8話-気味の悪い幼女に急所を殴られたんだけど!?-


魂を守護するモノツカイマ契約をしに来たのですが……」


 僕はそんな疑問を払拭するために、何度か深呼吸をしたあと、どこにいるかも解らない声の主に、自分の存在を知らせるため言葉を発した。


 深呼吸を何度かしてふと気づいたんだけど、いつの間にか鼻と目は、刺すような異臭や、刺激に順応していたらしい。


 痛みや臭さを感じにくくなっている気がする……。気の所為かな? そんなわけないよね……? だってあんなに臭かったし、めちゃくちゃ目も痛かった記憶があるもん。そんなことを考えながら、自身の順応性の高さに驚いていると


「ふ〜ん。君が今日、魂の使命こん願者ドナー仮登録をしたっていう、新しい実験道具モルモットなのだわね」


 どこから出てきたのかは解らないけど、いつの間にか、僕の目の前に幼女にしかみえない……僕より頭一つ分ほど低い人物がいた。


 いつ僕の目の前に現れたのか? そんなことを思いながら幼女を見つめていると、幼女も僕のことを……あ、いや……。僕の全身を舐め回す様に見ながら、容姿とは似合わないくらい落ち着きのある、大人の女性の様な声を発する。


 幼女だろうとなんだろうと、それは良いとして……。


 強烈な異臭の元凶はもしかして、この幼女だったりするのかもしれない。


 強烈な異臭に体が順応したと思っていたけど、この幼女が現れてから、かなり鼻が曲がりそうなほど痛いし、なんというか化学薬品のような……、ツンと鼻をつくような……なんとも言えない独特な臭いが漂ってきて、吐き気を催しそうになる。


 もしかすると、長期的にお風呂に入っていないだけかもしれないし、臭すぎて脳が勝手に幻臭を創り出しているだけかもしれないけど……うん、臭いという言葉に尽きる。


 僕はそんな幼女が発する異臭に耐えながらも、再度幼女を観察する。


 幼女は、紫色の長髪を奇麗にセットすることもなく、ボサボサにして、科学者のようなブカブカの白衣を身にまとい、萌え袖というのかな? 手は袖から出すことが出来ていない。


 それに、白衣が大きすぎて、ドレスの様に裾を引きずっているから、ゴミなんかも巻き込んでしまっている。


 まぁ……なんというか、外見にかなり無頓着というのか……。ズボラそうな人。というのが第一印象かな?


 そんな幼女も僕を散々、舐め回す様に見たあと、なにを思ったのか……。僕の股間をシャンズでペチペチと急に叩きだす。


「うっ……」


 僕は急所をペチペチと叩かれ、みぞおちをグッと押さえられるような、体全身を駆け巡る痛みに、嗚咽しながら、息をするのも忘れ悶絶する。

 

 この幼女、なにするんだよ!? なんで急に僕は急所を叩かれたの!? 僕は涙ぐみながらその幼女を、キッと睨みつけた。


「もしかしてモルモット君の玉でも叩いてしまったのだわね?」


 幼女は、僕の悶絶している姿を見て、面白そうにケラケラと笑い声を発する。


 なにこの人!? 別に面白くもなんともないでしょ!? というか、謝罪しない? 普通は! そんな怒りと共に、なんとも言えない虚しさが込み上げてくる。


「あ……えっと……」


 僕は涙目のまま、文句の一つや二つくらい言ってやろうと思ったけど、痛みのあまり声を発することもままならなかった。


「それは事故なのだわね。我の手が丁度、届くところにそんなモノをぶら下げている、おまえが悪いのだわね! まぁ、そんなことはどうでも良くて。サッサと本題にでも入るのだわね」


 幼女は全く詫び入れることなく、色んなもので溢れ返り、ぐちゃぐちゃに散らかったテーブルの上に小さなからだで上り、足を組んだあと本題に入ろうとする。


「え……?」


 教会関係者は、謝罪もできない人たちが多いのだろうか? わざとじゃないなら、謝罪は必要でしょ! と言いたいところだけど、まだ痛みが残り続けているせいで、僕はなにも言えなかった。


魂を守護するモノツカイマ契約には、三……いや、五百ミリリットルほどの血液が必要になるんだけど、今取るか? それとも後日かを選べなのだわね!」


 幼女は僕のことなど、どうでも良い。と言わんばかりの態度で、要件だけを手短に話す。


 魂を守護するモノツカイマと契約するには、少し血が必要とは聞いていたものの、五百ミリリットルはどう考えても、少しではない気がするんだけど!?


 それに、どうして三百と言いかけて、五百になったのかも気になる。だけど、この状態ではそれを言うのも難しい。


 僕は一時間ほど抉るような痛みに耐え、ようやく落ち着いた頃、一度深呼吸をして


「今日します」


 と伝える。


「答えるのに時間がかかりすぎなのだわね!

そんなに強く叩いていないのに、おまえは貧弱すぎるのだわね!」


 どうしてこの幼女は、開き直った態度なのか。僕はイラ立ちと、なんとも言えない虚しさで泣きそうになるのを必死に堪えた。


魂の使命こん願者ドナーに早くなりたい理由はなんなのだわね?  金にでも困っているのだわね?」


 そんな僕のことなんてちっともお構いなしに、幼女は魂の使命こん願者ドナーになりたい理由を、世間話感覚で聞いてきた。


 そんな幼女の会話をしっかり聞いてみると、さっきから〔だわね〕と、独特な語尾をつけながら喋っていることに気がつく。


 だわね? と頭の中が少し混乱しているけど、またアレを叩かれるのも困るし、素直に幼女の質問に対する答えを考えてみることにする。


 リクカルトでは、自ら進んで魂の使命こん願者ドナーになりたい。と言う人間は、ほぼゼロに近い……。

 だけど、魂の使命こん願者ドナーになればお金の心配はなくなるもんね……。


 そんなことを考えていると、幼女の質問に少し寂しさを覚えてしまった。


「お金に困っているとか、そういうわけではないかな。魂の使命こん願者ドナーには、僕の意思でなりに来た。が、一番しっくりくるような気がするよ」


 僕は、見た目が幼女だしと、敬語や丁寧語ではなく、軽い言葉でそう返した。


 幼女はそんな僕の態度を気に止めることなく目を丸くし、なにかを考えたあと


「珍しいこともあるものだわね〜。まさか魂の使命こん願者ドナーになりたいと、自ら志願する者に会えるなんてね──。それもなにかの導きなのだわね」


 とボソリと呟いた。


 そんな話をしていると、幼女はテーブルからおり、なにをし始めるのかと様子を伺っていると、淡々としゃ血の準備を慣れた手つきで進め始めた。

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