30話-誰、これ?-
カルマンは、服が乾くのを待つ間、僕より先に部屋に戻り、退屈そうに頬杖をついていた。
まあ、そこまでは良かったんだけど……
部屋に戻る前からドンッ、ドンッ! となにかを強く叩く音が響いていた。そんな中で、音を気にせず過ごせるなんて、ある意味神経が図太いのか……。いや、この数時間でカルマンのマイペースさはなんとなく把握してたけど……。うん、気にすると負けだ、よし無視しよう! それよりも──。
大きな音を立たせていた正体はフェルだったらしく、「開けろガウ!」なんて喚きながら窓を叩いていた。
僕は目を点にしながら、えっと……、どういうこと? 現状を理解できず呆気にとられてしまった。
窓の外には、
「開けろ! 開けないと殺してやるガウ!」
なんて大粒の涙を流しているフェル。一方、部屋の中には退屈そうなカルマン。そこには、確かな溫と冷が共存している。
そんな混沌とした空間でまともな思考ができるわけもなく……。
「あっ……え……、あ……っ!」
困惑しながら、僕は二人交互に見続けた。
「おまえは、振り子時計みたいだな」
そう言いカルマンは、鼻を鳴らす。
確かにフェルが悪いけど、カルマンにも非があると思う! そんな気持ちが込み上げてくる。
だけど、多分カルマンには通じない。僕は、「はぁ……」と、深い溜め息を落とし、どう対処するか考えた。
そんな僕の悩みとは裏腹に、
「おまえを見ていると飽きないな。表情がコロコロ変わって、いじめがいがありそうだ」
とか言って、偉そうな態度でニッ、と口角を上げて小バカにする。
「なっ──! そんなこと言うんだったら、その服のまま帰って良いよ!」
僕はムッとし、カルマンを追い出そうと試みた。
「その貧弱な身体で、俺を追い出せると思っているのか? バカだろ」
カルマンはくっくっと声を殺し、僕を
「なにさ、なにさ! そうやって、人をバカにした態度を延々と繰り返して、一生孤独で寂しい思いをすればいいよ!」
僕は拗ねた様に怒り、カルマンの体をポコポコと全力で叩いた。
だけど、カルマンの体はかなり鍛えられている。僕の弱々しいパンチでは、痛くも痒くもなかったんだと思う。
「おまえ、なにしてるんだ?」
なんて、真顔で心配された。
「はぁ──。本当、ムカつく!」
僕は文句を垂れながら、カルマンを思いっきり睨みつけた。
そんな僕に、カルマンは頬杖をつき、欠伸をしながら
「おまえは犬か、キャンキャンとうるさいぞ。あとおまえが睨んだところで、無駄だ、辞めておけ」
なんて皮肉を交えて嘲笑する、
「……」
そんなカルマンに僕は、あぁ……。この人はこういう性格の人だったんだ。と、諦めを覚え心の中で嘆息し、
「そう言えば、
なんて話題を変えた。まあ、無理だろうけど。
「解っているだろ? 諦めろ」
案の定、カルマンは僕の予想内の返答をする。
「じゃあ、躾や矯正する施設はないの?」
正当な理由があればできるんだけど……。創り直しに期待は持てない。
確か──。
一、
二、
三、
四、
現実問題、無理だよね。
二の命令違反は? なんて希望を見出した時もあったけど、その回数は
だから創り直しなんて期待するだけ無駄。
でも、犬や猫でも躾ができるんだし、
「──俺から言えることはただ一つ、諦めろ。ただそれだけだ」
カルマンは深い溜め息を吐いたあと、僕に、無慈悲で残酷な現実を突きつける。
「はぁ……」
無理なんだ……。僕は期待を粉砕され、
フェルがまともになる方法はないのかな……? まともになってくれなきゃ、そのうち僕は、借金地獄でどうにかなってしまいそうだ──。
いや……もう借金があるんだっけ? それに借金だけじゃない。もしかすると、なにか問題を起こして、賠償責任に問われるかもしれない──! 僕は、暗い未来しか想像できないフェルとの生活に頭を抱えた。
「
「いや……えっ、……あ……」
えっと……この人はなにを言ってるの? ていうか、どこから突っ込めば良いの? えっ、もしかして、突っ込んじゃダメとか? いや、カルマンのことだ。きっと本気で言っていに違いない。僕は言葉を失い絶句した。
フェルを創り直したい理由。それは行動もあるけど、カルマンに似ている、という点も大きい。
あぁ、そう言えば……お金を要求してくるところなんかも二人は瓜二つだ。
「カルマン、あのね。聞いてくれるかな? 君がとても異例なだけで、普通は……どんな仕事でも、そんな大金、数ヶ月程度じゃ貰えないよ?
僕は、カルマンを諭すように、そして優しく現実を突きつけた。
この世界では物価はそれほど高くない。
だから、僕が言った三十万セクトという額は、魂を遣われなかった場合の最低支給金に過ぎない。といっても、魂を貸し出すにはリスクを伴う。死ぬ可能性や後遺症などのリスクから、誰かに魂を貸せば、一回遣われる毎に、五十万セクトが支給される。
リスクを無視すれば、確かに割は良いけど……それでも借金からは逃れることはできない。
僕は現実を理解しつつ、討伐後に支給されたお金の中から、二百五十万セクトの一部をカルマンに渡しカルマンに「どうにかできないかな?」と頼み込んだ。
「ふむ……、なら条件を出してやろう。俺と専属契約を結べ。そうすれば、分割で支払うことを許してやる。期日も大目に見て無期限だ。悪くないだろ?」
なんて言い始めた。
えっと……元々、一億五千万セクトっていう大金を一括で払わせようとしてたの? えっ、いけると思ってのかな? この人、頭のネジ何本か飛んでる? そう困惑を覚えながらも、専属契約への回答をまだしていない。僕は渋々、了承せざるを得なくなってしまった。
はぁ──。カルマンの頭が急に吹っ飛んで、
今回はさ、メテオリットの欠片を討伐する時に何度か魂を貸したから良かったよ? でも、普通に考えて、無理じゃん? そんな小言を胸の中で落としていると、違和感を覚える。
あれ……? 討伐時に魂を貸した回数って何回だっけ? 確か──、六回くらい……? あれ、えっ? ちょっと待って!?
なんか、五十万セクトほど多い気が──。
支給ミス……? いや、それはないんじゃ……。だって、管理体制がしっかりしている教会だよ? じゃあこの五十万セクトはなに……?
「ねぇ……? 僕が初めて魂を貸した時、現れた化け物ってなに?」
僕は恐る恐るカルマンに、そう確認した。
「ん? そんなことも知らないのか? あれは教会が調べた結果、メテオリットだと仮定された。──あぁ、なるほどな。あいつはボーナスステージだ。魂を一度貸すだけで、百万貰える」
僕の疑問に、なにを言っている? そう言いたげに、一瞬キョトンとしたあと、カルマンは驚く様子もなく、平然とそう答えた。
だけど──いやいや、ちょっと待って!? えっ、なに、それを伝えないまま、
そんな複雑な心境で、僕の表情はコロコロ変わっていたんだと思う。カルマンは、そんな僕を見て、再度キョトンと間抜け面をした。
はぁ──。この話はやめだやめ! 僕はそう自分に言い聞かせ、
「あっ! そういえば渡したいものってなに? 請求書だけじゃないよね?」
そう苦笑交じりに確認した。
「あぁ……、そういえば忘れていた。おまえの
カルマンは、今の今まで忘れていた、と言わんばかりの態度で、僕に白い封筒を投げるように渡してきた。僕はその封筒を、カッター式のレターオープナーで封を切り中を確認する。
中には
「えっ、? これ…………誰!?」
僕は
「たぬきだ」
「いやいやいや! 待って!? 一旦、落ち着いて! ね? 落ち着いて聞いてね!? 全然違うじゃん!? これ、誰か別の人の
「たぬきだ」
僕が困惑している隣で、『カルマンは至って冷静だ。おまえが落ち着け』そう言わん態度でそう言い放つ。
だけど、どこからどう見ても、フェルには見えない! そんな内の感情が自然と零れていたらしい。
「いや……、でも……」
そう困惑しながらも窓に張り付くフェルと写真を見比べた。
「正真正銘、おまえのたぬきだ」
「いや、そんなはずは……」
これは絶対、フェルじゃない! そう思いたい反面、本当にそうなのかもしれない。なんて相反する気持ちが沸き上がって行く。
そんな僕に決定打を打つようにカルマンは、フェルの誕生秘話を詳しく鼻血はじめる。それを聞き、僕は渋々だけど納得しざるを得なかった。
今日は驚いてばかりな一日だけど、そんな中でこれが一番、衝撃を受けたかも……。
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