012 青春金網デスマッチ VS.【荒れ狂うダンプカー】井ノ上琢郎
「逃げずによく来たな。度胸だけは認めてやるぜ」
次の日の放課後、
井之上の
「
卑怯な手を使ったのは鹿目のほうだ。それにこの状況はどう違うんだ?
囲んでいる中には竹刀を持った奴もいる。児島草平も竹刀を持って
「ハンデだ。ほれ、好きに組ませてやるよ」
井之上が腕を下げたまま近づいてくる。組んだらお得意の怪力で振り回すつもりだろう。そして組むのを嫌がって退がれば周りの奴らの的になるという二段構えの仕掛けだ。
それでハンデのつもりかよ。ブヒブヒ言いながら近づいてくるなよ、
「ブタじゃねぇ! ぶっ殺されてぇのか、クソ雑魚が!」
私おれはさらに後ずさるふりをする。しかしそこから急反転して児島に突撃する。竹刀を奪い取りそのまま頭に二度三度と打ち下ろす。油断大敵だな、小物オブ小物。
「何やってんだ、コラ!」
それには応えず井之上に向き直り竹刀を構える。上段に取るとやつも身構える。
だが
さあ、つぎはどいつだ? そう目で訴えると皆が竹刀を放り出す。かしこい判断だな。そうやっておとなしく見ていろ。これでようやく井之上と
「卑怯だぞ、てめえ! 竹刀を捨てろ!」
お前もブーメランか。またブーメランの説明が必要か? ブーメランとは……
「うるせえ! いいから柔道で来いって言ってんだよ!」
いいだろう。反則勝ちじゃお前も納得しないだろうからな。
しかし井之上琢郎は組むと見せかけて
続けて蹴りにきた膝を下から抱えて後ろに居反りで放り投げる。そのまま抑え込もうとしたが井之上は反応よく起き上がって追撃を許さなかった。
「キャプチュードだと! てめえ……そのパワー、
気付いたか。お前の力を見積もって【強化】をかけたんだ。これでハンデは無しだ。もちろんやりすぎないように十分加減しているぞ。イジメカッコワルイ。
気合いを入れ直し井之上が組んでくる。やっと柔道で勝負する気になったのか。しかし
井之上が引き寄せようとするタイミングで道着を掴んだ手を一直線に矢のように突き出す。腰を落とし刹那に打撃を重ねる。
食らった井之上の動きが止まり、
「な、なんだ、これ? おぶっ、気持ち悪りぃ……」
重ね打ちはやりすぎだったか? 頼むから吐くなよ。
お約束だから言っておくか。井之上、お前の負けだ。ワン・ツー・スリー。
その場に井ノ上琢郎を寝かせて気を送ってやる。やりすぎた分サービスしておくか。それでもぶり返すことがあるからしばらくはおとなしくしてるんだな。
あとは後輩の部員どもがなんとかするだろう。そう思って立ち上がったときに児島草平と目が合った。いいとも相手になるぞ。
「いやそれは……お、おい! お前らやっちま……な、何だよ、やれよ!」
そう言って児島は辺りを見るが、誰も動こうとはしない。賢明だな。
それで児島、お前はどうするんだ? ハンデなら竹刀を使ってもいいぞ。それとも今度は丁字を呼んでくるか? お前はあいつにケツ持ち代が払えるのか?
丁字信伍のあだ名は【手を汚さない暴君】だ。上納金で高校生をバックにつけ不良どもを従え、もめ事に首を突っ込み解決料という名目で弱い人間から金を巻き上げる。手は汚さないが心は金に汚れたハゲタカだ。大喜利か。
「くそてめぇ……覚えてろよ!」
児島は見事な逃げっぷりで第2体育館を飛び出していく。それを冷ややかな目で追う後輩部員たち。またひとつ居場所を失くしたな。
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