4話-不快な少年-
「えっと──ここ、どこっ?」
どうやら僕は騙されたらしい。ほんと、なんなんだ! すぐ曲がったところに居る。って言ってたのに、そんな人、どこにも居ないじゃん! ただ真っすぐに伸びる廊下があるだけじゃん!
一応、隠し部屋でもあるのかな? なんて、壁を触ったりしてみたけど、そんな部屋は存在しなくて、僕はイライラと困惑する気持ちを抱え、廊下をウロウロと歩き回った。
そうこうしているうちに、僕は余計に迷子になってしまったらしくて……帰り道も、もう覚えてない。どうしよう絶体絶命だ──。
そんな弱音を吐いていると、チラリと人影が見えた気がしたから、その影を追いかけとっさに助けを求める。
「すみません……」
影の正体は、
だけど声をかけてから気づく。この人はなんか怖い感じがする……。大丈夫だよね? そう胸に落としながら、青年の返答を待つこと数分。
「……」
アレ……? だけど青年は、無言で僕をギロりと睨みつけ、どこか威圧的な雰囲気を漂わせるだけ。
「あっ、えっと……、教会の関係者ですか?」
しまった! 見慣れない色だけど、ローブを着ているから、教会関係者だと無意識に認識していた。
もしかするとこの人は、一般人だったんじゃ……。なんて、今更気づいても遅い。
「……………………そうだと言えば、なにかあるのか?」
青年は長い長い沈黙のあと、不安げな表情で見続ける僕に根負けしたのか、無愛想に、そして冷たくそう答える。
「良かった……! えっと……。魂の色を鑑定してくれる人がいると聞いたんですけど、セラフィムの説明が大ざっぱすぎて、迷子になっちゃったらしくて……」
教会関係者なんだ。そう安堵しかけたものの、直ぐに矛盾点に気づく。
そう教わったはず。だけど実際に目の前の青年は、白いローブを着用しているし、教会関係者だと言っている。どういうことなんだろ? 僕は困惑を覚え瞳を揺らす。
「ふっ──」
僕が困惑していると、青年は一瞬だけ眉をピクっと動かし、鼻で笑う。
「えっ?」
「いや、なんでもない。おまえ、
なんで僕、急に鼻で笑らわれたの!? え、変なことでも言ったかな……? そんな気持ちを抱えながらも、
「あっ、えっ……はい!
開口一番、鼻で笑ってくる青年に、少し不快感や困惑を覚えながらも、無難に答えようと口を開くけど、鋭く冷めた目を見ていると、無意識に体が凍てつき足が震えてくる。そして、脳が早く逃げた方が良い。そう喚起してくる。
「そうか。だが見るからにヘタレそうだな。
青年は僕の足元を凝視しながら後ろの壁に背を預け、偉そうに腕を組み、僕のことを見下してきたかと思うと、また鼻で笑ってきた。
「えっ……? なんで僕、初対面の人にそんなこと言われているの?」
「なんだ? おまえ、
「仕組み……?」
「はぁ──。おまえ、それも知らないくせに、
青年は一瞬、そんなことも知らないのか? そう言いたげだったけど、直ぐになにかにピンと来たんだと思う。
組んでいた腕を崩し、顎元へ手を持って行きながらなにかを考える素振りを見せ始める。
でも実際、僕は
そう思ったけど、クソジジイって誰? そんな疑問が浮かぶ。
「おまえのような弱者が、
青年はかなり頭の中で思考していたのだろう、そう発すると同時に、僕から
「え、ちょっと待ってください! 僕は自分の意思で
僕は青年の意味不明な行動に、腸が抉られるような怒りと困惑を覚えながらも、語気を強めた。
「ほぅ。自分からなりに来たと? 面白いことを言う奴だ。ならば良いだろう。なぜ
青年は、一瞬目をパチクリとさせながらも、かなりごうまんな態度で僕を見下し、再度腕を組み直す。
ちなみに、
「それは……」
だから本当は答える義務さえない。なのにも関わらず僕は、バカ正直にその理由を答えようとした。
実際、
ソレは憧れや夢でもなんでもない。だからここで答えるべき模範解答は、誰かにおまえは
だけど、それが本当だったのか覚えていない。もしそれが嘘ならば──。嘘は罪。そんな思考を円盤のように回しながらも、青年の威圧にも似た冷めた鋭い眼光が怖すぎて、僕は途中で口を閉ざす。
「それは、なんだ?」
青年は、時間は有限だ早く言え。と急かすような態度を取りながらも、僕の返答を待つ気はあるらしい。どうしよう、なんて説明すれば……。そんな態度に申し訳なさを感じながら僕は、どんどんドツボにハマって行き、
「えっと……。それは……ばく然としていると言うか……。なんとなく、ならなきゃいけない気がしていて──」
そう口にしながら〔運命の歯車が──〕そんなことを言われた気がすることを思い出し、
「──っ! 神託を貰ったんです!」
苦し紛れな言い訳に過ぎないけど、そう言いきった。この言い訳はかなりグレーゾーンだと思うけど、教会関係者ならば信じてくれる! そう思い、これでやり過ごそう。そんな安直な思考で口にした。
「はぁ? なんだそれ。おまえは、おとぎ話の主人公にでもなりたいのか?
だけど、青年の口から出てきた言葉は予想だにしていないものだった。
青年は神など存在しない。そんなものを信じる奴はバカだ。不快だ。そう言いたげに鼻を鳴らし鋭い眼光で睨みつけたあと僕をあざ笑う。
青年の言い分は間違いではない。だけど──。
「はぁ〜!? いくらばく然とはいえ、見ず知らずの人から、いきなり弱者だとか、辞めろとか、モルモットにされるだけ。とか言われて、はい、諦めます。ってなると思ってるの!? それに教会関係者なのに、どーして神の存在を否定するのさ! おかしいでしょ!?」
なんて、ムキになりながら早口でまくし立ててしまった。
そして全部言い切りスッキリした僕は、我に返り顔を青ざめさせる。
でも、全部言いきったあとに我に返ってももう遅い。僕は、冷静さをとりもどすと同時に、膝を震わせ背を向けようとする。
「キャンキャンとうるさい
フッ。まぁいい、そんなに怒るな。おまえとはいずれまた、会う気がする。名前は?」
だけどそんな僕の襟ぐりを掴み、なに逃げようとしているんだ? そう言いたげな様子で
「……はっ? えっと──。リーウィン・ヴァンデルングですけど? 取り敢えず人に名前を尋ねる時は、自身から名乗れと教えてもらわなかったんですか?」
僕は逃げ道を塞がれた小動物のような感覚に支配され、窮鼠猫を噛むとまではいかないけど、とっさに振り返り睨みつけたあと、語気を強める。
「はぁ──。俺はカルマン、カルマン・ブレッヒェンだ」
カルマンと名乗る悪魔は、めんどくさい。そう聞こえてきそうなほど大きく長い溜め息をついたあと、これで満足か? そう言いたげに僕を蔑む。
「カルマンさんですね? 僕は二度と、あなたにはお会いしたくないです!」
僕はそんなカルマンにそう宣言したあと、手を離せと振り払おうとする。
「ここで出会ったのもなにかの縁だ。おまえは、魂の色を知りたいんだろ?」
だけど、カルマンの力は意外と強く、僕の力じゃビクともしない。そして、そんな僕を引き留めようとしたのか? それとも面白い玩具かなにかと勘違いしたのかは判らないけど、かなりごうまんな態度で、脈絡のないことを言い始める。
「え?」
普通の人ならば相手にしなかっただろう。それに神を信仰しない聖職者なんて悪魔だ! そうおもうはず──。なのに僕は、カルマンが放ったその一言で、思考が一瞬止まり、キョトンとする。そしてなにを思ったのか、
そんな僕の態度が相当面白かったんだと思う。
「魂の色を教えてやるとは明言していないのに、なぜ、そんなに嬉しそうにしている?」
僕、そんなに嬉しそうにした? 別にそんなつもりはないんだけど。そう思うけど、カルマンは僕をおちょくって遊ぶように嘲笑う。
「えっ──? 別にうれしいとはおもっていないし。それに教えてくれるんじゃないんですか?」
「誰がいつ、教えると言った?」
えっ、あ──。うん、カルマンは魂の色を知りたいんだろ? とは言っていたけど、〔教えてやる〕とは一言も言っていない。なのにも関わらず僕は、てっきり教えてくれるものだとばかり思っていた。なに僕、かなりバカにされてない?
「知りたいんだろ? って聞いてきたんだから、教えてくれると普通思うでしょ!」
僕はそんなカルマンに不貞腐れながらも全く攻撃にもならない睨みをお見舞する。
「──プッ。おまえは、どれだけ平和ボケした狭い鳥かごの中にいたんだ?」
カルマンはそんな僕の態度が相当面白いと感じたらしい。肩を小刻みに揺らし、声を殺し背を丸めクックックなんて笑う。
……。うん僕、解った。めちゃくちゃバカにされてる。
なんなのこの人!? めちゃくちゃ性格が悪いんですけどぉ!? 一瞬でも、教えてくれるんだ! なんて期待した僕が悪かった! そうだね。教えるなんて一言も言ってないもんね! なんて不貞腐れながら睨みつけ、カルマンが笑った拍子に力を抜いてくれたおかげで逃げれるようになったから、そのタイミングを見計らい、逃げようとする。
「まぁ待て。はー、こんなに笑ったのは久しぶりだ。俺を笑わせた礼だ、魂の色を教えてやる」
だけどカルマンは、僕からすると、そんなに笑っていなかったと思う。なのに、こんなに笑ったのは。なんて自己申告をしながらも直ぐに表情を戻し、襟ぐらを掴む手に再度力を込め始める。
「どうせまた、僕をおちょくろうとしているんでしょ? あといい加減、僕の襟掴む辞めてくれないかな?」
僕は、どうせ
「悪かった。おちょくりがいのある顔をしていたもんでな、つい」
カルマンは、謝罪にもなっていない謝罪をしたあと、一呼吸置き
「おまえの魂の色は
そう続けた。
……あれ? 意外と優しかったりする? それとも僕はまたおちょくられている?
僕はそう思いながら
「あり──」
ありがとう。そう伝えようとして口を開きかけるけど、
「少し黙れ」
そう言われ、言葉を封じられた。
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