015 ゲームセンターあらし(賭場)

 丁字信伍の賭場はいくつかある。不良どもが根城にしている喫茶店の裏とかゲームセンターの2階とかだ。そこにおれも単身乗り込んで荒稼ぎしようというわけだ。ドラッグのこともあるが先に丁字の資金源を潰しておいたほうがいいと考えた。他にも目的はあるんだがな。

 おれに遊茶公大のような超常能力はない。それでも魔子マミの色の変化と揺らぎで感情の起伏は分かる。ウソ発見器の原理と似たようなものだ。


 手本引きはまず親が隠したカードを子が予想するわけだが、子のカードを見たときの親の視線と反応を見れば大体のことが分かる。大きく外れていれば魔子マミは色も揺らぎも穏やかだが、当たりの予想があれば強い反応が出る。おれはそれを材料に予想をすればいい。感情が揺れない親でもこちらが迷ったふりをしたり掛け金を上乗せしたりして揺さぶれば大抵反応がある。

 それにおれは連戦連勝するつもりは無い。むしろわざと勝ち方負け方に緩急をつけて熱くさせて退かせない。そして気がつけばパンクというわけだ。おれに潤沢な軍資金があるからこそできることだがな。


 そしてこの作戦のキモはおれが丁字信伍と顔を合わせないようにすることだ。そのために賭場にいるときは遊茶公大に辺りを見張ってもらっていた。もし丁字を呼ぶような動きがあるときはポケベルに合図をもらって退散する。もちろん公大にバイト料は払っているぞ。

 賭場で荒稼ぎするもうひとつの目的は丁字と手下の不良どもを分断することにある。どういうギャンブルだったのかの内容を見ていなければ、丁字は親をやらせた手下が熱くなったせいで自滅したのだと思うだろう。パンクで大損させられたという結果だけで手下を責めるに違いない。丁字は視野狭窄の上に短気だからな。

 そしてその結果手下がリンチに合って借金を背負わされることも容易に想像がつく。その後でおれに報復にくるところまでがワンセットでな。


 おれはその不良を返り討ちにしたあとで、「やりすぎだったな。少し返すわ」と勝った金から詫びだと言って半分ほど返してやる。そうしておいておれはそのかわり丁字と手を切れと唆すのだ。暴力バーで客が帰るとき「少し返してやるから警察には行くなよ」というよくある手口だ。もともとおれの金じゃないから困らないというのもあるがな。

 そのことに感謝したり涙ぐむ不良もいるが、さすがに単純すぎだろう。そんなことじゃ大人になったら二束三文の絵を買わされたりネズミ講に身ぐるみはがされるぞ。


 丁字信伍の賭場を3つ潰したらおれは出禁になった。まあ当然そうなるだろうな。

 そこで今度は寝返らせた不良どもに軍資金を持たせて客として賭場に送り込んだ。パチンコの打ち子と同じだ。賭場も「バクチの借りはバクチで返す」と言われれば断れない。儲けた金は勝ったら山分け、負けても返済はある時払いの催促なしという大盤振る舞いだ。丁字を潰すのが目的だからな。

 後釜で親になった不良どもが血だるまになるのは当然だ。そもそも腕が違う。寝返った不良どもはたちまち丁字に借金を返して一匹狼フリーのギャンブラーになった。


 それを見てもおれはそいつらとは自然と距離を置くようにしていた。ギャンブラーという人種はもともとそういう性質たちなのだし、別におれも人を集めて日妹組ファミリーを作りたいわけじゃないからな。たまに『つるみや食堂』で飯を奢ったり奢られたりはするが。


 これで丁字のほうは大分損させてやったな。もう一押しか。ん? ああ、上倉晴子とのテスト勝負のこともあったな。話は前後するがそっちもちゃんとやってたぞ。

 このあと晴子にも丁字を追い詰めるのに一役買って貰うつもりだったからな。本当だとも。

 ゼロワンもくどいな。つき合うとかそういうベタな展開は無いと思うぞ、多分。少なくともおれからは。フラグ? 何だそれは。

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