017 そのころのお姫様と下僕

 それは小学3年生の遠足のときのことだ。隣町の史跡や染色工場とかを見学する予定だった。

 昼はモンキーセンターで弁当の予定だったが、そこに屋台も出ていておやつを買うことができた。チョコバナナとかな。

 その中にトルコアイスの店もあって晴子もそこに並んでいたのだが、店員がアイスを渡すふりをして渡さないパフォーマンスを念入りにやりすぎたせいで、人にからかわれ馴れていない晴子はブチ切れて急に走り出していなくなってしまったのだ。

 そのあと出発時間になっても上倉晴子はバスに戻ってこなかった。予定を狂わせたくなかった担任のセンセイは、後で迎えに来るから晴子を探して待機していろと村瀬鍾子とおれに指示して次の見学場所に向かおうとした。

 それだけでもかなりのクズだが、センセイは出発直前になって見学のお礼の挨拶を鍾子に頼んでいたのを思い出して鍾子を連れて行ってしまった。結局はおれひとりが置いて行かれたのだった。思い出したらまた腹が立ってきた。岩見久慈クズ子め!


 そしておれは遊具の中に隠れていた晴子を見つけ出した。トルコアイスを買ってやったらようやく機嫌を直した。店員も悪いと思ったのか大盛りにしてくれたっけな。金はしっかり2人分取られたが。

 その後におれと晴子はそのままバスを待っていたのだが、しびれを切らせた晴子は歩いて帰ると言い出した。こうなると言っても聞かないのは分かっていたしどうせ途中で飽きるだろうとたかをくくっていたのだが、坂で転んで晴子が歩けなくなってしまった。本当に昔からトラブルメーカーだったな。

 それでおれは近くの家まで晴子をおぶっていって薬をもらい、タクシーを呼んでもらって家まで帰ったのだった。


 それなのに岩見久慈クズ子は責任逃れにおれが上倉晴子を唆して問題行動をさせたと言い出した。上倉家も娘が問題児だというのを隠すためにその嘘に乗っかった。

 それを皮切りにしてガッコウで何か物が壊されたり給食費が盗まれたりすると問題児であるおれが真っ先に疑われるようになった。そしてその悪名を消す機会はとうとうこなかった。


 それでもその後岩見久慈クズ子がやらかして離島に飛ばされたのがせめてもの救いか。久慈クズ子は6年生の担任になった年の卒業式で生徒の名前を呼び忘れ、式の後でこっそり卒業証書を渡そうとしてPTAの猛抗議を食らったのだ。天罰覿面、因果応報以外の何ものでもないがな。


 晴子は遠足以降、問題児のおれを躾けて監督する役目を買って出るふりをして都合の悪いことを押しつけるようになった。絶対君主だった当時の晴子にとっておれは家来以下、サンドバックというだけの奴隷だった。そう思っていたんだがな。どこに好きだという要素があるんだ?

「いつも零一を悪者にしていたのはやりすぎたとは思ってるけど、パパにそうしろと言われれば逆らえなかった。あたしの性格これも直そうと思っても直らなかったし……。で、でも零一を好きだったのは本当。ずっとそばにいてほしかった。だから……」

 それを信じるにしても他にやりようはあったんじゃないのか? 依存するようになれば離れられなくなるとでも思っていたのか? まあ実際に自分が親やオトナにそう洗脳されているからな。

「いつか気持ちを伝えなきゃとは思ってたの。でも零一のママがあんなことになって、鍾子が零一とつき合うようになったせいで……結局それもできなくなった」

 ああ、おれの母さんの件も元々の原因は晴子だからな。

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