20話-初仕事で命の危機!?-

「わ、解った! 魂をカリュ……カリュマン・ブレッヒェンに貸す!」


 僕は大きな声で、カルマンに魂を貸すことを宣言した。


 だけど緊張からか、それともカルマンへの恐怖からか、名前を噛んでしまったからかなにも変化は起こらない。


 化け物が暴れ狂っているだけで、僕たちの間でシーーンとした微妙な空気が流れる。


「えっと──。なにも起こらないけど……?」


 そんな空気に耐えきれず、僕は困惑したままカルマンに助けを求めた。


「はぁ──、おまえなぁ……。人の名前を噛むなよ。あと、フルネームじゃなくていい。あんなに俺とは仲良くしたくねぇ。って言いながら、フルネームで覚えているのも凄いな」


 カルマンは溜め息を漏らし、呆れ返ったあと


「俺に魂を貸すイメージをしろ」


 と投げやりな態度で、二つ目の方法を教えてくれた。


「……えっと……。魂ってどんなイメージ?」


 魂を貸すイメージをしろ。と言われても、魂なんて実際に見たことがない。


 それなのに、イメージしろと言われても、想像できるはずがない。もしできる人がいるならば、その人は天才だと思う。


 僕は肩を竦め、カルマンを見つめる。


「はぁ、だるっ。さっき、俺が使っていた炎だ」


 カルマンは深い溜め息のあと、なにかボソリと呟き、魂がなんなのかを教えてくれた。


「えっ……? わ、解った!」


 なんて言ったのか解らないけど、あまり良いことを言っていない気がする。


 不機嫌なオーラを全身にまとうカルマンに怯えながらも、未だにピンとこない魂、というモノをイメージするため僕は目を閉じる。


 さっき見た炎を、カルマンに渡すイメージ……。


 無色透明な炎をイメージすれば良いんだよね? 無色透明……? うーん、よく解んないけど……。


 そう思いながらも、自分なりにイメージしてみた。


 その瞬間、身体からフワリと、ナニカが抜ける感覚に支配される。そのあと、全身が急に重くなって目の前がチカチカし始める。正直、気分は最悪。なにこの感覚……。


 それに、なにもしていないのに、疲労感が溜まっていくような気だるさは……。


 僕は、なんとも言えぬ体の不調ををこらえつつ、カルマンからの指示を待った。


魂を守護するモノツカイマがいないのに、よく立っていられるな。少しは見直した」


 カルマンはそう言いながら、目に視えないナニカを受け取るような仕草を見せる。すると、さっきまでなにもなかった手元に、鋭く尖った大鎌が現れる。


 どういった原理なんだろ? 手品かなにか? そう思いながらも、僕はなにもできない。体に鉛が貼り付いたように動かない。


 だから、カルマンと化け物の攻防を近くで見守るしかなかった。


 カーンッ──。


 キーンッ──。


 大鎌と鎌がぶつかり合い、鋭い金属音が空気を斬り裂く。


 その衝撃波が周囲へ広がり、目に見えない空気の刃を作り上げ、木々なんかを軽く薙ぎ倒して行く。


 二人の戦いを一言で表現するならば、『凄まじいほどの攻防戦』。迂闊に近づけば生命いのちを落としかねない。そんな緊迫した空気が張りつめている。


 そして、この戦いに優劣を付けることも難しいと感じる。少しでもタイミングがズレれば、どちらも致命的なダメージを負う。戦闘経験のない僕でもそう理解させられるほど、激しくぶつかる二人に瞬きするのも忘れ、ただただ圧倒され続けた。


 そんな両者が激しくぶつかり合い、最高潮に達した最悪のタイミングで、僕の体に異変が訪れる。


 カルマンが鎌を振るう度、僕の体に強烈な痛みが走り始めた。まるで、心臓をグッと誰かに掴まれているような、そんな感覚。それと同時に鼓動が早くなり、息が上がっていく。


 なにもしていないのに急にどうしたの? 考えても解らない。


 視界がぐにゃりとボヤけ、力が抜けるような感覚に陥る。


 今はダメ! こんなところで気を失えば、戦いに巻き込まれ死んじゃう! 気をしっかり持たなきゃ! そう抗おうとするけどできなかった。


 カルマンが再び化け物に鎌を振るった瞬間、僕の視界がフッと暗闇に覆われフェードアウトしていく。


 最後に見た光景は、おぼろ気だけど……。鎌に小さなヒビが入っていたような、そんな気がする。

 

 どれだけ凄まじい威力で戦っていたんだろう? いやそれよりも……。これが魂の使命こん願者ドナーとしての、初仕事になるのかな……? あんなところで意識を失えば、死んだも同然。このまま僕は──。


 あ〜、死にたくないな……まだ生きていたい。


 遠退く意識の中、僕はそんな願いを抱きながら、完全に意識を手放した。

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