3話-教会へ-
「赤き月がリクカルトに現れた時、モルストリアナが再びこの地で、命を取り戻すでしょう」
教会へ向かっている道中、今日はヌワトルフ神父の演説日だったらしい。白く伸びた髭を綺麗に整えた老父が、そう熱心に訴えかけていた。
モルストリアナの再来。それは、古い文献に記された一説だ。
確か──。
〔悪魔に魅入られ
そう記されていたはず。
だけど、赤き月なんて誰も見たことがない。だからヌワトルフ神父を信仰する、信者と呼ばれる人々以外は、あ〜。なにか言ってるな〜。はいはい。くらいの感覚で、特に気にした素振りも見せず、素通りを決め込む。
そして、僕もそのうちの一人だ。
まぁ、たまにとても重要なことを口にしていたりするから内容は要確認! だけどね。でも基本的にリクカルトは宗教国家。ヌワトルフ神父が行う演説も宗教関連がメイン。神々の存在を否定するつもりなんて毛頭ないけど、長い宗教演説なんて聞くだけ時間の無駄だ。
そんなヌワトルフ神父を横目に教会へ着いた。が、ここで重大なミスに気づく。
いくら
だから、えっ!? って言うくらい長蛇の列が僕の目の前にあるだけ。
ヒヒーンッ! パカラパカラ──。
そんな列に唖然としていると、僕のことは眼中にない。空気だとでもいうように、目の前を急いだ様子の馬車が通り過ぎる。
「ひゃっ──。もう! 人がいるんだから、もう少し速度を落としてよ!」
ぶつくさと、泡のように不平を漏らしながらも僕は、あの列に並ばなきゃなのかと気を重くする。
フォルトゥナ教会は、朝の十時から夕方の十八時までしか一般開放されない。
その理由に、教会としての役割以外の公的業務を担っている。ということと、メテオリットという謎の生命体が深く関わっているから、らしい。
公的業務は
諸説ありだけど、人間が生まれるずっと昔から存在すると言われていて、世界を
まぁ、誰もその存在を見たことがないから、メテオリットの正体は、メテオリットの〔欠片〕じゃないのか? なんて囁かれているけどね。
メテオリットの欠片の外見を、一言で言えば〔ガラス片〕。
姿・形が定まっていないメテオリットと違って、欠片はその名の通りと言った感じで、その欠片を必要悪にするため、話を膨張させ信ぴょう性を持たせるために、夜間は閉鎖しているという説が、一番有力視されている。
ただの憶測に過ぎないから真実は解らないけど。
時刻を確認するため、教会の屋根付近に付いた大時計に目を向けると、九時四十五分頃を指している。
僕は暇だな〜。こんなことならヌワトルフ神父の演説を──。なんて思考が胸をかすめながらも、たくさんの人々がガヤガヤと世間話なんかをしている列に並び、ボケェ〜と街の様子を観察し、施錠が開くのを待った。
「今日はなにしにこちらへ?」
「今日はひと月に一度、クトロケシス様へ祈りを捧げる日なのです。あなたは?」
「まぁ、それは大切なことですね。私は妹が、もう少しで子供を授かるので、その申請へ」
そんな会話が聞こえてきて、僕は
そして、教会に沢山の人が集まっていることが当たり前の日常として受け入れてられているのか、ナダイムの住人たちは長蛇の列に驚く素振りも見せず、馬車や人力車なんかが忙しなく往来し、道端に並ぶ露店の呼び込みなんかで活気づいていた。
ゴーンッ──。ゴーンッ──。
そんな街の人々の様子を観察していると、十時を報せる鐘の音が轟き、それを皮切りに教会内へ人が濁流のように流れ込む。
僕はそんな人たちにもみくちゃにされながら中へ。
「はぁ──、はぁ──。死ぬかと思った……」
僕は壁に手を付き、息を浅く整え辺りをキョロキョロと見渡す。
教会内は見渡す限り人、人、人で溢れかえっていて、軽く引いてしまう。
「貴様! 怪しい動きをしているな!」
僕は教会に滅多なことでは訪れない。だから物珍しさが勝っちゃって、キョロキョロしすぎたのが悪かったんだと思う。
そんな僕を不審がったケルヴィムと思われる
「えっ、あ、いえ! 僕は怪しいものではありません!
「ほう? ならば、成人の証をみせろ。そして、なぜそんなに挙動不審な動きをしていたか理由を答えろ」
ケルヴィムは、かなり高圧的な態度で僕に詰め寄り、挙動不審だった理由を追求し始めた。
「いや、えっと、その──。こんなにも沢山の人々が教会に訪れているんだな〜。なんて、感心しちゃってたというか──呆気に取られていたというか……」
そう口をモゴモゴとさせ説明しつつも、特に悪いこともしていないのに、どうしてこんなに問い詰められているんだろう? なんて
そのあとなんとか疑いを晴らし、案内役兼、警備を担当しているケルヴィムに導かれながら、
フォルトゥナ教会では階級があるらしく、教会で働く人々のことを
僕たち一般人が関わるのは基本、セラフィムとケルヴィムのみ。だから一風変わったフード付きローブの、赤と青を着用している人に声を掛ければ間違いない。
そして面白いのが、白は神自身を表す色で、黒は悪魔を象徴する色だから、存在しない。とされていること。
「こちらが
ケルヴィムはそう言うと、そそくさと僕に背を向ける。
「あっ、ありがとうございます」
僕が住む旧セリーシア街は、自然豊かな街で近所付き合いも頻繁に行われている。
だからそんな温かみのある人間しかいないと思っていたんだけど、どうやらこのナダイムという都市の住人は、なんというか冷たい。
寒暖の差で風邪をひきそうなほど、僕の当たり前は通用しないことを知った。
「こんにちは。
そんな都会の人間に恐怖を覚えながらも気を取り直し、部屋の扉を開けて僕はまた眉を下げる。
もうあからさまにやる気のないような……。椅子に腰掛け眠そうに、ウトウトしているセラフィムが現れた。
かなり怠惰を極めたその姿に困惑するも、僕は今日の一大イベントを再開させる。
「あー。枠はまだ空いてるみたいだねぇ〜。えーっと──」
「はい、これ埋めて。で、書けたら持ってきて」
セラフィムはそう言い、僕の成人の証を確認したあと、一枚の記入用紙とペンを投げるようにして渡す。その間も気だるげな態度は一切変えずに。
「すみません。魂の色というのはなんですか……?」
僕は、その書類をチラリと確認し、聞き馴染みのない〔魂の色〕がなんなのか? 気だるげな様子のセラフィムに確認する。
「はぁ……。
セラフィムは、大きな溜め息をつき、小言を言いながら僕に顎で指示する。
そんなセラフィムの態度に僕は、モヤモヤを募らせながらも、魂の色以外を記入してフォビラスが居ると教えてもらった場所へ向かった。
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