22話-ポンコツツカイマとの出会い-
次に僕が目を覚ましたのは、茶色い天井が見えるベッドの上だった。
薄緑色のカーテン、黄色い鳥を模した目覚まし時計、そしてガラス製の小さなテーブルに木製の椅子──。
見覚えのあるモノがこの空間。ここがどこなのか? 少し考え結論をだす。
どうやらここは僕の部屋らしい。
『元いるべき場所』って、
僕はそう思いながらゆっくり体を起こす。
なぜか足元には、黒い毛玉の様なモノが落ちていた。
「なにこれ?」
疑問を覚えた僕は、なにげなく毛玉をわし掴みにする。
「ンガーゥ!? なんガウ!? 敵かガウ!?」
僕がわし掴んだ瞬間、毛玉が跳ね上がり、周りを慌ただしく確認し始めた。
「うわぁぁぁ!!!!」
そんな毛玉に驚いた僕は、大きな声をあげながら思いっきり床へ投げ飛ばす。
ゴンッ。
鈍い音が部屋の中で響き、微妙な静寂が生まれる。
「………………」
「………………」
そんな静寂の中、僕と黒い毛玉は目が合い、お互いに誰? という疑問を抱えたまま数分間睨み合う。
「痛いだろガウ! よくも、オレサマに酷い仕打ちをしやがったなガウ!」
先に口を開いたのは、毛玉の方だった。毛玉は、とても偉そうな態度で唾を飛ばしながら怒鳴り散らす。
「ごっ、ごめん……。びっくりしてつい……」
僕はなにが起こったのか理解できず、反射的に謝罪していた。
「謝って済むと思うなガウ! イシャリョウを要求するガウ!」
だけど毛玉は、かなり立腹なようで、どこからか紙を引っ張り出してきて、〔イシャリョウに、二十万セクトを要求する〕。と、汚い字で書かれた紙を、僕の顔に貼り付けてきた。
なんだこの変な毛玉は……。そんなことを思いながら呆気に取られる。
だけど、すぐ可笑しいことに気づいた。投げ飛ばしたのは悪いよ? そこは反省する。でも、慰謝料なんてやりすぎだと思う! どーして投げ飛ばしたくらいで慰謝料なんて請求するんだ! 僕は断固として払わないからね! そんな硬い決意を固める。毛玉が、〔人語〕を話していることなんて気づかずに──。
そんな僕と毛玉が慰謝料を払う払わないというなんともカオスな言い合いをしていると、勢いよく僕の部屋の扉が開き、
「リーウィンちゃ〜ん! ようやく目を覚ましてくれたのね……! 目を覚ましてくれてありがとう。母さん、とても心配したのよ? 痛いところはない!? 今、食べたいものは!? あっ、母さんのこと、覚えている!?」
母さんは目に涙を浮かべながら、部屋に入ってきた勢いのまま、僕をギュッと抱きしめ、機関銃のように、これでもかと、質問攻めにする。
「グヘッ──。そ、そんなに一気に聞かれても、答えれないよ!」
僕は変な声を出しながらも、気が動転している母さんを抱き締め返し、落ち着いてと促した。
だけど母さんは、そんな僕とは裏腹に、なかなか落ち着いてくれなくって……。はぁ──。
あぁ、そうか。クトロケシス神もきっとこんな感じだったんだろうな。また会うって言ってたし、その時ちゃんと謝罪した方が良いよね。なんて、ようやくクトロケシス神の苦笑の意味を理解し、僕は母さんを宥め続けた。
最初は、そんなに焦ってどうしたんだろう? なんて楽観的な態度でいたんだけど、落ち着きを取り戻した母さんに、
「どうしてそんなに焦ってたの?」
なんて苦笑を浮かべ聞いたら、
「リーウィンちゃん、よく聞いてちょうだいね? あなたはひと月ほど生死の狭間を
そんな驚きの事実を口にされた。
僕って一ヶ月もの間眠っていたの? そう思うけど、実感なんて湧かない。だって体の不調なんてなかったし、一ヶ月も眠っていた割には、体も痩せ細っていない。とても元気でピンピンしてるもん!
だけど、母さんがそう言ってるし、嘘じゃないんだろな〜。なんて、受け入れた。
それ以上に僕を驚かせたのは、意識を失った僕を運んでくれた人物。それがあの冷淡で、慈悲も礼儀もない(と思っている)カルマンだったっていうこと! あの人が、誰かのために自発的な行動なんてするはずないじゃん!? もしできるならば、初対面で嫌味な態度や発言なんかしないし、睨みつけて威圧もしない。
「絶対嘘だ!」
僕は母さんからその事実を聞かされた瞬間に、脊髄反射でそう笑い飛ばす。
だけどそんな僕とは裏腹に、
「嘘じゃないわ」
なんて母さんは首を横に振る。
そんな母さんの話を聞いていると、あの人、本当は優しいのかな? そんな気持ちが浮かび上がってきた。
でもあの人って最悪な人だったじゃん? うーん。そんなことはないでしょ! 最終的には、有り得ない。そう結論づけ流すことにした。
「ところで母さん、この……黒い毛玉は?」
カルマンの話を続けるのも気が乗らなかったし、僕は毛玉を指さし、確認してみた。
「その子はリーウィンちゃんの
母さんはまるで日常の一部であるような楽観的な態度で、毛玉のことをあれこれと説明してくれる。
そんな順応性の高い母さんに、僕は困惑しながらも苦笑してしまった。
そんな母さんの話に、一瞬これが僕の
だって、僕の髪は限りなく白に近い銀髪で、目は青いのに、どうして僕の
それにだよ? 僕の髪質からして
それにさ、誰に似たら、こんな性格の悪そうな顔になるんだよ! そんな不満を募らせていると、顔にまでそれが出ていたらしい。
母さんは両手をパチンッと合わせたあと、
「も〜。そんな顔しないの? あ、そうだわ! 早速だけど、この子のことを毛玉と呼ぶのは可哀想だし、名前をつけてあげるのはどうかしら?」
そう言い、毛玉を腕に抱き、喉元を撫でながら僕に提案する。
「元々なんて呼んでたの?」
「うーん。名前が決まっていなかったから、名前はつけてないわよ?」
母さんは優しく微笑みながら答える。
そんな母さんに毛玉も懐いているのか、ゴロゴロと嬉しそうに喉を鳴らしていた。
僕が眠っている間に、母さんと毛玉は仲良くなったんだな〜。なんて一瞬だけほっこりする。
だけどすぐ、えっ、ていうかこの状況で、毛玉のことを受け入れろってこと!? ちょっと待って!? 僕、まだ心の準備とかなにもできていないんだけど!? そんなことを考えながら母さんをチラリ。期待に満ち満ちた眼差しが返ってきた。
うぅ……。
「はぁ──」
うん、解った。名前つけようね。僕は深い溜め息のあと、渋々、名前を考えるために毛玉へ目を向けた。
僕が毛玉をジッと見つめていると、ふいに目が合う。
だけどその瞬間、毛玉はあっかんべーをして、プイッと顔を背ける。なにさこの生意気な顔! どーしてこんなに僕と性格まで真逆なんだよ! そんな憂いは自然と零れ、
「はぁ……」
深い溜め息として吐き出される。
「オマエ、オレサマのことジロジロ見すぎでキモイガウ! それに、オレサマの名前をつけるのかガウ? オレサマを投げ飛ばしておいて、まだイシャリョウも貰ってないガウ! そんな奴に、名前をつける権利なんてやらないガウ! 名前を付けたければ、イシャリョウ渡せガウ!」
そんな億劫な気分の僕とは対照的に、毛玉は無理やり母さんの腕から抜け出したあと、手書きの請求書を持って僕に判を迫ってきた。
「はぁ!? ヤダよ。キミが僕の足元にいたのが悪いんじゃん! キミにも責任があると思う!」
「オレサマはなにも悪くないガウ!」
「そんなことないよ!」
「うるさいガウ! とっとと金を出せガウ!」
そんな言い合いをしていると、突然、毛玉が僕の指を思いっきり噛んできた。
「いったぁ──! なにすんのさ!」
僕は痛みを堪えながら、毛玉の首根っこを思いっきり掴み怒鳴りつける。
だけどそんな僕の抗議も虚しく、毛玉は指から滴る血を請求書に無理矢理押し付け、
「これで契約は完了ガウ! サッサッと二十万セクト寄こせガウ!」
と偉そうな態度を見せ始める。
なんというか……。うん、理解した。この毛玉はとても、金意地が悪いらしい。
ていうか、今ので解った! この毛玉はぼくの
僕こんなに、
「…………」
そんな毛玉に呆れを覚え、じっと睨みつけていると、
「なんガウ? サッサと金出せガウ!」
毛玉は尊大な態度で喚き立て、どこからかとても〔臭く・茶色い〕土のようなモノを取り出し、僕に投げつけようとしてくる。
はぁ……、ほんと意味が解らない。僕はこの意味の解らない毛玉に、なにかを言ったり期待するのを諦め、机の上に置いてあった初支援金袋から一セクトだけ取りだし、毛玉に渡してみた。
「そうそう、それで良いガウ……。って! 一セクトしかないガウ! オマエ、喧嘩でも売ってるのかガウ!?」
一瞬、毛玉は一セクトで納得しかけたものの、一人ノリツッコミをしながら、セクトを床に投げつけ、再び唾を飛ばし激怒する。
なるほど。どうやらこの毛玉は、一応、数を認識することができるらしい。
ポンコツに思えたけど、そうじゃないのかな? でも、見た目はかなり、ポンコツなんだよね……。なんて考えていると、毛玉は再度、異臭を放つ〔茶色いナニカ〕を、僕に向かって投げつけようとする。
そんな毛玉の行動に、僕は身の危険を感じ、渋々ながらも一セクトを拾い上げようとした。
だけど毛玉は、僕よりも凄く早い速度でセクトを拾い上げ、「貰ったモノは返さないガウ! それがオレサマのポリシーガウ!」とか言い始め、
「やんのかコラガウ!」
なんて毛を逆立て威嚇してきた。
「はぁ──。はい、はい」
僕はそんな毛玉に呆れつつ、残りの十九万セクトと端数を手渡し、毛玉の要求に従わざるを得なかった。
毛玉は、セクトが貰えたことに満足したのか、上機嫌で窓を開け、
「オレサマ、今からカジノに行ってくるガウ!」
そう言うなり、どこかへ行こうとする。
そんな毛玉を僕は、たまたま握った尻尾を引っ張り
「まだ、名前を決めてないよ!」
そう制止した。
「ふんぎゃあ! オマエ、なにするんだガウ! オレサマのキュートな尻尾を掴むなガウ!」
毛玉はどうやら尻尾が弱点らしい。ふう──、ふう──、と息を吹きかけ僕に怒り散らす。でも、僕が知ったこっちゃない。
それに、『毛玉の名前つけよう。っていう話になったんだから、毛玉も居ないと!』という気持ちの方が強い。
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