15話-ドナー仮登録の完了-

「記入が終わりました」


 僕は、魂の色を記入欄に書いたあと、気だるげなセラフィムに書類を提出した。


「じゃあ、そこでちょっとまってて。えっと──」


 セラフィムは、僕から奪うように書類を受け取ったあと、なにかを探しながら、四人掛けの波形に近いソファーに座って待つように。と顎で指示を出す。


 うーん。やっぱりこの人、聖職者としてはかなりハズレな部類なんじゃ……? そんな困惑を抱えながらも僕は、指示通りソファーに座り、呼ばれるのを待った。

 

 だけど静寂な空間にいるせいか、待ち時間が長く感じる。


 やることないな〜。なんて考えていると、ふとカルマンが言ったの魂が、本当に存在するのか? そんな疑問が浮かび上がる。


 魂は確か──。カラフルな単色が多くて、白や黒、複数の色が混ざった色は無に等しいが存在する。と聞いたことがある。だけど、無色透明の魂なんて、一度も聞いたことがない。そもそも透明ってことは、他の色を重ねてしまうと、消えちゃうわけだし……。うーん。


『おまえの魂はもろい』

 

 そんな思考の滑車をグルグル回していると、カルマンの放った言葉が脳内で再生される。


 そういえばカルマンあのひと変な人だったよね。いや変な人っていうか……ムカつくような感じだった。


 カルマンのことを思い出したと同時に、〔無色透明の魂〕への興味が自然と薄れていく。


 どうして僕は初対面のカルマンに、魂が脆いだとか、モルモットにされる。だとか言われたのかな? もしかして、初対面じゃないとか……? いや……。あんな冷めた目の人に、一度でも会ってたら、早々に忘れるわけがないよね? うーん……。


 だけど、考えれば考えるほど、ふつふつと怒りが湧き上がってくる。どうして僕は、あんな人のことを考えているんだろう? そんな疑問を持ったと同時に、急にズキッと頭を刺すような痛みが僕を襲い始める。


 それは、これ以上考えなくていい。そう、僕の思考を止めようとしているみたいに。


 だけど僕は、そんな頭痛の意味・・なんて気にせず、こんな時に頭痛って風邪かな? なんて首を捻りながらも、もうカルマンあの人に会うことはない。そんな思考を繰り返しても、また会う。なぜだか解らないけど、そんな予感が僕の脳裏にこびりつき、治まらない頭痛と共に波紋を描き続けた。


「リーウィン・ヴァンデルング、魂の使命こん願者ドナーの書類登録が終わったから取りに来て。次にすることだけど、三階に魂を守護するモノツカイマの間があるから、そこで契約してきて」


 突き刺すような頭痛に苦しんでいると、セラフィムが無愛想に僕の名前を呼ぶ。


 このセラフィムは最後まで、気だるそうな態度を崩さなかったな。そんな呆れは関心へと変わっていく。


 まぁ、もう関わることもないだろうし。僕はそう考えながら、魂の使命こん願者ドナー仮登録カードと要請ブック、魂を守護するモノツカイマと契約するために必要な書類を受け取り、部屋をあとにしようとした。


 だけど魂を導く者セイトは、


「あっ、そうそう。魂を守護するモノツカイマを創るには、血が必要らしいから」


 そう、思い出した様に言ったあと、シッシッと僕のことを邪険にする。


 そして大きな欠伸をしながら、椅子の背もたれにドデーンと全体重を預け、だらけ始めた。


 はぁ──。ほんとこの魂を導く者セイトはなんというか……。ぐうたら? うーん、なんか違う……なんだろう。ぽんこつ……。あっー、聖職者もどき! そうだ! 聖職者もどきだ! なんであんな人が、魂を導く者セイトになったんだろう? そんな疑問を持ったけど、まぁ気にするだけ無意味か──。


 そう気を取り直し僕は、魂の使命こん願者登録の部屋この場をあとにした──。

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