0044-延長戦-



 三十分後、結局どちらが勝ったことにするか決めかねたようで延長線をすることになった。


「〜〜という事で延長戦に持ち越しまぁす♪」


 母さんがそう口にした途端、皆の顔が真っ青になっていく。


 それもその筈、疲弊しきっているのにまたメテオリットの欠片を討伐するとなると時間もかかる上に、二度目の討伐後は足腰が立たなくなる可能性がある。


 一度目の討伐であれ程皆、疲弊しきっていたのにもう無理だということは僕でも解る。


「皆さんそんなに怯えないで下さい。延長戦は討伐ではなく五つの種目で競い合うだけです」


 絶望の顔をする参加者たちに希望を与えるかのように、ヌワトルフ神父がにこやかな笑みを浮かべ説明し始める。


 話を聞く限り、五つの種目は至普通なものだった。


 一つ目は糖分補給と言う名目でマカロンの早食い競走。


 二つ目はトーナメント式の力比べ。


 完全個人戦ではあるけど、決勝で勝ち抜いたチームが勝ちと言うルールになっている。


 だから相手チームより多く勝つことが出来れば最悪、決勝は同じチームで競うことになる。そうなれば勝ったも同然。早めに決着をつけれるに超したことは無いということだ。


 三つ目は協力性や遠くの危機などを察知できる〔目〕が必要ということで視力比べをするらしい。


 視力比べは見る役と生け捕る役に分かれ全員交代で行われる。


 範囲は百メートル以内にあるもの限定で、見つけたものは生け捕りにする。


 そして、チームで合計を競うらしい。


 四つ目は、時に直感力が必要になるからと直感力比べ。


 直感比べだけは今の段階ではなにをやるか解らない。


 五つ目は罠の解除や万一の時に使うかも知れない手先の器用さを競うらしい。


 競う内容は陶芸づくり。


 なぜこんな陳腐な事をする羽目になったかと言うのは多分、母さんの案だと思う。


 母さんとヌワトルフ神父は親しげな態度で接していたから、多分、以前からの知り合い。


 そして、その案が面白そうだと考え今に至る。って感じかな? 判んないけど多分そう。


 だけど、どうして勝敗に拘るんだろ……?


 二チームともよく頑張ったね! 今回は引き分けだったね! でいいじゃん! 僕はそう思ったけど、賛成の声が多かったから皆、負けん気が強いってことなんだと思う。


 フェルはこの現場が飽きたのか、寝ると一言、僕の影に戻っていく。


 そんなフェルを横目に、なんとなくカルマンを確認すると、なぜだか解らないけどヤル気ではなく〝殺る気〟満々で殺気を振りまいていた。


「ねぇカルマン? 念の為に聞くけどどうしてそんなに嬉しそうなの?」


 もしかするとなにか勘違いをしているのかもしれない。僕は嫌な予感を覚えさりげなく確認した。


「殺り合えるんだろ? そりゃ楽しみになるだろ!」


 ……なんだろこの人……多分かなりの脳筋かあんぽんたんか天然なんだろうか……。


 面倒臭いし放置するのも有りだけど、多分放置すれば死人が出る気がする。


 僕の直感がそう警鐘を鳴らす。


「えっと……なにを勘違いしているか解らないけど人殺しはダメだよ?」


 僕はカルマンを諭すように優しく伝えると「なぜだ!?」と逆にどーして人を殺めれると思ったのか!? そう聞きたくなる様なことを言い、みるみるうちにヤル気も殺る気も消失して行く。


 簡単に言うと大きく膨らんだ風船が急にシワシワに萎んでいくみたいなそんな感じ。


 僕はそんなカルマンに頑張ろうねと声を掛けたけど、意気消沈している今のカルマンには、僕の声は届いていないんだろうな……と思う。


 カルマンの勘違いを訂正して十分後、用意ができたのかまず一試合目の早食いが行われる。


「ルールは簡単♪ 制限時間は三十分。その間にマカロンを多く食べたチームの勝利よ〜♪ 個人戦だけど結果はチームの合計になるから皆、頑張ってね〜♪ あっ! でも捨てたり食べ物を粗末にするのはダメよ?」


 母さんはにこやかにそう説明したあと、欠片討伐の合図で使ったドラを盛大に鳴らす。


 その音と共に皆が一斉に一口サイズのマカロンを口に放り込む。


 皆、相当疲れていたのか、お腹がすいていたのか、一皿に五つ程乗せられたマカロンを秒速で食べ切り一枚、二枚と皿を重ねて行く。


 カルマンも甘い物が好きなのか、それとも勝負ごとに負けたくないと言う性分なのかは解らないけど、物の数分で十皿を完食していた。


 まぁ相手チームも長身で細身の少年がカルマン同様に十皿食べ切っていたから、この勝負はかなり接戦になるとこの時予想した。


 そんな僕は早食いに参加している自覚がなさすぎて、まだ一皿目をゆっくり、味わって食べている。


 自分も参加していると気づいたのは制限時間の三分前。


 この頃にはお腹も満たされ、口も手も動かなかったんだけど……。


 結果は僕のチームが合計五十皿、相手チームが六十一皿を完食して、相手チームの勝利に終わった。


 皆よく食べるんだね〜。なんて感心しながらも、呑気に考えていたらカルマンから、


「どうして五皿しか食べれないんだ? おまえは女か? ダイエット中の女なのか!?」


 とかなり詰められた。その言葉に腹が立たなかったとは言えないけど、でも勝負になった途端、闘争心を戻してくれたのは良かったのかもしれない。


「仕方ないじゃん! 僕はただ傍観していただけに過ぎないんだよ!? お腹も空いてないし糖分も欲しくないよ!」


 僕がそう言っても負けたのが悔しかったのか、カルマンは聞く耳を持たずかなり文句を言われてしまった。


 そんなカルマンをなんとか宥め、力比べに移行する。


 力比べは事前に言われていた通り腕相撲だ。


 最初は武器を使った模擬戦をする予定だったらしい。だけど、カルマンがやらかすとヌワトルフ神父も理解していたのか、その案はなくなってしまったとかなんとか……。


 まぁ……結果、この案がなくなってくれて良かったと思う。


「じゃあ〜、まずトーナメント表を今から作っていくわよ〜」


 母さんはそう言い、いつ作ったのか解らないけど、箱の中から玉を取り出し対戦相手を一人一人決めて行く。


 全員の対戦相手が決まる迄に母さんがのんびりしすぎていたからか一時間程掛かってしまったのは誤算だったと思う。


 皆その間やることがなくて、糖分補給をしたからか、それともお腹がいっぱいになったからか、スヤスヤと寝息を立てたりかなり大きめのいびきをかいて熟睡している人がチラホラ居た。


 まぁ一時間後、皆叩き起されていたけどね……。


 トーナメント表が完成し、僕の一回戦目の対戦相手はツァイトと言う坊主頭の少しふくよかな体型をした男性だった。


 僕とツァイトさんの対戦は最後から二番目の……四組目。


 だからそれよりも先にカルマンや他のメンバーたちの対戦をのんびり観ることができた。


 初戦は僕に勘違いで声をかけてきた魂の使命こん願者ドナー


 シューネと言う名前だったらしい。


 その女性の対戦相手はルフーラと言うさっきの早食いで一番マカロンを食べていた少年が相手。


 まぁ……いくらルフーラと言う少年が細身だからと言っても、女と男とでは筋肉の付き方からして違うから、シューネさんには分が悪るい。


 見なくてもどちらが勝つか一目りょう然。


 ルフーラという少年はかなり面倒くさそうな表情で、大きな溜め息をついているから、負けてくれるのかな? そんな期待を一瞬したけど、案の定シューネさんは一回戦で敗退した。


 ただカルマンも想定内だったのか、なにも言わず、自分の対戦相手だけに集中する。


 二組目はカルマンとアルンドの二人。


 アルンドさんはカルマンよりガタイが良い魂を遣う者シシャだ。


 これはカルマンに分が悪いのでは!? なんて思ったんだけど、ものの数秒で決着がつき、カルマンが涼しい顔をして戻ってきた。


 そんなカルマンと話し込んでいるうちに、いつの間にか三組目の対戦が決着していて、僕たちのチームは今のところ三戦二勝で勝っている。


 次、僕が勝てば同士討ちになるけど、かなり良い流れが来ている。


 そんなことを考えながらも僕は、こういう競いごとはあまり好きじゃない。だけど文句を言える状況でもないし……。渋々ながらも対戦先へ向かった。

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