16話-突然の珍客-



 僕はあれから、空白のひと月を埋めるように、慌ただしい日々を送っていた。


 僕が昏睡状態に陥ってしまった過程である、あの謎の化け物が現れて以来、メテオリットの欠片が活発化しているらしく、僕は昼・夜問わず何度も教会からの要請で、駆り出されることになった。


 魂を守護するモノツカイマであるフェルともあれから上手くやっている──。なんて言いたいところだけど。実際は魂を貸し出す時、嫌々ながらも僕に着いてきて、アシストしてくれたけど関係は良好とは言えない。


それに、僕自身にもかなり欠点が露見しちゃって、仲良くすために取れる時間さえもなかった。


 それは僕の魂が無色透明だからか? それとも僕の体力問題なのか理由は解らないけど、魂を遣う者シシャに魂を遣われるたび、僕の体はグッと心臓を掴まれるような、激しい痛みに襲われ、一時的にでも昏睡状態に陥ってしまっていた。


 それは連続使用だったり、少しでも乱暴に扱ったりというようなモノが多かったけど、中には触れただけ。ただそれだけで意識を失ったこともあった。


 どれも数時間後に目を覚ましたから良かったし、カルマンに魂を貸した時のように、ひと月ほど昏睡状態に。なんてことにはならなかったけど、それでも命の危機というものを何度も経験したそんなある日。


 コンコンッ。

 

 とても心地良い日差しの朝、僕の家に意外な人物が訪れた。


「はい。どちら様……?」


 時刻は午前八時半頃。母さんは玄関の扉を開け、来客の対応をする。


 僕もその声で目を覚まし、着替えてからチラリと半分だけ顔を出し、誰が来たのかと様子を伺った。


 扉の前には白いローブを着用し、フードを深々と被った、いかにも怪しそうな人物が。


 どこかで見覚えが……。僕はそう思いながらも、寝起きで頭が回っていなかったからか? 誰なのか判らずにいる。


 そんな僕とは裏腹に、早朝の急な来客に驚きながらも母さんは、その人物から教会関係者だと説明を受け、手帳型の身分証が本物かを確認したあと、家に招き入れる。


「訪問をすることを事前に伝え忘れていた」


 家の中に入るや否や、白いローブを身にまとった怪しげな人物は、深々と被っていたフードを脱ぎ、偉そうな態度で自身のことをカルマン・ブレッヒェンと名乗る。


 その容姿や振る舞いからして、どうみても僕の知っているカルマンで間違いなさそうだった。


 なんでこの人、僕の家に来たの? そんな疑問が沸き上がったけど、それ以上に母さんの態度が少し気になってしまった。


「その節は、リーウィンを助けて下さって、ありがとうございました。生きているうちに、こうして何度も魂を遣う者シシャ様に、会えるなんて、とても光栄です〜!」


 なんて、普段僕にするような態度で言っていたけど、母さんはカルマンを見た瞬間、一瞬だけど顔を強ばらせていた。


 そこにはどんな心情が隠れているのか、僕には到底理解できないけど、きっとカルマンが魂を遣う者シシャだから。


 それが答えなんだと思う。


 因みに、何度か要請を受け、魂の使命こん願者ドナーの仕事をした。とは言ったけど、母さんには、まだ魂の使命こん願者ドナーを続けていることなんかは秘密にしている。


 一ヶ月もの間、生死の狭間さまよっていたのだから、こんな危険な仕事はもう辞めるべきだ。そう遠回しに何度か言われたから、僕もそうだね〜。なんて適当に流しちゃったのも悪いんだけど、そのせいで僕は続けているという事実を伝えるタイミングを逃し続け、きっと母さんは、僕が魂の使命こん願者ドナーを続けているなんて毛頭思っていなかったと思う。


 だけど今回、急なカルマンの訪問で母さんにバレた気がする。


 あの人、本当になにやらかしてくれるんだ! 僕の努力が水の泡になってしまったじゃないか! そんな激しい苛立ちを覚えながらもグッと堪え、僕はさりげなく様子を伺い続けた。


『少し、チビ──。いや、リーウィンと話をしたいのだが、大丈夫だろうか?』


 カルマンは僕のことをさりげなく、〔チビ〕と言いかけ、訂正しながらも要件をざっくりと伝える。


 カルマンよりチビなのは事実だから仕方ないのかもしれないけど、どうしてそうも苛立つような言葉を発せるのか? 疑問でしかない。


「あっ、えぇ……。リーウィンになんのご用事でしょうか? あ、差し支えなければ教えて欲しい。というくらいの好奇心ですので〜!」


 母さんは、カルマンの訪問理由がやはり、僕だと知り、愛想笑いを浮かべつつ、それとなく要件を聞き出そうとする。


「話したいことがある。ついでに体調の方も問題ないか確認したい」


 カルマンは多分、母さんには聞かれたくない話を僕にしようとしているんだと思う。


 だけど、ついでに僕の体調も〜。って、ついでって要る? 要らないよね? ほんと、カルマンは人をムカムカさせる才能でもあるんじゃないの!? そんなことを思いながらも必死に堪え続けた。


「話したいこと……とは?」


 母さんは、カルマンを見上げながらも、不安気な態度で確認するけど、カルマンはそれ以降口を閉ざす。


 そんなカルマンの意図を汲み取ったのか、渋々ながらも母さんは、買い物に出かけてくると僕に一声掛け、家を出ていった。


 僕は母さんが家を出たのを確認したあと、直ぐにリビングへと向かい、粗茶を出す準備を始める。

 

 どれだけ気に食わない人物だとしても、来客にお茶を出すのは基本中のマナーだ。


 僕は、お茶ができるのを待ちながらも、カルマンは誰に対しても上から目線で接する癖があるのか。なんてことを考える。


 母さんの方が歳上なのだから敬うべきでは!? そんな不満が胸の内から込み上げたと同時に、僕の中の悪魔がとある〔嫌がらせ〕を提案してきた。


 僕はその提案を受けいれたあと、お茶をカップに注ぐ。


 ガチャッ


「邪魔するぞ」


 それと同時くらいにカルマンが、ノックもなしに僕の部屋にズカズカと入り、近くにあった椅子に無造作に座る。


 そのあとを追うようにして、僕も部屋に入り、ゆっくりとクロムティーを提供する。


 そのクロムティーは悪魔が囁いた〔とても苦いお茶を出してやれ〕というもの。


 まぁさすがにとても苦いお茶をだすのは良心が傷んだから、少し〔苦め〕に留めたクロムティーなんだけど。


 本当は、事故に見せかけてわざと熱々のクロムティーを打っ掛けぶっかてあげても良かったんだけど、それも良心が痛むから辞めた。

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