002 失われた伝説を追い求めて
宇宙の闇だけがキャノピースクリーンに広がっている。生命維持装置と連動した単調な電子音が、明滅を繰り返すディスプレイの文字と相まって孤独を刻む。
ただ命を繋ぐだけの日々を過ごすうち「私」はこの逃亡生活にすっかり倦んでしまっていたようだ。そんな気がするだけかもしれないが。
惑星シャンバラを遠く離れ、先日の襲撃ではついに母船『ブルフロッグ』を失い今は還る術もない。現在「私」の乗る小型宇宙船『クラポー』は探査採取を目的とした作業用の船外機だ。地球へ向かっているのも燃料を遣り繰りする慣性航行だ。
地球を目指しているのは偉大な錬金術師アレックス=クロウディを救うためだ。
主人であり師でもあるアレックスは、今は国家転覆を謀った犯罪者の汚名を着せられ亜空の牢獄に封じられている。
ことの起こりは偉大な錬金術師アレックス=クロウディがギルバート=メイザースの謀略にはまり反逆者の汚名を着せられたことだ。
2人はもともと錬金術の深淵に魅せられた同志でありライバルだった。しかしアレックスの
錬金術の究極の目標のひとつは新たな生命、すなわちホムンクルスの創造だ。ホムンクルスはロボットとは違う。あくまで有機体をベースにした人間に近いものを目指している。そしてアレックスはその完成にあと一歩のところまで迫っていた。
その成果に嫉妬したギルバートは【
その証拠を用意したのは【B∴D∴N】だ。彼らはその傘下に軍需部門も持っている巨大結社だ。ギルバートの焦りの裏には彼らから多額の資金援助を受けていたプレッシャーもあったのかもしれない。反対にアレックスは【B∴D∴N】から援助を受け取らず距離を置いていた。それが奴らには気にくわなかったのもあるだろう。
地球は辺境であるが錬金術師の太祖である【はじまりの5人】の生まれた星だ。そして地球には彼らの弟子がまだ残っているかもしれない。彼らの力を借りることができるならばもしかしたらという師の言葉に一縷の望みをかけて、「私」はカミーリャを連れてシャンバラから逃走したのだ。
カミーリャこそが偉大な錬金術師アレックス=クロウディが作り出した
カミーリャは学習に基づいて指示されたことを淡々とこなすがそれだけで、自発的に行動することはできなかった。
ホムンクルスが感情を持って自立することができるのか。性交によりホムンクルスが子孫を残すことができるのか。それはホムンクルス同士でも可能なのか。そうした検証が未達のまま我が師は投獄されてしまった。
カミーリャを手に入れられなかった【B∴D∴N】は執拗に「私」たちを追ってきた。さらに懸賞金がかけられたせいで悪党どもまでが群がり血眼になっていた。
そして地球を目前にしながらも「私」たちは賞金稼ぎどもに追いつかれ、戦闘の末に母船『ブルフロッグ』とカミーリャを失ってしまったのだ……。
そうして「私」は全てを失ってしまった。もはや彼女なしに【はじまりの5人】の弟子らの助力を得ることは難しいだろう。言ってみればもうすでに「私」が地球へ向かうことは意味の無いことなのかもしれない。それでも「私」がやれることはもうそれしか無い……。
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