014 暴君殺しのプレリュード
上倉晴子はタバコだけでなくおそらくドラッグにも手を出している。
このガッコウでの流通の元締めが丁字信伍だということは容易に想像がつく。金と権力に敏感だということもあるが、高校生への上納金の件で一枚噛んだのだろう。その後ろに暴走族、さらにヤクザがいるという構図が浮かぶ。
実際丁字のことは直接仕掛けてこなければ後回しにして放っておこうとも思っていた。
それとあえて言っておくが、晴子のことはただのきっかけだ。つきあう気はまるでないぞ? ああ、本当だ。ゼロワンもしつこいな。
遊茶公大が闇討ちで足を失くしたのは丁字に大損をさせたせいだ。
不良どもは金で縛られて丁字の手下になっていて、
そして丁字の父親は日妹慶子の貯金泥棒の片棒を担いだ郵便局長だ。
「それで次は丁字の番ってわけか。オレに何が訊きたいんだ? ただし手伝いはしねえぞ」
給食の時間に遊茶公大は
その一方で丁字はギャンブル狂だ。奴と直接対決するチャンスはこれしかない。実際に人を動かすには金がかかるということもあるし手っ取り早く金を集める方法だということもある。それを抜きにしても一攫千金を狙って刹那に金がやり取りされる状況にはまってしまったのだろう。
丁字の賭場で人気があるのはトランプを使った手本引きらしい。赤の1から3と黒の1から3を使い、親の伏せた札を読んで子がそれを当てる。色と数字の両方を当てれば参加料の300円(それ以上で3の倍数)が800円になる。そして短時間で何度でも勝負ができる。
加えてこのギャンブルには救済措置がある。色だけ当たれば100円、数字だけ当たれば200円が戻ってくる。全損でないところがミソだ。配当があることで「ボロ負けでない」という
この手本引はまず親が6枚のうちから選んだカードを桐の文箱に入れて隠し、子がそれと同じと予想したカードを場に表向きに置いて賭け金を張る。子のカードと掛け金が出そろったところで親が文箱を開けて自分のカードを場に開帳する。そして合力が掛け金を回収し配当を返すというのが一連の流れだ。
この手本引きで遊茶公大は連戦連勝したらしい。しかしそんなことが普通の人間に本当にできるものなのか?
「オレが何年小枝と暮らしてきたと思ってんだ。癖とか表情とかの情報がダダ漏れのやつの6分の1なんて外すわけねえだろ?」
いやお前、簡単に言うが絶対サトリか何かだろ! いっそギャンブルで、いやそうでなくても行動心理学とか勉強したら食っていけるんじゃないのか?
そして公大は丁字信伍を引っ張りだし、どちらかの掛け金が無くなるまでの差しの勝負に持ち込んだのだという。
一時の勝負の熱気を楽しんだ後、丁字は最後の勝負で親にイカサマを指示した。
「たぶん文箱が落とし蓋になっていて、そこに別のカードが仕込んであったんだろう」と公大は言った。
それを見抜いた公大は文箱を開けるのではなく、先に他の5枚のカードを見せろと迫った。それを見れば中にあるカードは推測できるし、もし中のカードが5枚のどれかと同じだったならそれが必然的にイカサマの証拠となるわけだ。
そして公大は50万円余りの金を掴んで賭場を出た。その帰りにバイクの不良に襲われ釘バットで足をぐしゃぐしゃにされるのだが、金は腹にガムテープでぐるぐる巻きにしていてどうにか死守したのだという。
「確かに安くはなかったな。でもまあその分の生命保険も入ったし……何より小枝のためだからな」
そう言って公大は話を締めくくった。馬鹿野郎、泣かすなよ。コーラ飴食うか?
遊茶公大に負けた頃から丁字信伍は余計に権力や金に執着するようになった気がする。オタクと侮っていた公大にまんまとしてやられた。そのことで仲間の不良どもからの嘲笑を買ったせいもあるだろう。
ドラッグに関わったのもそうだ。もしかそのきっかけは挫折という現実から逃がれるために自分から溺れにいったのかもしれないが。案外脆いものだな、積み上げるだけの人間のプライドというものは。どこかの少佐かよ。
それでも丁字のやっていることに同情する点は何も無い。天に唾を吐いた結果、あるいは身から出た錆というだけだ。むしろ
そもそも
とりあえず
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