12話-初仕事で命の危機!? なんでそうなるの!-

「わ、解った! 魂をカリュ……カリュマン・ブレッヒェンに貸す!」


 僕は大きな声で、カルマンに魂を貸すことを宣言する。


 だけど緊張か、それともカルマンへの恐怖からか、噛んでしまいなにも起こらない。


 化け物が、暴れ狂っているだけで、僕たちの間でシーンとした微妙な空気が流れる。


「えっと──。なにも起こらないけど……?」


 そんな空気に耐えきれず、僕は困惑した態度でカルマンに助けを求めた。


「おまえなぁ……。人の名前を噛むなよ。あと、フルネームじゃなくていい。あんなに俺とは仲良くしたくねぇ。って言いながら、フルネームで覚えているのも凄いな」


 カルマンは溜め息を漏らし、呆れ返ったあと


「俺に魂を貸すイメージをしろ」


 と投げやりな態度で、二つ目の方法を教えてくれた。


「……魂ってどんなイメージ?」


 魂を貸すイメージをしろ。と言われても、魂なんて実際に見たことがない。


 それなのに、イメージしろと言われても、想像できるはずもない。もしできる人がいるならば、その人は天才だと思う。


 僕はキョトンとしながらカルマンを見つめた。


「はぁ、だるっ。さっき、俺が使っていた炎のようなモノだ」


 カルマンは深い溜め息のあと、なにかボソリと呟き、魂がなんなのかを教えてくれた。


「え……? わ、解った!」


 なんて言ったのか解らないけど、あまり良いことを言っていない気がする。


 そんな不機嫌なオーラを全身にまとうカルマンに、怯えながらも、未だにピンとこない魂というモノをイメージするため、僕は目を閉じる。


 さっき見た炎をカルマンに渡すイメージ……。そう思い、無色透明な炎をイメージする。


 その瞬間、身体からフワリとなにかが抜ける感覚に支配された。


 なにかが抜けたような感覚のあとから、体全身がなぜか重い。目の前がチカチカして、気分も優れない。なんだろうこの感覚。


 それに、ナニもしていないのに、疲労感が溜まっていくような気だるさは……。


 僕は、なんとも言えぬ体の不調をを堪えつつ、カルマンからの指示を待った。


魂を守護するモノツカイマがいないのに、よく立っていられるな。少しは見直した」


 カルマンはそう言いながらも、目に視えないナニカを受け取るような仕草を見せかと思うと、手元に鋭く尖った鎌が現れる。


 どういった原理なんだろ? なにかの手品? そう思いながらも、僕はなにもできない。体に鉛が貼り付いたように動かない。


 だから、カルマンと化け物の攻防を近くで見守ることにした。


 カーンッ──。


 キーンッ──。


 鎌と鎌がぶつかり合い、甲高い金属音が響き渡る。


 そしてその衝撃波が周りへ広がり、目に見えない空気の刃物を作り上げ、木々なんかを軽く薙ぎ倒して行く。


 二人の戦いを一言で表現するならば、凄まじいほどの攻防戦。そう表現する他ないと思う。


 迂闊に近づけば生命いのちを落としかねない。そんな緊迫した空気が張りつめている。


 そして、この戦いに優劣を付けることもまた難しいと感じる。


 少しでもタイミングがズレれば、どちらもダメージを負いそうなくらい激しくぶつかるそんな二人を、僕は瞬きするのも忘れ、ただただ圧倒され続けた。


 だけどそんなタイミングで、僕の体に異変が訪れる。


 カルマンが鎌を振るう度、僕の体に強烈な痛みが走り始める。


 まるで、心臓をグッと誰かに掴まれているような、そんな感覚に近いと思う。


 実際、誰かに心臓を掴まれた経験なんてないから解らないけど、それと同時に鼓動が早くなり、息が上がっていく。


 なにもしていないのに急にどうしたの? そんなことを考えても解らない。


 益々、視界がボヤけ、力が抜けるような感覚に陥る。


 今はダメ! こんなところで気を失えば、戦いに巻き込まれ死んでしまう! 気をしっかり持たなきゃ! そう抗おうとするけど、できなかった。


 カルマンが、再度化け物に鎌を振るった瞬間、僕の視界がフッと暗闇に覆われフェードアウトしていく。



 最後に見た光景は、おぼろ気だけど……。鎌に小さなヒビが入っていたような、そんな気がする。

 

 どれだけ凄まじい威力で戦っていたんだろう? いやそれよりも……。これが魂の使命こん願者ドナーとしての、初仕事になるのかな……? あんなところで意識を失えば、死んだも同然。このまま僕は……。


 あ〜、死にたくないな……。


 まだ生きていたい。遠退く意識の中、僕はそんな願いを馳せ、意識を完全に飛ばした。

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