003 混ざりあう赤と青の世界 

 朝におれが目覚めたのは布団の中だった。目覚ましがわりに仕掛けたラジオが鳴っている。上を見ればロッキーのポスターが貼ってある。おれが見知ったいつもの天井だ……。


 しかしおれって何なんだ? ぼく・・は「私」の趣味に合わない? 悪かったな。処世術ってやつだよ……って言うかお前は誰なんだ? ヴィッキー01? ゼロワンと呼んで構わない? ……ああ、ようやく思い出した。


 そうだ。あの夜死に瀕していた日妹零一は宇宙から来た「私」、ゼロワンと【同化】しておれになったのだ。

 あのときゼロワンは死にかけた日妹零一の体に入り込んできた。そして失った血を補完し混ざり合い体を治療し、今は脳や臓器だけでなく全身の細胞をくまなく駆け巡っている。


 ゼロワンは宇宙人では無い。厳密に言うと生物では無い。単細胞生物を模して人工的に作られたバイオナノマシンの群体だ。極小の有機ロボットの集合体、アメーバとかスライムが近いだろうか。未来のテクノロジー、オタクには興奮モノのまさにSF的な存在だ。

 しかし日妹零一がゼロワンに体を乗っ取られ支配されているわけでは無い。例えればクマノミとイソギンチャクのような共生関係や常在菌に近い。日妹零一というスポンジにゼロワンという液体洗剤が染み込んでいるイメージ……マッシュアップ? 音楽のクロスオーバーやフュージョンがデジタルに進化するとそうなるのか。デジタルの進化とは……ああ、これは知識のすり合わせが必要だな。夏休みは図書館めぐりでもするか。いきなり未来の百科事典を頭に詰め込まれても消化しきれない。


 おれは起きてジーパンとシャツに着替えた。机の上の遺書も回収しておく。人に見られたら日記どころのダメージじゃ無いからな。

 ここは日妹家から徒歩5分離れた所に建てられたボロアパートだ。後妻がおれを自活訓練と称してここに放り込んだのだ。月に10万円を渡されて足りるだろうと言われたが生活費はかつかつだ。3万5千円の家賃も普通に取られる上に水道光熱費の支払いもあるからな。当然電話なんか引いていない。エアコンもな。ポケベルは世の中にはあるがあれは一流商社の社会人とか金持ちの持ち物だろう。

 えっ、一人が一台電話を持ってる? ああ、ゼロワンはそういう未来・・・・・・から来たようなものなんだな。おれが想像できないだけで。


 出かける前に冷蔵庫の作り置きの麦茶を飲む。たまに後妻が合い鍵で侵入して嫌がらせをするのだが、今日は酢とかめんつゆとかは入っていなかった。まあ入っていても今の私おれには【分析】で分かるし【分離】すればノーダメージだ。

 玄関でスリッパをスニーカーに履き替え、ドアに鍵をかける。この鍵も【再構成】して作り直すか。最近は愛情表現・・・・とやらも度を超してきたからな。

 しかしもうそろそろおれの番でいいだろう。やり返して構わないよな?



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る