006-活躍-



 カルマンとヘレナ戦に誰もが圧倒されたあと、直ぐに三戦目に移るのかと思っていた。


 だけど始まる前に、食事タイムが設けられることに。


 そこでずっと不思議だった母さんが持っていたバスケットが大活躍したんだ!


 バスケットの中には母さんお手製のカスクートやスープなどの食事が沢山入っていて、あんなにマカロンを食べたというのに、お腹を空かせていたんだと思う。


 皆、母さんのご飯がとても美味しいといいながら、あっという間に食べ尽くし、活力を漲らせていた。


 まぁ……例外もあったんだけど。


 カルマンは普通に母さんのご飯を食べていたけど反応は薄く、ヘレナさんは敵から塩を送られるのはごめんだと自身が用意した食事を食べていた。


 で、ルフーラ君はお腹すいていないと、持参していた本を読んでいた……。



 皆、お腹がいっぱいになったところで三戦目。


 次は視力比べ。


 視力ならば僕に任せて! そう心の中でガッツポーズする。


 僕は昔から、とても目が良いらしい。


 まぁ例外もあるんだけど、アリエルのように土煙を立たせたり、なにかで塞がれたりすると見えないからもしかすると目は良くないかも……? 僕がそんな不安を覚えてきた頃、


「三戦目は視力と比べるものよ〜」


 母さんがルール説明をし始める。


 ルールは範囲百メートル以内にいる獲物を取ってくるという非常に簡単なもの。


 白線から見えたもののみ有効で、獲物が小さければ小さいほど加点される。


 距離プラス大きさで勝敗を決めるという至ってシンプルなものだ。


 ポイントに関しては


  1メートル以下で30センチより上は10ポイント。

  5メートル、20センチ以下で20ポイント

  10メートル、10センチ以下で30ポイント

  15メートル、10センチ以下で40ポイント

  20メートル、10センチ以下で50ポイント

  25メートル、5センチ以下60ポイント

  30メートル、4センチ以下で70ポイント

  40メートル、3センチ以下で80ポイント

  50メートル、2センチ以下で90ポイント

  60メートル、1センチ以下が100ポイント


 と説明されたけど、さすがに百ポイントはほぼ無理じゃないのかな。僕も見つける自信はない。


 それから、魂の使命こん願者ドナーのような非戦闘員は、魂を遣う者シシャと協力して生け捕りにするも良し、自身で生け捕りにできる能力があれば自身で両方をやるのも良しと。


 で、見つけたところに配布された不思議な色の玉を置けば完了らしい……?


「あっ、もし獲物が被れば先にその場にいた人に譲ってあげてね〜 殺し合いや不正はダメよ〜」


 母さんはそう説明し終えると、楽しんでねと満面な笑みを浮かべた。


 これはチームを組んでも良いし個人戦としても良いのか……。


 僕は戦闘に関してはまるっきし駄目だ。


 殺生を働くわけではないけど、心が痛むしやりたくない。ということは……僕は誰かと組む方が得策……。


 そんなことを考えていると、


「お前は俺と組め」


 カルマンが珍しく僕に声をかけてきた。


 カルマンのことだからてっきり1人でその全てをやると思ったんだけど……。


「え〜〜!」


 嬉しいけど、カルマンと一緒に行動をするのはなにか抵抗がある。


 それが全面に出ていたんだと思う。


「なんだ文句でもあるのか?」


 なんてカルマンがキョトリとする。


「まぁそりゃ……ね?」


「おまえと俺は専属契約を結ぶことになるのだから、今から協力をし合うのもなんらおかしくはないだろ?」


「……う〜ん。そう言われると仕方ないのかな……」


 そう言われればそうかもしれない。僕は渋々ながらもカルマンとチームを組むことに納得した。


「カルマン様! 私も生け捕りなんてしたことがなくて……御一緒してもいいですか?」


 そんな僕達の元へタタッと走ってくるや否や、シューネさんが少し上目遣いでカルマンに聞く。


「なぜお前と組む必要がある? 俺になんのメリットが有るんだ?」


 だけどカルマンは、あろうことか自身を慕ういたいけな少女を冷たくあしらい、


「ラオムの所へいけ」


 と冷たい態度で蔑む。


 ヌワトルフ神父! この人、血も涙もない愚劣の極みです! どうか神に変わり裁きの鉄槌をっ!


 そう言いたい気持ちをグッと堪え僕はカルマンの肩に手を置き、


〝カルマンそんな風に人をあしらっちゃダメだよ〟


 と心で呟きながら、圧をかけたような満面な笑みを浮かべる。


 カルマンは理解していない様子で首を傾げながらもシューネさんに、


「さっさと行け」


 と睨みつける。


 シューネさんはそんなカルマンの態度に、今にも泣きそうな顔をしながら


「解りましたわ」


 と一言、僕を恨めしそうな目でキッと睨みつけ、ラオムさんの所へ逃げるように走って行った。


「カルマン、もう少し優しくしてあげなきゃ」


 僕はシューネさんが今にも泣きそうな顔をしていたよとカルマンに伝える。


「なぜ、なんのメリットにもならない奴に優しくしなければならない? それにあいつとは今後も関わることがない」


「はぁ──あのね……」


 僕は大きな溜め息をついたあと、もう少し人のことを考えてあげようよと言いかける。


 だけどカルマンのことだ。きっと解ってくれないんだろうな。と感じ、そっと口を閉じた。


「皆〜! 準備は出来たわね〜。頑張るのよ〜!」


 母さんは、皆が準備出来た頃合を見計らいそう言ったあと、開始宣言をする。


「なるべく遠くの小さなモノを見つけろ生け捕りは俺に任せてくれて問題ない」


「小さな獲物ねぇ〜」


 僕はカルマンから言われた通り小さそうな獲物を絞り探していく。


 その間、カルマン含む皆はすぐに見つけ一、二メートル程離れた場所に走って行く。


「まだ見つからないのか?」


「う〜ん沢山いるけどなるべく小さいものって考えるとね〜」


 僕はカルマンに急かされながらもなるべく遠くて小さい獲物を探し続ける。


 確か大きさで十〜百までのポイントが割り振られるなんて言ってたし……。ここで負ければカルマンの不満が僕に全てぶつけられる。それは嫌だなぁ〜。そう思っていると、


「あっ!」


 皆よりもかなり遅れをとりつつ僕は、これだ! と言うものを見つけ、


「ちょっと離れたところに、にミミズ見たいなのが居るからそこに行こ!」


 と伝えた。


「そのちょっとはどれくらいの距離なんだ?」


「うーん解んないけど……」


「おまえ視力はいくつくらいなんだ?」


「普通よりちょっと上くらいじゃない?」


「通常が1.0くらいだと考えて……」


「ん?」


 普通の人ってそれくらいが平均なのかな?

 いや、まさかね……。それにカルマンの常識は非常識だし。そう考えつつも声が出てしまった。


「ん?」


「あっ、続けて」


「2.0くらいか?」


「……? カルマンの視力っていくつ?」


「……1.3くらいじゃないのか?」


「……カルマンって目が悪いんだね」


 なるほど、カルマンの常識ではそれくらいが普通なんだ〜。そう思いながら僕は自身の視力が異常だということを気づかなかった。


「はっ?」


「おまえの視力っていく──」


「ほら行くよ」


 僕はそう言い、カルマンの着ているローブのフードを掴み、問答無用で範囲ギリギリの場所へ向い連れていく。


「これのどこがちょっとなんだ……」


 カルマンは呆れつつも、ミミズみたいなものがどこにいるのか? なんて探し始める。


「ここだよここ」


 全然違うところを探すカルマンに、僕は指さしミミズの居場所を伝える。


「おまえの目はおかしいだろ。普通こんな小さいものは見えないぞ!?」


 カルマンは呆れたような、困惑したような表情で大きな溜め息をつき、僕が異常だのなんだのと文句を垂れ始めた。


「カルマンの目が悪いだけでしょ? 僕はちょっとだけ目が良いだけだよ?」


 僕はどうだ! なんてカルマンにドヤ顔を見せるけど、カルマンはそんな僕を見て死んだ魚のような目で見たあと、目を逸らし、


「この玉を見つけた場所に置いておけば良いんだよな……」


 とボソッと呟き、ミミズのような得体の知れないものを麻袋に入れ、不思議な色をした玉を置く。


「皆、仕留めてきたわね〜」


 仕留めていないけど……。そんなツッコミを入れそうになりつつも、皆が生け捕りにしてきた物を見ながらにこやかな顔でそれらを確認して行く母さん。


 そのあと、別の玉を使って視力測定のようなものをしたあと、結果が伝えられる。


 結果は僕のチームの合計が200ポイント。


 相手チームが150ポイントでそこそこの視力を持つ僕のおかげで勝利したとも言える気が!


 これで首の皮が一枚つながり四戦目に突入だ!


 まぁ、皆にまた不正を働いたんじゃないのか!? と疑われたけど、視力検査の結果、僕の目は十以上あると判明し、誰も文句は言えな……いと思っていたけど、やっぱり信じて貰えずかなり批判を食らった。


 どうやって僕の目を証明するか悩んでいると、ヌワトルフ神父が不思議な道具を取り出し僕に渡してきた、


 どうやら教会関係者であるマリアンさんが変わった物をよく発明するらしく、他人の目を共有する道具も作っていたらしい。


 僕はそれを借り使おうとしたんだけど、


「使うな」


 なんていいながら、カルマンが鬼の形相でその道具を木っ端微塵に破壊する。


「壊しちゃダメでしょ! カルマンメッだよ!」


 なぜ壊す必要があるのか? と思いつつも、僕は子供を叱るようにカルマンを叱りつける。


「うるさい黙れ これは絶対に使わせない」


「どうして?」


「どうしてもだ」


「理由が解らないと逆に疑われちゃうよ……」


マリアンロリババアはたまに失敗作も造る。失敗作は死ぬ可能性もある」


 カルマンは目を一瞬逸らしたあと、


「専属契約をする前に死なれては困る」


 と僕にその道具を絶対触れさせようとしなかった。


 だけどその様子はどこか嘘をついているかのような……僕はそんな気がして仕方なかった。


「この球の測定能力に偽りはないはずです。なので問題はないと思いますよ。それに視力が良いと言うのは魂の使命こん願者ドナーにとって、とても良きことです」


 そんなカルマンを見兼ねてか、早めに次へ進みたいからか、ヌワトルフ神父がそう説明すると、


「神父が言うなら……」


 とその場が丸く収まる。


 僕はよく解らないけどヌワトルフ神父に助けられたんだと思う。


 ヌワトルフ神父はこの国で一番慕われている存在だ。そんな人物がそうだと言うならば誰も疑えない。


 気を取り直して四戦目! と行きたいところだけど、メテオリットの欠片を討伐し終わったのが昼前で今は昼の一時頃だ。


 今のまま行けば一日行事になる。まぁ次で負ければそうはならないけど……。


 なんとなく直感力はこの中でカルマンが一番あるような気がするし勝つ。


 そんな気がしてこのよくわからない勝負ごとは夕方までかかるんだろうな〜と僕は気を遠くした。

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