。美姫は顔を赤らめて、少しうつむいた。リアルな反応に俺の脳が起動していく。俺の顔の血の気が引いた。


「何、新婚ごっこしてるのよ! こんな時に!」


 その声と同時に俺の後頭部に軽い衝撃が走る。由衣の平手のツッコミだった。俺は逆に感謝した。美姫との膠着こうちゃく状態から解放されたからだ。そして、美姫に寝ぼけてたと誤った。


「蓮ちゃん、気が付いたかい?」


 そう聞く猿ヤンの方向を見ると猿ヤンと犬養と先生が立っていた。戸部が見当たらない。俺は周りを見回した。森の中の道の様だ。つちの道が続いて、道の両脇は木がびっしりと立っていた。学校の近くで、こんな風景見たことが無かった。携帯電話の電波も圏外なのだ。


「皆、取り敢えずは落ち着いて」


 先生が言った。流石、先生。その格好ゴスロリでなかったなら尊敬するけど……。

 それから俺達は少しの時間、話し合いをしたが何も分からなかった。

 俺達が移動すると決断し、道なりに少し進んだ。すると、道の右側の森から何やらガサガサと近づいて来る気配がする。俺は、戸部であることを期待したが、現れたのは二人の知らない人間だった。一人は男性でリーゼントにした髪に黒色のスーツ姿、靴は高そうな黒の革靴だ。もう一人は、女性だ。ミディアムでパーマの茶髪、女性用のジャケットとスカート姿で高級ブランドのバッグを持っていた。


あねさん、兄貴じゃありません」


 男生がかしこまって言った。女性が顔をしかめる。どうやらカップルでないらしい。それよりも普通の雰囲気な人達でない事が判る。はっきり言うとヤクザだな。誰かを探している様だ。女の人が立場が上なんだな。姐さん、なんだもんな。態度に気を付けようと思った。


「ここに居るのは、学生さんと変な服の女が一人だ。大丈夫だよ。徹也てつや、あの人を捜して来なよ」


「はい」


 返事をして徹也と呼ばれる男は、この場を離れ、森に入って行った。


「ちょっと、そこの仮装パーティーのあんた」


 そう言って姐さんが先生を手招いた。


「ふふふ」


「はははは」


 姐さんの、先生に対する呼び方に思わず笑う俺と猿ヤン。先生の頬がふくれている。


「私を変に言わないで下さい! 教師なんです! 真黒麻夜まぐろまよって名前なんです!」


 先生は手を大きく振って姐さんへと近づいた。

 

「あんた先生だったの? それは失礼したね。私は麗香れいかよ。よろしく先生」


 それから、先生と麗香さんは少し離れて何やら話している。


「みんな、私、お化粧直しに行ってくるね……」


 美姫が、もじもじとしながら言った。


「ええ、何で? スッピンじゃん」


 猿ヤンが真面目な顔をして言った。猿ヤンの言葉が美姫の顔を赤く染めさせた。


「この、バカ猿!」


 由衣が咆哮ほうこうし、猿ヤンのお尻に必殺技の蹴りが炸裂した。


「うぁー!」


 呻き声を上げ、お尻を押さえて、しゃがみ込む猿ヤン。由衣ウイン! だな。


「バカは、ほっといて一緒に行こうよ美姫」


 そう言って美姫の手を取り、由衣は森の方へ歩いて行った。由衣ならトイレと言うだろな。


「何だよー。いてぇーよー。由衣もスッピンだろ……?」

 

 猿ヤンは、しかめっ面で泣き言を漏らした。俺の心が叫ぶ。経験を積んで大人に成れ! 


「大丈夫か?」


 俺は、そう猿ヤンに聞きながら横に座り込んだ。


 五分位経っただろうか。由衣と美姫が入った森とは対称の方から物音がする。こっちへ近づいているのが分かる。獣か? 音の感じから沢山いる感じだ。そして、その音の主達は、姿を現した。出て来たのは、革の鎧を着た胡散臭そうな感じの男達が九人。髪の毛はバサバサの長髪、一人がモヒカン刈り。手には、短剣、背には、弓と矢筒など武器を持っている。一人、二メートル超えているだろうか? スキンヘッドの大男が目立っていた。なんだ……こいつらは? 日本人じゃあ、無いな。猿ヤンを見ると何故か笑顔だ。な、何故だ猿ヤン?俺は困惑する。男達は無言で近づいて来た……。


「カッコイイなぁ。映画の撮影っすか? ファンタジー系っすよね?」


猿ヤンがそう語りかけ、モヒカン刈りでひたいにH69の入れ墨の男に寄って行った。パシッ! と鈍い音がした。その男が猿ヤンを殴った音だった。猿ヤンは、吹っ飛び転んで倒れた。


「猿ヤン!」


 俺は叫び、猿ヤンに駆け寄った。


「何だ? この猿みたいなガキは? 俺様に馴れ馴れしいんだよ。意味の解らないこと言いやがって!」


「へへへへ、お頭も気が短い」


 男達の誰かが言った。映画撮影で無いのは確かだ。でも、言葉が通じる。何故? 俺は必死に状況を把握しようとした。先生達も俺と猿ヤンの近くに集まった。


「あなた達、うちの生徒に暴力は止めてください! 何なんですか!」


「女だ。久しぶりの、お宝だ!」

 

「うひょー。たまらねぇー!」


 先生の言葉を気にもせずに、男達が歓喜の声を上げた。顔に傷が有る男が先生に近づく。


「この女どこの貴族の娘だ? 俺は、こんな女をヒーヒー言わすのが夢だったんだ」


 そう言うと、顔に傷の男は、先生の服の上から乳房を掴みムニュムニュ揉んだ。


「きゃあ!」


 先生が悲鳴を上げた。顔は、強張こわばっている。

 

「先生に汚い手で、触れるな!」


 犬養が強い声で叫び、飛びかかった。傷男は、反応して犬養の腹に蹴りを入れた。


「ぐはぁぁぁぁ……」


 呻く様な声を出し、腹を押さえ、口からよだれを流しながら、膝から崩れ落ち倒れる犬養。傷男は、倒れた犬養に更に数回蹴りを入れた。犬養は動かなくなった。俺は、どうすることもできずにいた。怒りの気持ちと恐怖が混じり合い、手が震えてくる。先生は、両手で口を押えている。


「ちょっと、あんた。いい加減にしなよ。もう動けないじゃないか」


 見かねたのだろうか? 麗香さんが止めに入った。直ぐにモヒカン男が麗香さんへ寄る。


「気の強そうな女だ。俺様の好みだぜ……。いい尻だ」


 モヒカン男が笑みを浮かべ、麗香さんの体を見詰めると、お尻を撫で回してから鷲掴んだ。麗香さんの体が一瞬仰け反る。


「俺様の女にしてやる。そして俺様の子を産ませてやる。たっぷりと楽しんでな」


「甘く見るんじゃないよ!」


 麗香さんが叫んでピシャリとモヒカン男の頬を張った。モヒカン男の顔が無表情になり、麗香さんの頬を張り返した。麗香さんの口から血が細く流れている。麗香さんは、目を細くしてモヒカン男をにらんでいた。

 先生を見ると、傷男に舌で頬を舐められていた。駄目だ。俺が戦っても勝ち目は無い。どうする? 俺の心の会議は、直ぐ答えを出した。


「うおおおおお!」


 俺は叫ぶと革鎧の男達が居る方と反対に少し走り、森に逃げ込んだ。そのまま走りながら後ろを振り返る。追っては来ない。俺は心で葛藤かっとうしていた。本当は、逃げたら駄目だ……。


「はぁ、はぁ、はぁ」


 口から心臓が飛び出しそうだ。俺は木に手を突いて息を整えていた。


「あの学生が、その仲間か?」


「はい、兄貴。おい! どうした? 何かあったのか!」


 その声のする方向に顔を向けると、二人の男が立っていた。一人は、徹也と呼ばれていた男性。もう一人は、角刈り頭、白のストライプのスーツに白のネクタイ。下のカッターシャツは、黒色だった。俺は、二人の所に寄り、あの出来事を二人に話した。


「話は、大体分かった。で、坊やは、逃げてきた訳だ。仲間を置いて……」


 兄貴さんは、空を見る様に顔を上げた。


「は、はい……」


「バカ野郎!」


 兄貴さんが俺の頬を張った。俺はぶたれた頬を押さえてうなだれた。


「ぶって悪いか? パパにも、ぶたれたことなかったってか?」


 そう言われたが、不思議と痛みは余り感じなかった。むしろそれを望んでいた。


「心に残る傷は、将来に、もっと大きくなるんだぜ。坊や」


 兄貴さんの言葉に俺は頷いた。


「よーし! それじゃ、けじめ付けさせに行くぞ! 徹也!」


「はい!」


「坊やも来な。おとこの生き様を見せてやる」

 

 俺は大きく頷き、二人の後をついて行った……。


俺達は、先生達が居る場所の近く迄戻って来た。森の木陰に隠れ様子をうかがった。犬養は、倒れたままだった。猿ヤンは、四つん這いにさせられて、スキンヘッドの大男に棒で、お尻を叩かれていた。何なんだ? あの男は! そう心で叫んだ。それから大男は、猿ヤンのパンツを下ろし、お尻を出させた。そして大男もスボンを脱ぎ始めている。ドッキング体勢か? 猿ヤンは、戦闘メカじゃない! 猿ヤンは、男の子! と、俺の心が焦る。

 次に先生を目で捜した。先生は、少し離れた所で一人に羽交い絞めされ、もう一人には、下半身のパニエスカートに顔を突っ込まれている……。


「麗香は、あそこか」

 

 兄貴さんの見ている方向で、麗香さんが仰向けにされて、モヒカン男に上に乗られている。ジャケットとシャツのボタンが外されて、ブラジャーが見えていた。残り五人の姿が無かった。何処にいるんだ? 俺は、変な胸騒ぎがした。


「野郎め……よし、行くぜ。坊やは、少し待機だ」

  

「はい」


 兄貴さんは、ドスと呼ばれる短刀を手に持った。徹也さんは、黒い自動式拳銃のスライドを引いた。俺は、驚いた。奴らは、出て来なければやられなかったのになぁ。と自分に、いい聞かせた。


「徹也、分かってるな」


「はい、兄貴」


 そう言うと二人は森を飛び出した。兄貴さんが走りながらドスを抜き、鞘を放り投げた。そして一目散にモヒカン男に向かって行く。俺も様子が分かる所まで近づいた。


「俺の女にのってんじゃねぇ! このボケが!」


 兄貴さんが、タックルの様にモヒカン男に、ぶつかった。モヒカン男の背中から、血しぶきが飛んだ。そして、ドスを持った右手を少し回した様だった。


「ぬあぁぁぁぁぁぁ! ガキ共以外にもいたのか!」


 モヒカン男は、口から血を垂らしながら叫ぶ。兄貴さんは、ドスを奴の背中から抜いた。


堅気かたぎとは、違うんだよ。堅気とは!」

  

 そして、兄貴さんは、左手でモヒカン男のトサカの毛を掴み、ドスを喉元に突き刺した。


「大丈夫か? 麗香」


 兄貴さんは、モヒカン男が被さらないように横へ倒した。麗香さんは涙目の様だ。


「あんた、来てくれたんだね」


「ああ。危ないからさがってな」


 麗香さんを助けた兄貴さんは、猿ヤンのいる方へ向かっているようだ。

 一方、徹也さんは、先生の所の奴等を対処するきだな。奴等が離れないので拳銃が撃てないのか? 先生のパニエスカートに潜り込んでいる奴が出てきて、短剣を抜いた。あれは、顔に傷の男だ。そして、構えて襲い掛かって行った。徹也さんが奴の間合いに入られそうになる。

 ドキューン、ドキューンと大きな銃声が鳴り響いた。周りの木に留っていた鳥が、羽ばたいて逃げて行く。革鎧の胸の部分に風穴が二つ開いて、血が流れだしていた。撃たれた顔に傷の男は、前方に倒れた。先生を羽交い絞めしていた男は、慌てて、先生を突き飛ばすと、肩に背負っている弓を手に取った。矢を取り、狙う構えに入った。徹也さんも拳銃を構えている

 男が弓を発射すると同時ぐらいに、銃声が木霊こだました。弓矢の男だけが倒れて動かなくなり、その周りに血が流れだしていた……。


「す、凄い」


 俺は、思わず唾を飲んだ。


「うがあー! お、おまえだぢ、こ、殺す! ゆ、許さだーい!」


 スキンヘッドの大男が仲間を殺されて怒り狂ったのだろう。叫んでいる。柄の長いバトルハンマーを持って振り回している。兄貴さんは、中々近づけないでいるようだ。

 俺は、隙を見て猿ヤンの元へ全力で駆け寄る。猿ヤンは、四つん這いのまま、遠くへ行こうとしていた。


「猿ヤン、大丈夫か? 立てるか?」


「蓮ちゃん……」


 猿ヤンは、涙を流していた。俺は、戻って来て良かったと心の底から思った。


「泣くな、猿ヤン。まず、パンツとズボン履け」


「うん」


 猿ヤンと俺は先生の所に歩いて行った。先生は、こっちを見ている。


「せ、先生、ただいま」


「おかえりなさい」


 先生は、その言葉だけで、俺に何も聞いたりしなかった……。

 それから、俺達は近すぎない所で、大男との戦いを息を呑んで見守っていた。

 徹也さんは、大男の背中側にいた。大男は兄貴さんを追っているような動きだ。


「徹也、ぶっ放せ!」


 ドキューンと鳴る銃声が五回轟いた。大男は体が血に染まり、膝をついた。


「兄貴! 弾丸が切れました!」


 兄貴さんが大男に近づき様子を伺っているようだった。


「徹也、もう、いいだろう……。うっ!」


 兄貴さんが呻き声を上げた。背中に矢が三本刺さり、スーツが血で赤く染まっていた。


「兄貴ー!」


「来るんじゃねー!」


 兄貴さんが徹也さんに大声で叫ぶ。兄貴さんの後方からロングボウを構えている五人組がいた。その横に由衣と美姫がそれぞれ、手と体を縛られているのが見えた。くそ、胸騒ぎが当たるなんて! 俺は、不幸を恨んだ。


「うがぁー!」


 大男が突然叫び、兄貴さんに抱きついて立ち上がった。奴は、体を締め上げてるのか? そして、さらに幾つかの矢が兄貴さんの体全体を襲った。大男の手にも矢が刺さる。なんて、奴らだ! 仲間ごと狙ってやがる! 俺の心が憤る。


「あんたー!」


 麗香さんの絶叫が辺りに響いた……。


「兄貴ー!」

 

「徹也! 麗香を……頼んだぞー!」


 そう叫び、口の中を血で溢れさせた兄貴さんは、ドスを大男の脳天に突き刺した。大男の頭から血しぶきが上がる。


「ぶぇっ」


 大男が最後の言葉を発して、兄貴さんを圧し潰す様に倒れこんだ……。


「兄貴ー!」


 徹也さんの声が辺りに響いた……。

 俺と徹也さんで犬養を急いで、森の入り口まで運んだ。皆で一旦矢を避けて、様子を窺うことにしたのだ。麗香さんは、静かに泣いていた。徹也さんは、近くの大木を拳で殴った。やりきれないのだろうな。俺の気持ちも沈んでいく……。

 俺は、革鎧の奴等の観察をすることにした。一人の男が由衣を立たしている。男が由衣の顎を押さえた。男が顔を近づけていく。あの野郎! 由衣の唇を奪うつもりか? こっちへの挑発行為なのか? 俺の心が憤る。由衣が首を振り顔をそむけ抵抗している様だ。

 男は、頭にきたのか? 由衣のスカートを脱がし、パンティー姿にさした。パンティーは、どうもキャラクターの絵柄付きに見える。男が笑い、よろけた。由衣がすかさず、男の股間を蹴り上げ、こっちに向かって走り出した。男は、少しの間のたうち回ったが、置いてあった斧を手に取った。


「小娘がぁぁぁぁぁぁ! 許さねぇー! こ、殺す! ぶっ殺すぅー!」


 男が喚いた。声の感じで異常な怒りと分かる。男は、置いてあった斧を手に取った。

 そして、男は斧を振りかざしながら、由衣を追いかけだした。や、やばい。由衣が殺される。ここからじゃ、間に合わない。俺の心が焦りまくった。男と由衣の距離が攻撃間合い迄あと少しとなっていた。


「嫌ぁー! 助けて! 神様、助けてー!」


 由衣が泣きながら絶叫した。


「死ねぇぇぇぇー! げぶっ……」


 男の叫びが突然止まる。男の、側頭部に矢が刺さっていた。男は転がる様に倒れた。

 男の仲間たちが騒いでいる。ロングボウを手に取り、仲間をやった敵を捜している。だが、何処からか飛んで来る矢は、男達を次々と襲った。四人の男達は倒れて動かない……。

 美姫は、縛られたまま、へたり込でいる。由衣に矢が飛んで来ることは無い様だ。俺は、ほっとした。


「由衣! 俺達は、ここだ!」


 走ってくる由衣を手招いた。由衣が来ると俺は、直ぐ縄をほどいてやった。


「はぁ、はぁ、わ、私。ファーストキス守ったんだからね」


「頑張ったな。無事で良かったよ」


 息を切らしながら涙目で語る由衣に俺は、照れながら答えた。


「きゃっ! 見ないでよ。エッチ」


 我に返ったのか、由衣が顔を赤らめて、キャラクターパンティを手で隠した。俺は、慌てて、由衣に背中を向けた。


「ご、ごめん……。俺、美姫の所へ行ってくる。その時、由衣のスカートを拾ってくるから」


「ありがとう。気を付けて」


 由衣の言葉を背中で聞いて、美姫の所へ走って向かった。


美姫の居る場所の手前に転がる男達の屍は、見事に急所を矢で貫かれていた。

 美姫は、相変わらず縛られた姿で、へたり込んでいた。近くに寄ると泣いているのが分かった。無理もない。女子高校生が想像も出来ない体験だもんな。俺も泣きたいくらいだ。


「美姫、大丈夫? 怪我は、ない?」


「蓮輔。き、来てくれたんだね。わ、私、怖くて動けなくて……」


「今、縄をほどくから」


「うん。お願い」


 俺は美姫の縛られている縄をほどきにかかった。きつく縛ってあり、ほどけない。


「あっ」


 美姫のその声に反応して、俺は美姫の向いている方向を見た。

 沈みゆく夕日に照らされて、金色の長い髪に大きな尖った耳の女性が立っている。その女性は、緑色のワンピースのような服の上に同色の革鎧、腰に茶色いベルトをしている。あと、腰には剣を装備して、矢筒を背負い大きな弓を左手に持っていた。彼女は、ゆっくりと近づいて来る。

 美しいその女性の存在は、この場所が異世界であることを俺に確信させた……。


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