25話-2人ともなにしているの? えっ、君は誰?〔後編〕

 なん時間ほど、経っただろうか?


 ある程度、魂の使命こん願者ドナーについてのことも解ったし。と思って、フェルを迎えに行ったのは良いものの……。フェルは魂を守護するモノツカイマエリアにいないし、辺りはなぜか騒がしいし──。僕は嫌な予感を胸に、騒ぎがする方へ向かった。


 騒ぎの現場に着くとカルマンと、つい最近どこかで見かけた僕より十数センチほど、身長の高い細身の少年が険悪なムードで睨み合い、取っ組み合いをしていた。


 あと、フェルも普通にいた。


 フェルは、紙で作ったと思われる、シャンスを両手に、片足づつ床に着け、体をリズミカルに揺らしながら二人を焚き付けている。


 それから、なぜか解らないけど、二人はもう消えかかりそうな弱火に囲まれている。多分、これもフェルの仕業だろう。


 沢山の野次馬のに囲まれ、白熱した現場に、乱入しなきゃいけないのはかなり怖い。


 二人はどうでもいいけど、フェルは回収しなきゃ……。僕はそう思い、野次馬を掻き分けフェルの元に近づく。


「なんだ、あいつ? 止めに行くのか!?」


「いや、参戦するんだろ!」


「いやいや! それはないだろ! あんな内気そうな奴が参戦するとか、正気の沙汰じゃないぞ!?」


「人は見かけによらないとか言うし判らなくないか?」


「なんするんだろうね?」


 僕が、フェルたちに近づこうと前に出ると、そんな声がヒソヒソと聴こえてくる。


 いや、フェルを回収するだけですよ……。内心そう呟きながらも、周りの視線がとても痛い。逃げだせるなら、こんな場所から早く、逃げだしたい! そう思いながらもグッと堪え、僕はフェルの背後に忍び寄った。


「フェル? なにしてるの?」


 僕は、声のトーンを落とし、フェルの首根っこを掴む。


 フェルは気を抜いていたからか、あっさりと僕に捕まってくれた。


 もし、気を張り巡らせていたら直ぐにバレて、とても臭うナニカを投げつけてきていたと思うから。そうなれば一環の終わり。


 周りに余計、被害が及んでしまう。不幸中の幸いだ。


「ん? なんだ、オマエガウか! 見れば解るだろガウ! 祭りを盛り上げてるガウ!」


 そう思いながら安堵していると、フェルは、なにか閃いた! と言わんばかりに目を丸く輝かせ、とても臭いナニカを投げ始める。


「おい! あの魂を守護するモノツカイマ、あいつのだったんじゃねぇか?」


「そうなのか……?」


「よく見ろ! なんか茶色い粘土質のモノを投げ始めたぞ?」


「臭っさ──っ! ……あぁそうだな……。そうらしいな……。火を拭いたり、臭いモノを投げたり……。あの魂を守護するモノツカイマの主っぽいな」


「だろ?」


「人は見かけに寄らない。なんて言うけどアレはちょっと、まずくないか?」


「だな。多分、一発出禁が妥当な処罰だろ」


 僕が、フェルに声を掛けると、周りの声が一変し、避難の声に変わっていく。


 制止しに来ただけなのに! 内心そう思っても、それを言う度胸がない。

 

 僕はそんな声に、耳を塞ぎたい気持ちでいっぱいだけど我慢し、フェルを現場から引き離そうとする。


「ナニするガウ!」


 だけど、相手はお祭りごとの大好きなフェルだ。そう言い、僕の腕を噛もうとしてくるから、咄嗟に手を離してしまった。


 ドテッ


「そんなことしちゃダメ!」


 僕が手を離した瞬間、フェルはそのまま落下し、お尻を床に強く打ち付ける。僕はそんなフェルにはお構いなしに叱るけど、フェルは叱られたのが気に食わなかったのか、僕にまでとても臭いナニカを投げつけ、


「オレサマの好きなようにさせろガウ! 指図するなガウ!」


 と、そのあとも滅茶苦茶なことを言い、暴れ回る。


 はぁ……。なんで僕の周りは自我が強い人ばかりなの? そんな呆れを覚えていると


「なにをしているんだ!」


 事態は思ったより大事になり、大図書館の最高責任者が、救急隊や警備隊を引連れ、僕たちに怒鳴り付ける。


 来ることはなんとなく解っていた。だけど、それはフェルを回収したあとに……。そんな願いは通じず……。


 運が良かったのは、大図書館の本に飛び火したり、破損することがなかったことくらい。あ、でも──。カルマンと取っ組み合いをしていた少年の髪が少し燃え、天然パーマなのかな? 少しウェーブのかかった緑よりの金髪が、ちりぢりになって顔の一部に若干の火傷を負っていた。


 まぁ。取っ組み合いをする方が悪い! だからこれは、因果応報と言うやつだと思う!


 カルマンはというと、不思議なナニカ……もしかすると魂? を使い、フェルの吐いた火からとっさに身を守ったように見える。


 そのあとは想像通りで、僕はフェルのせいで疑われ、三人と一匹。仲良く大図書館の最高管理者から説教を受ける羽目になった。


 大図書館の最高管理者がとても怒っている中、二人は反省せず、未だに睨み合いをしている。フェルに至っては、長い説教に飽きて最初は遊んでいたけど、欠伸をしたあと、大きないびきをかいて寝ちゃった……。


 そしてそんな事態を速く収拾したくて「ごめんなさい、ごめんなさい」と必死に謝り続ける僕──。


 多分、誰が見ても雑然としている空間にしかみえないだろう。


 はぁ……ほんと勘弁して欲しい。僕、全く関係ないんだけど? そう思いながらも必死に謝罪を続けた。


「今回の主犯にカルマン様がいるということなので、多めに見て厳重注意のみにします。ですが次、また問題行動を起こせば即出禁対応をさせてもらいます!」


 最後まで最高管理責任者の人は怒りを鎮めることはなく、そう言い残し現場修復などの理由から、そそくさと僕たちの前から離れていった。


 ふぅ──。ようやく開放された。


 長い 説教が終わり開放されると、僕はすぐさま問題行動を起こしたカルマンと、もう一人に


「なぜ、こんなことになったのか?」


 確認する。


 巻き込まれた身としてはどうして、問題行動に発展したのか? 聞かないと気が収まらない!


 カルマン曰く


フェルこいつに喧嘩を売られて、ついでにガキにも喧嘩を売られた」


 と、しょうもない理由を口にする。


 もう一方は、


「静かにしろ。って言っただけなのに、喧嘩を売られた」


 と言っていた。


 うん。もうこれはアレだ。絶対、しょうもないやつだ! フェルに至っては、


「面白そうだったからガウ!」


 なんて、詫び入れることなく、なにかやってはいけないことをしたのか? という様な、元気な口調で言っている。


 うん。念の為、聞いた僕が悪かった。


「はぁ……。ほんとしょうもない……」


 まぁ、この原因を作ったのは、間違いなくフェルだ。カルマンにぶつかり、喧嘩を売ったと。そして、ヒートアップしたカルマンとフェルが、大声で言い合いをして、うるさいと感じた少年が、注意してしゃくに触り、カルマンが手をあげようとした。そこに、フェルが焚き付けて、今に至る。という感じかな? 自分で説明していても本当にしょうもなさ過ぎるな。って思う。


「カルマン! 取り敢えず、この子に謝るべきだと思う!」


「なぜ俺が謝らないといけない?」


 長時間の説教で、最上級にご機嫌ナナメなカルマンは、そう言い冷たく僕を睨みつける。


 カルマン、僕に八つ当たりしてもなにもいいことないよ? なんて、強気で言えたらどんなにいいことか……。この状態のカルマンに、そんなことを言えば火に油を注ぐことになるのは一目りょう然。余計に怒って再度、事態を悪化させてしまう。


「えっと……あ、まずは自己紹介が先かな? 僕はリーウィン・ヴァンデルング。こっちは、全然言うことを聞いてくれないけど、一応、僕の魂を守護するモノツカイマのフェル。巻き込んじゃってごめんね」


「え、なに? あんたの魂を守護するモノツカイマなの? 魂を守護するモノツカイマの躾もできないって、魂の使命こん願者ドナーの資格ないね」


 少年は、僕のことをギロリと鋭く睨んだあと、辛辣な言葉を投げる。


「いやいや! 実際、そうだと思うよ? でも君だってやりすぎじゃないか!」


 全くもって、仰る通りです。だけど、取っ組み合いに発展するのはやりすぎだと思う! 僕はそう思うと同時に、そんなことを発していた。


 少年は「で?」なんてぶっきらぼうな態度で一言。僕たちとは関わりたくないからと、大図書館をあとにする。


「なんなんだ、あいつは」


 カルマンは、そんな少年の背中を睨みつつ、溜め息をつく。


 溜め息をつきたいのは、僕の方だよ! ほんと、短気というかなんというか……。


「もう、こういうことは辞めてよね!」


「おまえが、たぬきの面倒を見ていないのが悪いんだろ?」


 カルマンは、怒りを僕にぶつける様に、睨みつける。


 いや……。ほんとカルマンが言う通りというか……その通りなんだけど……。フェルは、三歳児みたいなモノなのであって、そんな三歳児相手に喧嘩するなんて……。本当にカルマンこのひとは……。なんて溜め息が溢れ出る。


 そんな僕たちの様子をみてか? フェルは「祭りごとならオレサマに任せろ! オレサマも参加してやるガウ! 感謝しろガウ!」


 なんて腰に手を当て、ドヤ顔をする。


 はぁ……。しんどい。疲れた。誰がどうにかして──! なにこの意味の解らない人たち! あ、フェルに関しては人じゃないか……。もうなんというか……一日の体力を使い切った感じがしてほんと疲れる。


 そのあとはカルマンを宥めるのにかなり時間がかかり、本を読むことも難しくて……。いつの間にか閉館時間に……。本当に災難すぎる……。


「そうだおまえにこれをやる」


 閉館時間には少し機嫌が納まったであろうカルマンは、退館する時、思い出した様に虹色に輝く玉を渡してきた。


「これなに?」


 僕は小首を傾げながら、その虹色の玉を光にあて、カルマンに聞く。


「そのうち解る」


 カルマンはそう言い、図書館をあとにした。


 僕はよく解らないまま、虹色の玉をポケットに入れ、帰路へ着く。


 家に帰って直ぐ、騒ぎの話をしたんだけど、母さんは忙しかったのか


「あらあら〜大変だったわね〜」


 と、僕の話を軽く流し、ご飯の準備に専念していた。


 最高責任者の人が、次は出禁にする。そう言っていたから僕たちはきっと、当分の間監視をつけられることになるんだと思う。


 僕はフェルに、次は大人しくしていること。と釘を刺しておいたけど、フェルのことだ。絶対、大人しくしない! 釘を刺している間も鼻をほじって間抜けな顔してたもん!


 そして終わったあと


「おまえ、なに一人でブツブツ言っているガウ?」


 なんて言ってたからね……。先が思いやられる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る