25話-ギャンブル狂(読み飛ばし可)-


「そういえばフェルちゃんは?」


 こんなに良い香りを漂わせているのに、フェルは僕に怒られるのが解っているのかな? それとも僕に放り捨てられたことを根に持っているのか、なかなかリビングへ降りてこない。


 「普段なら、食事の香りがすれば直ぐに降りてくるのに……」


 母さんはそんな心配しつつも、料理作るに専念していた。


 三十分後──。


 ようやく食事の準備が整い、母さんは食卓に料理を並べ始める。僕はそれを見て、人数分の食器とカトラリーをテーブルに並べていく。


「うわぁ、豪華だね〜」


 僕は、豪華なそんな料理の数々に目をキラキラと輝かせ、ゴクリと唾液を飲み込んで嬉々とする。


「リーウィンちゃんの好きな物ばかり作ったわ! 今日は心行くまで食べてちょうだい!」


 母さんは嬉しそうな態度で、「早く席に着きましょう」なんて僕に促す。


 バーンッ──。


 ご飯の香りに釣られたのか、フェルが遅れをとった! そう言いたげな表情で、リビングの扉を勢いよく開けた、入ってきた。


「フェルちゃん。まだ食事は始まっていないから、そんなに焦らなくても良いのよ?」


 母さんのその一言で、フェルは安堵したのか、フゥ──。と息を吐き、食卓へ目を向ける。


 そして僕と目が合った瞬間、一瞬ジトー。と聞こえてきそうなほどの仏頂面を見せ、僕と反対のテーブルの上に座った。


 ははーん。僕に落書きしておいて、投げられたことを相当根に持っているとみた。そんな分析をしつつも、僕は気に留めないようにした。


 気に留めればフェルの思うつぼ。絶対また、慰謝料を寄越せ! とか言ってくるのがオチだ。まぁ実際のところは解んないけど、なんかそんな気がする!


 だけど母さんのご飯は、平和を呼ぶみたい。


 目の前に広がる豪華な料理の数々に、さっきまでの不満は消滅したらしい。フェルは目をキラキラと輝かせ、子供のようにはしゃぎ始めた。


 僕は、謝罪とかあるのかな〜。なんて少し、期待したけど、落書きしたことは──。うん、反省の色はどこにもなかった。


「フェル、カジノに行ってどうだったの?」


 フェルの行動に目を瞑りながら話題を提供する。


 まぁ僕自身、カジノのことなんてさっぱり解らないんだけどね。二十万セクトの行方が判れば嬉しいかも?


「今回は、ピエピエが悪かったガウ」


 フェルはどこか分が悪そうに、僕とは一切、目を合わすことなく答える。


「……ということは、負けたってこと?」


 ピエピエ? なんて一瞬、頭を悩ませる。だけど、考えてもよく解らないし、無視でいいや。


 それよりも、ははーん。負けたっていうことだな。僕は負けを確信しつつ、ちょっとした意地悪な心が湧き上がり、いたずらっぽく問いかけた。


「負けてないガウ!」


 だけどフェルは、それを認めようとしない。


「じゃあ勝ったの? いくら勝ったの?」


 負けたということは、最初の言葉からして理解している。だけど、絶対に負けたとフェルは言わないだろう。


 僕はまくし立てるような口調で、満面の笑みを浮かべる。


「ゼロガウ!」


 そんな僕の笑顔に騙されたのか、フェルはどこか誇らしげに墓穴を掘る。


 やっぱり僕の予想は正しかった。


「それって、負けたってことじゃないの!?」


「負けてないガウ! 今回は貯金しただけガウ!」


「えぇぇ──」


 まさかの斜め上の返答に、僕は思わず絶句する。


 フェルの独自の考えはなんというか……よく解らないかな……。


 そんな呆れを覚えていると、


「聞いて驚くなガウ!」


 フェルは嬉々とした態度を見せ、カジノとは? なんて暑く語り始める。


 ……流石に、自由過ぎない? まぁ……、話だけでも聞いてあげようかな? そう思いながら、フェルの話に耳を傾ける。


 フェル曰く、カジノという場所は、クルーピエ(ディーラー)がゲーム進行をしてくれるらしい。ルーレットや、カードゲーム。それから、サイコロなどのゲームに、チップと呼ばれるコインを掛けて遊ぶらしい。


 多分、フェルがピエピエと言ったのは、このクルーピエのことなんだと思う。可愛いところもあるんだな〜。なんて少し頬が緩んでしまった。


「ちなみに、カジノは大人が行く娯楽施設ガウ!」


 だけどフェルは、自分の趣味を真面目に聞いてくれるのが嬉しくなったのか、最後に問題発言をした。


 ん……? えっ? フェルって、大人なの? そんなほっこりとした気持ちは、困惑へと変わっていく。


 だけどそんな疑問を投げかけたところで、どうせフェルのことだ。独自の屁理屈を並べ、威張り散らす未来しか見えない。僕は端から諦めを選び、追求することはあえてしなかった。


 そんな僕の諦めなんてフェルは知らない。


 カジノとは。なんて延々と熱く語った最後には、「絶対、次は大勝ちするガウ!」なんて張り切った様子で、僕に金を寄越せ! と剣幕な顔で詰め寄ってきた。


 最初はもちろん断っていた。だけど最終的にはそんなフェルに根負けし、この日からお小遣い制度というものがフェルに適用されることになった。


 もちろん、そのお金は僕から出ることになる。


 フェルはかなり上機嫌な様子だったけど、僕はなんともいえない気分で、気が重くなった。


 そのあとも、まぁ色々とあったけど、そこは割愛する──。

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