36話-2人ともなにしているの? えっ、君は誰?〔後編〕


 どれくらいの時間が経ったんだろ? 魂の使命こん願者ドナーについてある程度、理解できたしと思って、フェルを迎えに行ったんだけど……。フェルは魂を守護するモノツカイマ預かり所から忽然と姿を消していた。


 その代わり、辺りはなぜか騒がしい──。なんか嫌な予感が……。僕はそう思いながら騒ぎがする方へ向かった。


 騒ぎの現場に着くと、カルマンと……。僕より十数センチほど、身長の高い細身の少年が険悪なムードで睨み合い、取っ組み合いをしている。


 あの子どこかで見たような……。まぁいいや。それよりも、普通にフェルも騒ぎの現場そこにいた。


 フェルは、紙で作ったと思われるシャンスを両手に、片足づつ床に着け、体をリズミカルに揺らしながら二人を焚き付けている。


 それから。なぜか解らないけど、二人は消えかけの弱火に囲まれている。多分、これもフェルの仕業じゃないかな? はぁ──問題行動は起こさないでよね。って言ったじゃん!? そんな呆れを覚えながら、僕は胸中で溜め息を漏らし、息を飲む。


 沢山の野次馬に囲まれ、白熱した現場に乱入するのはかなり怖い。カルマンともう一人は正直どうでもいい。だけど、フェルは回収しなきゃ……。あそこに行くの? えっ……やだよ……。そんな風に躊躇っていたけど、僕はこの騒動に終止符を打つため、腹を括り野次馬を掻き分けフェルに近づく。


「なんだ、あいつ? 止めに行くのか!?」


「いや、参戦するんだろ!」


「いやいや! それはないだろ! あんな内気そうな女が参戦するとか、正気の沙汰じゃないぞ!?」


「人は見かけによらないとか言うし、判らなくないか? 女だからといって甘く見るのは良くないぞ!?」


「なんするんだろうね?」


 僕が一歩、前に出ると、そんなヒソヒソ声が飛び交い始めた。


 いや、僕、男だし。それにフェルを回収するだけなんだけど!? 内心そう呟きながらも、周りの視線がとても痛い。逃げだせるなら、こんな場所から早く逃げだしたい! そう思いながらもグッとこらえ、僕はフェルの背後に忍び寄り、


「フェル、なにしてるの?」


 声のトーンを落とし首根っこを掴む。


 フェルは気を抜いていたからか、あっさりと僕に捕まってくれた。


 もし警戒されていたら、とても臭うナニカを投げつけてきたと思う。そして、二次被害を産んで……そうなれば一環の終わり。周りに被害が及ばなかったのは、不幸中の幸いだったかも。


「ん? なんだ、オマエガウか! 見れば解るだろガウ! 祭りを盛り上げてるガウ!」


 そう安堵していると、フェルはなにか閃いた! そう言わんばかりに目を輝かせ、とても臭いナニカを投げ始める。


「おい! あの魂を守護するモノツカイマ、あいつのだったんじゃねぇか?」


「そうなのか……?」


「よく見ろ! なんか茶色い粘土質のモノを投げ始めたぞ?」


「……? 臭っさ──っ! ……あぁそうだな……。そうらしいな……。火を拭いたり、臭いモノを投げたり……。あの魂を守護するモノツカイマなんなんだ──」


「だろ?」


「人は見かけに寄らない。なんて言うけどアレはちょっと、まずくないか?」


「だな。多分、一発出禁が妥当な処罰だろ」


 僕がフェルに声を掛けると、周りの声が一変し、非難の声に変わっていく。


 制止しに来ただけなのに! 内心そう思っても、それを言う度胸がない。僕はそんな声に、耳を塞ぎたい気持ちを我慢し、フェルを現場から引き離そうとする。


「ナニするガウ!」


 だけど、相手はお祭りごとが大好きなフェルだ。そう言い、僕の腕を噛もうとしてくるから慌てて手を離し、


「そんなことしちゃダメ! ──あっ……」


 そう叱りつけた。


 ドテッ


 僕がそう怒ったと同時に、フェルは床に落ちてお尻を強く打ち付ける。


「痛いなガウ! ナニするガウか!?」


 フェルは、そんな僕を涙声でキッと睨みつけ、八つ当たりに近い抗議を始める。だけど、これはフェルの自業自得。


「フェルが悪さをしたからでしょ!?」


 僕は内心、溜め息をつきつつ、そう説教する。だけど、フェルは腐ってもフェルだ。まともになるわけがない。


「オレサマの好きなようにさせろガウ! 指図するなガウ!」


 なんて言いながら、そのあとも滅茶苦茶なことを喚いて暴れ回る。


 はぁ……。なんで僕の周りは自我が強い人ばかりなの? そんな呆れを覚えていると


「なにをしているんだ!」


 事態は思ったより大事おおごとになったらしい。大図書館の最高責任者が、救急隊や警備隊を引連れ、僕たちに怒鳴り付ける。


 来ることは想定済みだったけど……それはフェルを回収したあとに来てくれないかな? そんな僕の不満は意味をなさない。


 運が良かったのは、本に飛び火したり、破損することがなかったことくらい。あ、でも──。カルマンと取っ組み合いをしていた少年の髪が少し燃え、天然パーマなのかな? 少しウェーブのかかった緑よりの金髪が、ちりぢりになって顔の一部に若干の火傷を負っていた。


 まあ、取っ組み合いする方が悪い! だからこれは、因果応報いんがおうほうって言うやつだと思う!


 カルマンはというと、不思議なナニカ……もしかすると魂? を使ってフェルの吐いた火からとっさに身を守ったように見える。


 そのあとは想像通りで、僕はフェルのせいで疑われ、三人と一匹、仲良く最高管理者から説教を受ける羽目になった。


 最高管理者がとても怒っている中、二人は反省せず、未だに睨み合いをしている。フェルに至っては、長い説教に飽きて最初は遊んでいたけど、欠伸をしていびきをかいて寝ちゃった……。


 そしてそんな事態を速く収拾したくて「ごめんなさい、ごめんなさい」と必死に謝り続ける僕──。


 多分、誰が見ても雑然としている空間にしかみえないと……思う。


 はぁ……ほんと勘弁して欲しい。僕、全く関係ないんだけど? そう思いながらも必死に謝罪を続けた。


「今回の主犯にカルマン様がいるということなので、多めに見て厳重注意のみにします。ですが次、また問題行動を起こせば即、出禁対応をさせていただきます!」


 最後まで最高管理責任者の人は怒りを鎮めることはなく、そう言い残し現場修復などの理由から、説教は二時間ほどで済んだ。


 ふぅ──、ようやく開放された。


 長い 説教が終わり開放されると、僕はすぐさま問題行動を起こしたカルマンと、もう一人に


「どうして、こんなことになったの?」


 と、確認する。


 巻き込まれた身としてはどうして、問題行動に発展したのか、聞かないと気が収まらない!


 カルマン曰く、


フェルこいつに喧嘩を売られて、ついでにガキにも売られた」


 と、しょうもない理由を口にする。


 もう一方は、


「静かにしろ。って言っただけなのに、絡まれた」


 と言っていた。


 うん、もうこれはアレだ。絶対、しょうもないやつだ! フェルに至っては、


「面白そうだったからガウ!」


 なんて、詫び入れることなく、悪さをしたことも理解できていない口振りで、元気よく答えてくれた。


 うん。念の為、聞いた僕が悪かった。


「はぁ……。ほんとしょうもない……」


 まあ、この原因を作ったのは、間違いなくフェルだ。カルマンにぶつかり、喧嘩を売ったと。そして、ヒートアップしたカルマンとフェルが、大声で言い合いをし、うるさいと感じた少年が、注意した。それが二人のしゃくに触り、カルマンが手をあげようとした。そこに、フェルが焚き付けて、今に至る。という感じかな? 自分で要約してみても、本当にしょうもなさ過ぎるなって思う。


「カルマン! 取り敢えず、この子に謝るべきだと思う!」


「なぜ俺が謝らないといけない?」


 長時間の説教で、最上級にご機嫌ナナメなカルマンは、そう言い僕に不満をぶつける。


 カルマン、僕に八つ当たりしてもなにもいいことないよ? そう強気で言えたらどんなにいいことか……。この状態のカルマンに、そんなことを言えば火に油。余計に怒って再度、事態を悪化させてしまう。


「えっと……あっ、まずは自己紹介が先かな? 僕はリーウィン・ヴァンデルング。こっちは、全然言うことを聞いてくれないけど、一応、僕の魂を守護するモノツカイマのフェル。巻き込んじゃってごめんね」


「え、なに? あんたの魂を守護するモノツカイマなの? 魂を守護するモノツカイマの躾もできないって、魂の使命こん願者ドナーの資格ないね」


 少年は、僕のことをギロリと鋭い視線を向けたあと、辛辣な言葉を投げかけてきた。


「いやいや! 実際、そうだと思うよ? でも君だってやりすぎじゃないか!」


 全くもって、仰る通りです。でも、取っ組み合いに発展するのはやりすぎだと思う! 僕はそう指摘した。


 だけど少年は「で?」なんてぶっきらぼうな態度で一言、僕たちと関わりたくないからと、大図書館をあとにした。


「なんなんだ、あいつは」


 カルマンは、そんな少年の背中に文句を吐き捨て溜め息を零す。


 はあ──。溜め息をつきたいのは、僕の方だよ! ほんと、短気というかなんというか……。


「もう、こういうことは辞めてよね!」


 僕は心の中で溜め息を落としながらも、そう呆れ気味に注意を促した。


 だけどカルマンは、怒りを僕にぶつける様に、


「おまえが、たぬきの面倒を見ていないのが悪いんだろ?」


 苛立ちを僕にぶつけてくる。


 いや……。ほんと、カルマンが言う通りというか……その通りなんだけど……。フェルは、三歳児みたいなモノ。そんな相手に喧嘩するなんて……。本当にカルマンこのひとは……。なんて溜め息が止まらない。


 そんな僕たちの様子をみてか、フェルは「祭りごとならオレサマに任せろ! オレサマも参加してやるガウ! 感謝しろガウ!」


 なんて腰に手を当て、誇ったようにドヤ顔をする。


 はぁ……、しんどい。疲れた。誰かどうにかして──! なにこの意味の解らない人たち! あ、フェルに関しては人じゃないか……。もうなんというか……一日の体力を使い切った感じでほんと疲れる。


 そのあとはカルマンを宥めるのにかなり時間がかかってしまった。


 いつの間にか時刻は、十六時四十五分。閉館のアナウスが流れ始め、来館者は皆、帰宅準備を進め始める。


 もう少し、本を読みたかったなぁ──。僕、最近こんなことばっかじゃない? はぁ──ほんと災難過ぎる……。そんなことを思っていると、


「そうだ。おまえにこれをやる」


 少し機嫌が納まったであろうカルマンは、退館時、思い出したように虹色に輝く玉を渡してきた。


「これなに?」


 僕は小首を傾げながら、その虹色の玉を光にあて聞く。


「そのうち解る」


 カルマンはそう言い、図書館をあとにした。


 僕はよく解らないまま、虹色の玉をポケットに入れ、帰路へ──。


 最高責任者の人が、次は出禁にする。そう言っていたから僕たちはきっと、当分の間監視対象者になるんだと思う。


 僕はそれを予想し、フェルに「次は大人しくしていること」と釘を刺しておいたけど、フェルのことだ。絶対、大人しくしない! 釘を刺している間も鼻をほじって、間抜けな顔してたもん!


 そして終わったあと、


「オマエ、なに一人でブツブツ言っているガウ?」


 なんて言ってたからね……。先が思いやられるや……。

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