27話-突然の再来〔前半〕-



「ねぇリーウィン? やっぱりもう少しお話しないかしら?」


「えっ? でも、もうすぐ日が沈んじゃうよ?」


「大丈夫よ!」


 本当はお互い直ぐに帰る予定だったんだけど、そう言い無理やり僕を引き止めるから、ちょっとだけ大図書館の前で、昔話に花を咲かせていた。


「──それでね〜!」


 基本的に話すのはヘレナがメインで、僕は聞き役に徹する。そういえば昔もこんな感じだった気がする……。朧気に思い出してきたかも……。そんなことを思いながらヘレナの話に適当な相槌を打っていると、僕の影の中からフェルがニョキッと、辺りを警戒しながら顔を出す。


「フェルどうしたの?」


「ナニカ来るガウ」


 僕が呆気に取られていると、フェルは僕にそう一言、全身の毛を逆立てなにかに対し威嚇する。


「えっ? なにが来るの?」


 周りを見回しても特になにもない。早足で帰路へ着く人々が往来しているくらいだ。僕は、フェルの言っていることを理解できずにいた。


 今日はどうしたんだろ? 警戒態勢のフェルに小首を傾げる。


「アイツガウ」


 フェルは、雲と沈みかけの太陽しかない空を見上げ、上からなにか来ると言う。


 僕はなんだろ? なんて目を凝らしてみると、なにやらこちら側に、凄まじいスピードで飛んでくるナニカに気づく。


 キューウウウウウウ。


 僕がそのナニカを認識したと同時に、そんな鳴き声が響き、僕の頭上を大きな影が通り過ぎる。


「あれなに!?」


「鳥──かしら……?」


 ヘレナは、あれを焼いて食べれば美味しそうね。なんて、呑気に冗談を交え笑うけど、そんなことを言っている場合じゃない。


 急に現れた鳥に驚き、僕たち以外の周りの人たちは、やはり我先にとどこか避難できる場所はないか!? と必死に辺りを見渡し逃げていく。


「あんなに大きな鳥はいないと思うけど……」


 僕はそんな人たちを横目に、ヘレナのことだ。頭上を飛ぶアレはなんなのか。と話つつも、アレを食べようとしている。きっと冗談ではないんだろう。なんて薄々気づき始め、逃げるよりも先に、無意識に溜め息を零していた。


「アイツは敵ガウ! 攻撃体勢に入ったガウから、自分の身は自分で護れガウ!」


 フェルがそう言うと、鳥に似たナニカは、緑色の羽根を羽ばたかせ突風を生み出す。


 それと同時に逃げ切れなかった人たちが、突風に巻き込まれ、体を宙に浮かせ、悲鳴が大きく響く。


「きゃぁぁぁ!」


 そして僕の近くでも……。


 なに!? そう思い辺りを見渡すと、ヘレナは強風で、体を浮かせていた。


 僕はこのままでは他の人たち同様に、ヘレナも宙へ巻き上げられることを理解し、慌てて大図書館の門の柵上部分を掴み、ヘレナの手を強く握る。


 それと同時に影からヘレナの魂を守護するモノツカイマらしき生き物が姿を現し、ヘレナを護る様に盾にな──れる大きさじゃなくて、強風に飛ばされそうになったところをヘレナが捕まえる。


 ヘレナの魂を守護するモノツカイマはなにをしたかったのか? 僕は意味が解らず一瞬、呆然としかけた。だけど、呆然としている暇はない。


 今はこの事態を収束させることが先決だ。


「フェル、どうすればいいの!?」


 僕はそう思いながらフェルに指示を仰ぐ。


「オレサマに聞くなガウ! こういう時は魂を遣う者シシャを呼ぶのが早いんじゃないのかガウ?!」


 フェルはそう言いつつも、攻撃をしようとはしない。


 僕に力があるといっても、それは誰かを癒す力だけ。なんの戦闘の役にも立たない。


「フェル! いつもみたいに、火を吹いて撃退してよ!」


 それを理解しているから、僕はフェルに必死に頼み込んだ。


「この風じゃこっちに飛んできて、オレサマが火傷するガウ!」


 だけどフェルは、状況を判断する能力が有るのか? 火を使うことを頑なに拒否する。


魂を守護するモノツカイマが火を吹けるわけないじゃない!? って言っても、そう言えばあなたの魂を守護するモノツカイマは火を吹いてたわね……。まぁ、この状況じゃ火は不味いわ……。ロッテ! 教会に連絡取れるかしら?」


 ヘレナは一瞬、冗談を言うなと僕に怒りかけたけど、以前フェルがやらかしたことを思い出し、溜め息をつくなりヘレナの影から出てきたフェニックスの様な、赤く燃え上がる被毛を持つ小さな魂を守護するモノツカイマに命令する。


「ピィィィ!」


 ヘレナの魂を守護するモノツカイマは、そう一声鳴くと動きを止める。


「ピピィ!ピピピピィ!」


 数分後、ヘレナの魂を守護するモノツカイマは、ヘレナになにかを一生懸命伝える様に、鳴き出す。


 なぜ、この魂を守護するモノツカイマは、人語を話さないんだろう? 僕はそう思いつつも、今は聞ける雰囲気でもないから、あとで聞こうと考えナニカの様子を伺う。


「リーウィン大変よ……」


「どうしたの?」


『教会と連絡が取れないらしいわ!』


「え……どうすれば……」


 そう言えば……フェルは魂を遣う者シシャに連絡を取れ。と言っていたけど、ヘレナは教会に連絡を取ろうとした。


 教会と魂を遣う者シシャは繋がりはあるものの魂を遣う者シシャに連絡する方が早いのに、どうしてそんな遠回りのようなことをしたのか? そんなことを考えながらも、僕もそういえばカルマンとの連絡手段を持ちあわしていないことに気づく。


 僕は教会とも連絡が取れないのならばと、なにか打開策がないか? 一生懸命頭を回転させる。


「あっ! そうだわ! 良い事思いついたの! リーウィン、ちょっと協力してくれないかしら?」


「協力ってなにをすればいいの?」


「そこに転がっている、石や木の枝を取ってくれるかしら?」


 そう僕の足元付近に転がってきた、石や木の棒を取るように指示してきた。


「これをどうするの?」


 僕はヘレナに聞きながら、石や枝を風に飛ばされない様に渡した。


「そんなの決まっているじゃない!」


 そう言い、ヘレナは私の体をしっかり支えておいてね。なんて言いながら、当たり前のように石や枝を投げる姿勢に入る。


「こんな向かい風じゃ男でも難しいのに、いくらヘレナが怪力だっていっても、無理なんじゃないの!?」


 ヘレナは昔かなりの怪力で、僕は毎回その力の強さに泣かされていた。そして、今やろうとしていることを考えると、ヘレナの怪力は健在。そう仮定したとしても、この状況では分が悪いのは確かだ。


 僕たちに返ってこれば、大怪我をするからと、ヘレナに辞めた方がいいと説得した。


 だけどヘレナは、そんな僕の心配などお構いなしに、石を鳥に似たナニカに向かって、石を投げつける。


 ブシャッ


 ヘレナが投げた石は、風の抵抗を受けることなく、とてつもないスピードとパワーで、強風を生み出している鳥に似たナニカの左目に命中する。


 ヘレナの人間離れした力は、これほどまでに凄まじい威力があったのか。なんて驚き、唖然としながらも昔、


「力加減しているわよ! リーウィンが弱すぎなのよ!」


 なんて言っていたことを思い出す。


 キュウウウウウウーー!


 鳥に似たナニカは、そんな悲鳴のような鳴き声を上げ、ヘレナの過去を思い出しながら呆然と立ち尽くしている僕目掛け、勢いよく飛んでくる。


 僕がハッとした時には、もう鳥に似たナニカは僕のすぐ側まで来ていて、咄嗟に目を瞑った瞬間、ポケットの中が光り出す。


 僕は、なにが起こっているのか解らず、目を瞑っていても見える眩い光をポケットから出し、ソレ目掛けて投げつける。


 鳥に似たナニカは、その眩い光に目を眩ませたのか独特な鳴き声を一声あげたあと、多分動きを止めたんだと思う。羽根の音が聞こえなくなった。


 それと同時にフェルが


「ソレ美味そうだなガウ! オレサマに寄越せ!」


 とかなんと言い、僕が目を開けた瞬間、とても俊敏な動きでパクッ。と口に含み、なんの躊躇もなく呑み込んだ。


 フェルが虹色の玉を飲み込むと、フェル自身がキラキラと虹色に光り輝き始める。


「オレサマ光ってて、めちゃくちゃカッコイイガウ!」


 フェルは虹色に輝く身体を見て、とても誇らしげにイケているだろう! と、僕に自慢してくる。


「なんか……すごい光景だね……」


 僕は、そんなフェルを見て、冷静に気持ち悪いと思ってしまった。


 ピィィィィ!!


 だけど、そんなどうでも良い話をしている間に、目が戻ったのか鳥に似たナニカは首をぶんぶんと大きく振り、咆哮に近い鳴き声とともに、僕たちに襲いかかろうとする。


 かなり怒っている……。 やばい殺られる!


 サッ


 そんなことを考え、この命もここまでか……。と、諦めかけた瞬間、なにかが僕の横を通り過ぎる。


 カキーン


「ったく。せっかくの休みに仕事させんなよ! この、メテオリットくそが」


 僕の危険に現れたのは、かなりご機嫌ナナメな様子のカルマンだった。


 カルマンは、文句を垂れながらも鳥に似たナニカに、大きな鎌を振るう。


「おいそこの女! 俺に魂を捧げろ」



 カルマンって、普段から鎌なんて持ってるんだな〜。なんて思うと同時に、前回メテオリットを討伐した際には持っていなかったような……? と疑問が湧き上がってくる。


 だけど、僕のそんな疑問を払拭するようにカルマンは、ヘレナにごうまんな態度で指示を出す。


「あなた誰よ!? 初対面のレディに向かって、命令口調なんて最低ね!」


 ヘレナはそう言いながらも、緊急事態だし今回は貸すわ。と不服そうに承諾し、カルマンの名前を聞く。


 ちなみに、ヘレナは忘れていると思うけど、ヘレナもカルマンも以前、顔を合わせ言い合いをしていた。


 だから厳密に言うと今回が初めてということは決してない。


「記憶の欠片に眠りしファヌエルよ。赤き鎧で、迷い子たちに希望のベールを」


 どういう原理なのかは解らないけど、カルマンは魂の貸し出し契約をしないまま、ヘレナの魂に命令をだす。


 ヘレナの魂はその命令通り、赤いゴツゴツとした鎧のようなベールを展開させ、僕たちの周りに広がった。


「どういうことかしら? 私、あなたの名前を聞いていないわよ?」


 ヘレナはとても驚いた口振りで、僕の方を見てきたけど、僕も状況がいまいち掴めず、ただただ小首を傾げることしかできなかった。

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