13話-不快な少年-
「えっと──ここ、どこっ?」
どうやら僕は騙されたらしい。ほんと、なんなんだ! すぐ曲がったところに居る。って言ってたのに、そんな人、どこにも居ないじゃん! ただ真っすぐに伸びる廊下があるだけじゃん!
一応、隠し部屋でもあるのかな? なんて壁を触ったりしてみたけど、そんな部屋はなかった。
「もう!」
そんなイライラを吐き出しながら、僕は廊下をウロウロと歩き回続け──。
そうこうしているうちに、余計に迷子になってしまったらしい。帰り道も、もう判んない……。どうしよう、絶体絶命だ──。
そんな弱音を内で連ねていると、チラリと人影が。その影を追いかけ僕はとっさに
「あっ、あの、すみません……」
そう助けを求めた。
影の正体は、
だけど声をかけてから気づく。この人、なんか怖い感じがする……。どこかおぞましい雰囲気を漂わせる青年に、大丈夫だよね? そう胸に落としながら、返答を待つこと数分。
「……」
アレ……? だけど青年は、無言で僕をギロりと睨みつけ、どこか威圧的な雰囲気を漂わせるだけ。
「あっ、えっと……、教会の関係者ですか?」
しまった! 見慣れない色だけど、ローブを着ているから、教会関係者だと無意識に認識していた。
もしかするとこの人は、一般人だったんじゃ……!? なんて、今更気づいても遅い。
「……………………そうだと言えば、なにかあるのか?」
青年は長い長い沈黙のあと、不安げな表情で見続ける僕に根負けしたのか、冷た声で無愛想に答える。
「良かった……! えっと……。魂の色を鑑定してくれる人がいると聞いたんですけど、セラフィムの説明が大ざっぱすぎて、迷子になっちゃったらしくて……」
教会関係者なんだ。そう安堵しかけたものの、直ぐに矛盾点に気づく。
確かフォルトゥナ教会では階級があるらしく、教会で働く人々のことを
そんな
僕たち一般人が関わるのは基本、セラフィムとケルヴィムのみ。だから一風変わったフード付きローブの、『赤』と『青』を着用している人に声を掛ければ間違いない。
そして面白いのが、『白』は神自身を表す色で、『黒』は悪魔を象徴する色だから存在しない。って教えてもらったような気が……。
で、目の前の青年は白いローブを着ている。どうして? 白も着用可能になったとか? 僕はそんな疑問に首を捻っていると、
「ふっ──」
青年は一瞬だけ眉をピクっと動かし、鼻で笑う。
「えっ?」
「いや、なんでもない。おまえ、
なんで僕、急に鼻で笑われたの!? え、変なことでも言ったかな……? そんな気持ちを抱えながらも、
「あっ、えっ……はい!
開口一番、鼻で笑ってくる青年に、少し不快感や困惑を覚えながらも、無難に返そうと口を開くけど、鋭く冷めた目に僕の体は、無意識に凍てつき足が震え始める。そして、脳が早く逃げた方が良い。そう喚起する。
青年はそん僕の足元を見ながら、偉そうに腕を組み見下したあと、
「そうか。だが見るからにヘタレそうだな。
なんて言いながら再度、鼻を鳴らす。
そんな青年にムッとした感情を抱えながら僕は、
「えっ……? なんで僕、初対面の人にそんなこと言われているの?」
そんな不満をポツリと零す。
「なんだ? おまえ、
「仕組み……?」
「はぁ──。おまえ、それも知らないくせに、
そんな僕の態度に青年は、嘲笑うように腕を組み直し考え込み、ピンと来たんだと思う。そんな答えを導き出し、盛大に溜め息を漏らす。
実際のところ、僕は
僕はそんな事実を受けいれかけ、呑み込もうとしたけど、ん? クソジジイって誰? そんな疑問に脳が支配されていく。
そんな僕とは裏腹に、青年はかなり熟考していたんだと思う。
「おまえのような弱者が、
そう発すると同時に、僕から
そんな青年に僕は、警戒心を覚え
「え、ちょっと待ってください! 僕は自分の意思で
怒りや焦り、それから困惑なんかを覚えながらも、語気を強め抵抗した。
そんな僕に青年は、一瞬、目をパチクリとさせながらも、かなりごうまんな態度で見下し、
「ほぅ。自分からなりに来たと? 面白いことを言う奴だ。ならば良いだろう。なぜ
どこぞのお偉いさんにでもなった気分でいるのか、再度腕を組み直し「早く応えろ」なんて僕を急かす。
ちなみに、
だから本当は答える義務さえない。なのにも拘わらず僕は、バカ正直にその理由を探し、
「それは……」
そう言葉を濁していた。
実際、
そんな僕に青年は、時間は有限だとでも言わんばかりに大きな欠伸をしたあと、
「それは、なんだ?」
そう、冷たい声色を僕に向ける。だけど、僕の返答を待つ気は少しくらいあるらしい。なんとなく、態度からそう読み取れる。
だけど、どうしよう……。なんて説明すれば……? そんな焦りはどんどん僕を深淵に引きずり込み、
「えっと……。それは……ばく然としていると言うか……。なんとなく、ならなきゃいけない気がしていて──」
そう言いかけた瞬間、ナニカに導かれるように頭の中で、『運命の歯車が──』今朝の夢で印象に残る言葉がふっと浮かび、
「──っ! 神託を貰ったんです!」
とっさに僕はそう口にしていた。
別に嘘をついているわけじゃないから問題ないはず。それに、神の存在を信じない人なら、かなりグレーな言い訳。だけど相手は教会関係者だ。きっと信じてくれる! そう思っていたのに──。
「はぁ? なんだそれ。おまえは、おとぎ話の主人公にでもなりたいのか?
青年の口から出てきた言葉は予想だにしていないものだった。
青年は神など存在しない。そんなものを信じる奴はバカだ。不快だ。そう言いたげに鼻を鳴らし、鋭い眼光で僕を睨みつけたあと、あざ笑う。
青年の言い分は間違いじゃない、だけど──。
「はぁ〜!? 教会関係者なのに、どーして神の存在を否定するのさ! おかしいでしょ!? それに、理由を言えって言ったのは君じゃないか! 頭ごなしに、人の言い分を否定するのはどーかと思うんだけど!?」
なんてムキになり、早口でまくし立てていた。そして全部、言い終わりスッキリすると同時に僕は、我に返り、顔を青ざめさせる。
でも、全部言いきったあとに我に返ってももう遅い。僕は冷静さを取り戻すと同時に、逃げ出そうと背を向けた。
だけどそんな僕の襟ぐりを掴み、なに逃げようとしているんだ? そう言いたげな様子で
「キャンキャンとうるさい
そう言い耳に小指を突っ込みながら面倒くさそうに名前を聴き始めた。
「……はっ? えっと──。リーウィン・ヴァンデルングですけど? 取り敢えず人に名前を尋ねる時は、自身から名乗れと教えてもらわなかったんですか?」
僕はそんな青年の態度に腹を立て、とっさに睨みつけたあと語気を強める。
そんな僕に青年は、
「はぁ──。俺はカルマン、カルマン・ブレッヒェンだ」
大きく長い溜め息をついたあと、これで満足か? そう言いたげに僕を蔑む。
そんなカルマンと名乗る悪魔に僕は、余計イライラを募らせながらも、
「カルマンさんですね? 僕は二度と、あなたにはお会いしたくないです!」
そう言い必死に抵抗し続けた。
だけどカルマンの力は意外と強く、僕の力じゃビクともしない。そして、そんな僕を引き留めようとしたのか? それとも面白い玩具かなにかと勘違いしたのか、
「フッ、まぁなんだ。ここで出会ったのもなにかの縁だ。おまえ、魂の色を知りたいんだろ?」
かなりごうまんな態度で、脈絡のないことを言い始めた。
普通の人ならば相手にしなかったと思う。それに神を信仰しない聖職者なんて悪魔だ! そう思うはず──。なのに僕は、カルマンが放ったその一言で、思考を止め、
「え?」
そんな声を発しながらキョトンとする。
そしてなにを思ったのか、
きっと、そんな僕の態度が相当面白かったんだと思う。
「魂の色を教えてやるとは明言していないのに、なぜ、そんなに嬉しそうにしている?」
カルマンは、僕をおちょくって遊ぶように嘲笑い始める。
その言葉で僕はまた、カルマンにバカにされていることに気づき、
「えっ──? 別に嬉しいとかおもっていないし。それに教えてくれるんじゃないんですか?」
なんて、むくれっ面で否定した。
まぁ、そんな僕の心はきっと見透かされていたんだと思う。本当は少し期待していたからか、カルマンは「嘘をつくのが下手なんだな」なんて見下してきたあと、
「誰がいつ、教えると言った?」
なんて正論を突きつけてきた。
えっ、あ──。うん、カルマンは魂の色を知りたいんだろ? とは言っていたけど、『教えてやる』とは一言も言っていない。にも拘わらず僕は、教えてくれるものだとばかり思い期待しちゃってた……。これは罠だ! そんな怒りと自身の無知に僕は、逆ギレも甚だしい態度で、
「知りたいんだろ? って聞いてきたんだから、教えてくれると普通思うでしょ!」
全く攻撃にもならない睨みをお見舞する。
「──プッ。おまえは、どれだけ平和ボケした狭い鳥かごの中にいたんだ?」
そんな僕の発言を聞きカルマンは、肩を小刻みに揺らしながら声を殺し、背を丸めクックックなんて笑う。
……。うん僕、解った。めちゃくちゃバカにされてる。
なんなのこの人!? めちゃくちゃ性格が悪いんですけどぉ!? 一瞬でも、教えてくれるんだ! なんて期待した僕が悪かった! そうだね。教えるなんて一言も言ってないもんね! なんて不貞腐れながら睨みつけ、カルマンから逃げ出そうと再び抗った。
だけど、そんな抵抗は無駄でしかなく、カルマンは僕の襟を再度、掴み、
「まぁ待て。はー、こんなに笑ったのは久しぶりだ。俺を笑わせた礼だ、魂の色を教えてやる」
そんな提案を口にし始めた。だけど、もう騙されないもん! 僕はそう内で零しつつ、
「どうせまた、僕をおちょくろうとしているんでしょ? あといい加減、僕の襟掴むの辞めてくれないかな?」
目尻を吊り上げ眉をしかめた。
そんな僕にカルマンは、
「悪かった。おちょくりがいのある顔をしていたもんでな、つい」
謝罪にもなっていない謝罪をしたあと、一呼吸置き、
「おまえの魂の色は
そう続けた。
……あれ? 意外と優しかったりする? それとも僕はまたおちょくられている? 僕はそんな疑心暗鬼に囚われながらも、
「あり──」
『ありがとう』そう伝えようと口を開くけど、
「少し黙れ」
急にそんなことを言われ、僕の言葉は封じられた──。
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