005-強者の戦い-



 会場へ着くと既にツァイトさんが来ていたようで、緊張してか少し汗ばんでいる。


「よろしくお願いします!」


 僕はそんなツァイトさんに笑顔で手を差し出す。


「よ、よろしく……」


 ツァイトさんは人見知りなのか僕の手を握り、言葉を交わしたあと顔を伏せ、目を合わせようとしてくれない。


 まぁ全員が全員人と上手く話せたり、関われたりすることはないから仕方ないとは思うんだけど……。


 もしかして嫌われてる? なんて少し不安な気持ちになる。


「ぷはぁー! よく寝たガウ!」


 そんな挨拶を交わし出番を待っていると、フェルが昼寝から目を覚ましたらしく、影の中から出てきて大きな伸びをする。


「さ〜てリーウィンちゃん♪ ツァイトくん席に着いて♪」


 それと同時に母さんは僕たちに席に着くよう促す。


 えっ、ちょっと待って!? フェルが──。


 まぁ、フェルも寝起きだし、変なことしないと思うし……大丈夫だよね? そんな不安感を抱えながらも僕は席に着く。


 席に着いてすぐ、両者右腕を組む。


 その上に母さんの暖かな両手が添えられ、


「ゲット セット ファイ!」


 その掛け声と共に僕もツァイトさんも力を腕に込める。


「面白そうだガウ!」


 力を入れた瞬間、フェルが目を輝かせ僕たちに絡み始める。


「フェル……あっち行ってて……」


 フェルに指示を出すけど、言うことを聞かないことで定評のあるフェルだ。


「オレサマに指図するなガウ!」


 そう言い、急に口から青い炎を吐く。


「フェルっ!」


(あちっ……)


 何してんのさ! ダメだよ! そう言いかけたけど、なにも言えないまま、とっさに熱いと誤認し目をぎゅっと瞑むる。


(あれ……? 熱くない……?)


 数秒後、なぜか炎が当たっているのに熱いと感じない。これはハッタリ? 僕は恐る恐る片目を開ける。


 炎は僕とツァイトさんが組んでいる手元に直撃している。


 だけど、どうして熱いと僕は感じないのか? そう考えていると、ツァイトさんは顔を歪ませ、力を弱める。


 ツァイトさんはどうやら熱さを感じているようだ。


 僕は不義を働いていることを承知の上で、その隙をつき思いっきり腕を押し倒す。


 なんとかツァイトさんに勝利したものの、不正じゃないのかと囁かれる。


 僕もそんな気はする……そう思いながら、はぁ──。と溜め息を漏らし、これはどっちが勝ったことになるんだろ? 僕は恐る恐る母さんとヌワトルフ神父の方を不安な目で見つめた。


 二人はこれが不正行為か否かを相談しているらしく、少し悩んだあと、母さんがまた戻ってきて、


「アクシデントは有ったけど〜 事前にやっちゃダメ! って言ってない私達が悪かったから、今回はリーウィンちゃんの勝利よ♪ でも次からダメよ〜?」


 そう説明した後、新たなルールを設けた。


 フェルが原因ではあるけど結果、不正を働いてしまった僕は、相手チームからとても反感を買ったのは言うまでもなく。


くどこかで聞き覚えのあるヘレナと言う名前の少女からは、


「男の癖に魂を守護するモノツカイマに力を借りて恥ずかしくないの!?」


 なんてとても詰めらるし、ほんと怖かった……。


 だけどカルマンが、


「不正に当たらないと言われたんだから問題ないだろ? あの男の運が悪かった。ただそれだけだ」


 と庇ってくれて、なんとか場は収まった……? いや、場が収まったというか、二人がいがみ合いしてる。


 そんな二人をなんとか切り離しはしたものの、ヘレナと言う少女はそのあとも怖い顔をするから、内心ビクビクしっぱなし。


 相当怒らせてしまったらしく、気が気じゃなくなってしまった。


 最後は僕たちのチームの魂の使命こん願者ドナールチルさんと先程、僕に詰め寄ってきたヘレナと言う少女との戦いだ。


 女性同士の戦いだからどちらが勝つか判からない。


 そしてなぜだか解らないけど、このヘレナと言う少女を僕は知っている。


 そんな気がして思い出そうとずっと考えた。


 ふと昔、仲の良かった少女が脳裏に浮かんだ。だけど、ヘレナと言う名前は珍しくもない。


「さっきは本当にごめんなさい」


 きっと同じ名前の別人だ。そう自己解決し、ツァイトさんの元へ駆け寄った。



「はははっ。仕方ないよこれも運だ。僕は気にしていないから、君もあまり気にしなくてもいいよ」


 ツァイトさんはとても優しく、笑顔を見せる。


 だけど僕は、どうしてもそれが許せなくて……。フェルに雷が落ちる勢いで説教と注意をした。


 フェルはうるさいと文句を垂れ、生意気な態度であっかんべーとしたあと、不貞腐れるようにどこかへ飛んで行った。


 そんなフェルにいつものことだ。なんて呆れを覚えながら会場に戻ると、女性同士の戦いはまだ続行されていた。


 多分、僕がこの場を離れていたのが三十分ほど前。


 お互い力が弱いのか、全く動かない腕に僕も周りの観客も、つまらない顔を見せ休憩でもしようとギャラリーが減りだした直後、ドンッと鈍い音が響き渡る。


 その音に、僕たちが一斉に返ると、ヘレナと言う少女がルチルさんの腕を押し倒していた。


 何が起きたのか解らないけど、どうやらヘレナさんの勝利のお陰で、相手チームは二人だけ二回戦に突入することになったらしい。


 そして少し休憩を挟みつつ、二回戦目に入る。


 二回戦目の一試合目は、カルマンとルフーラと言う少年。


 カルマンとルフーラと言う少年の戦いはなんというか悲惨だった。


 カルマンが手加減というものを知らないからか、腕を折る勢いでねじ伏せ、多分ほとんどの人たちが冷っとした汗を垂らしたと思う。


「あんた僕の腕折る気満々だったでしょ?」


 勝負が終わったあと、ムスッとしたルフーラ君がカルマンに睨みを利かせる。


「はっ? イチャモンをつけるのはやめろ。俺は普通にしたまでだ」


「腕めちゃくちゃ痛いんだけど?」


「貧弱なおまえの身体を恨め」


 そんな様子を見ながら僕は、敵をつくる言い方をせずとも、もう少し言い方を優しくしたり素直に謝罪しなよ……。なんて思った。だけど、カルマンが他人に謝罪などするわけがない……。


 うん。ルフーラ君、カルマンになにを言っても無意味だからあまり関わらないほうがいいよ。


 僕は心の中でそう呟き、次は同士討ちの戦いに行くためその場をあとにする。


「同じチームであるリーウィン君と対決かぁ〜

困ったなぁ〜」


 ラオムさんは僕の肩をポンポンと叩き、お互い健闘を祈ろうと笑顔を振りまく。


 だけど、ラオムさんは勝つ気満々だ……。その笑顔はとても圧があり正直、逃げ出したかった。


 そんな気持ちを堪え、僕は会場に向かったものの、予想は正しく一分以内に決着が着いてしまった。


 勝ったのは勿論、僕! と言いたかったところなんだけど……。ラオムさんが容赦なく力でねじ伏せてくるものだから、勝利を譲ってしまった。


 まぁツァイトさんに勝てたのも、まぐれでフェルのおかげでもあったはずだから……。



 最後の枠だったヘレナさんは、この回で戦う相手は不在。


 準決勝はラオムさんとヘレナさんの二人で行うことになった。


 その間、カルマンは休憩だ。


 ラオムさんは、休憩なしで戦うことになるからと母さんが、


「少し休憩した方が良いわよ?」


 なんて折角声をかけていたのに、ラオムさんは休憩せずともヘレナと言う少女に勝てる自信しかなかったんだと思う。


「休憩なんて必要ないですよ」


 なんて笑いながら、ヘレナさんの元へ向かい呆気なく敗退した。


 呆気なく敗退したラオムさんを見てカルマンは、


「女に負けるなんざとんだ軟弱者だな」


 なんて嫌味を垂れていたけど、ラオムさん曰く、


「余裕だと思っていたが、開始の合図とともにいつの間にか俺の腕がテーブルにくっついていたんだ!」


 とちょっとなに言っているか解らない言い訳を並べていた。


 カルマンはそんなラオムさんを見て、


「ただの負け犬の遠吠えだろ?」


 と小バカにした態度を見せ鼻で笑う。


 あの態度、ほんとムカつくんだよなぁ〜。本人は気づいていないみたいだけど……。


 だけどラオムさんは、自分の思い込みのせいで負けたも同然だから言い返せず、どれだけ笑いものにされてもグッと歯を食いしばり堪えていた。


 まぁそんなラオムさんのことを不憫にも思うけど……。自分の力を見誤り驕ったことが敗因だから、僕も肩持ちできないかな……。


 そう思いながらも決勝戦は直ぐには始まらなかった。


 決勝戦が始まったのは十分ほどたったあと。



 どちらが勝つか? それによって今後のチームの流れがガラッと異なってくる。


 僕たちは一回戦目の早食いに負けているから、二回戦目も負ければあとがない。


 念の為、五つの種目が用意されているけど、三つ勝利された時点で相手チームの勝利が確実になる。


 そうなればカルマンが荒れ狂う気しかしない。だから本人に、ここは是非とも勝ってもらいたい。


「カルマン、頑張ってね!」


 そう思いながら僕はカルマンに応援の言葉を贈る。


「フッ、俺があんな女に負けるとでも?」


 カルマンは俺を見くびるなと言う目で僕を見ながら鼻で笑ったあと、ヘレナさんの元へ向かった。


 カルマン対ヘレナ戦は、その戦いを見守っている僕たち全員が、唾を呑む程迫力があり、結末を今か今かと待ちわびる展開になった。


 両者の手が絡み合い、はじめの合図と共に、強者と強者同士のオーラのぶつかり合い。


 誰しもが唾を呑み見守っているけど、両者一歩も引かぬその攻防に時間も忘れ、魅入る。


「あなたやるわね」


「お前こそ。さっきまでかなり手を抜いていたということだな」


「そりゃ能ある鷹は爪を隠すって言うでしょ?」


 お互いそんな会話をしながらも、かなり余裕があるようだった。


 そして激しい睨み合いに心理戦のような揺さぶりをかける言葉が投げ交わされる。


 その光景はまるで虎と龍が睨み合っているような、そんな緊張感が漂っている様にも思えた。


 その攻防は三十分程にも及んだけど、誰も見るのを辞める者は居らず、結末を見守り続けた。


 最終的にはヘレナさんが、


「もう少し本気を出すわね」


 と力を加えたところでカルマンの腕が机に伏せられ、勝敗が決まる。


 カルマンはとても悔しそうにしていたけど、


「良い勝負だった」


 とヘレナを認めるような強い握手を交わし、力比べも相手チームに花を持たせる結果に──。

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