第1話-十六の誕生日
ピヨピヨピヨッ、ピヨピヨピヨッ――
「リーウィンちゃん朝よ〜♪ 起きなさ〜い!」
黄色い鳥を模した目覚まし時計の音が鳴ると同時に、朝からとても元気な、母さんの声が部屋に響き渡る。
「ふわぁ〜起きてるよ……zzz」
僕はナニカ、変わった夢を見ていた気がする。それに耳に息を吹きかけられたような……。そんな感触が微かだけど、残っている。
だけどどうしてだろう? 内容が全く思い出せなくて……。
僕の運命が──。なんて言われたっけ……? 運命……? なにそれ。そんなことを思いながら僕は、微かに残る耳の違和感を気にしながらも布団から顔を出し、目覚まし時計を止める。
運命……、運命……。運命……? 運命ってなんだっけ……? 運命という言葉を繰り返しているうちに、なにを考えなければいけないのか解らなくなり、頭がゲシュタルト崩壊してくる。
よく解んないし……そう思いながら、再び夢の世界へ──。 ウトウトと、再度眠りにつきかけハッとする。
今日は、大切な用事があるんだ!
僕は用事を思い出したと同時に、ベッドから勢いよく起き上がり、急いでリビングへ向かう。
「リーウィンちゃん! ちゃんと起きて〜! 顔を洗って、歯を磨いて来るのよ?」
食卓へ着くや否や、母さんは僕に背を向け、朝食の支度をしながら指示を出す。
「ふぁーい」
僕はそんな母さんの指示に適当な相槌を返し、洗面所へ向かった。
今日は教会で、
だけど楽しみすぎて、全然寝付けなかった。ドキドキとソワソワが絶妙なバランスで襲いかかってきて、心臓を高鳴らせすぎたせいで、眠れたのは日付を跨いだあと。
そのせいか、あんなに急いでリビングへ降りてきたのに、歯磨きしているとまた睡魔が襲いかかってくる。
「リーウィンちゃん〜! 起きてる? ちゃんと起きてないと、チュウしちゃうわよ〜?」
ボケェ〜。と、眠ぼけまなこで歯を磨き、ウトウト夢見心地でいると、母さんがちゃめっ気たっぷりなことを言い始める。
それに面をくらい、危うく歯ブラシごと飲み込こんでしまうところだった。危ない危ない。
正確な指示を出してくれるのはとてもありがたいんだけど、急に変なことを言い出すの辞めてくんないかな!? そんな不満を並べながら戻ると、テーブルの上にはさっきまでなかったはずの、美味しそうな香りを漂わせる食事が僕を待っていた!
「リーウィンちゃん♡ ちゃんと目は覚めたかしら〜? 今日はなんの日か判る〜?」
そんな僕を横目に、母さんはいたずら気を交じえ、上機嫌にほほ笑む。
「今日……? 今日は……教会へ行く日だよね! 楽しみすぎて昨日の夜、寝付くのに時間がかかっちゃったよ!」
僕はソワソワした態度で、今日の特大イベントがいかに楽しみかを笑顔で話す。
「半分は正〜解♡ でも〜、半分は不正解よ〜?」
「……?」
母さんは小首を傾げる僕をみて、わざとらしく微笑んだあと、奇麗に包装された小箱を手渡してきた。
箱を渡されてもなんの日か? あまりピンと来るはずもなくて……。今日が僕にとって、特別な日になるから、それのお祝いかな? なんてキョトンと箱を見つめていると、母さんは待ちきれなくなったのか、
「リーウィンちゃん、十六歳のお誕生日おめでとう!」
そう言って、ギュッと抱きしめて来るから、ようやく今日は、僕の誕生日だと気がついた。
チラッと見えるカレンダーには、今日だけ大きなハートマークが描かれていて、どれだけ楽しみにしていたのかが伺える。
教会へ行く日。それが今日、一番大切な用事なのは間違いない。だけど、そのことに気を取られすぎて、自分の誕生日なんて、すっかり忘れていた。
「母さんありがとう……。でも、苦しいから、その辺で、勘弁してくれる……?」
そう言い、母さんの腕から抜け出したあと、僕は椅子に腰を下ろし、朝食の吟味を始めた。
色艶が奇麗なサラダは緑や赤、黄色などの果菜類や根菜類が添えられ、その下には瑞々しい緑の葉菜類が敷かれている。それからメインディッシュだと思われる、カリッシュの腸詰がほんのり香ばしく、僕の鼻孔をスッと抜けていった。
他にも様々な料理が用意されていて、僕は目をキラキラと輝かせ、口の中であふれる唾液をゴクリと飲み込む。
「あら〜。ごめんなさいね〜! つい嬉しくって〜!」
「もう! 僕は子供じゃないんだよ!」
僕はいつまでも子供扱いを辞めてくれない母さんに、昨日貰ったばかりの成人の証をみせ、邪険な態度を取る。
この国では、十六歳になる前日、教会関係者である
成人を迎えればいつでも
そして、そんな僕の思考を読むように、母さんは、まだまだ子供ね。そう言いたげにほほ笑んだ。
「プレゼントの方は、あとで開けるね!」
そんな母さんの態度に不満を覚えながらも、僕は貰ったプレゼントを直ぐには開けず、テーブルの隅に寄せた。
そんなに重みもないから、多分中身は小物だと思う。ナマモノじゃないなら、別に今開けなくても問題ない。
だけどその様子が気に入らなかったのか、母さんは、
「どうして〜!? 今、開けてくれないの〜?」
なんて、文句をたれ始める。
「はぁ──」
僕は軽く溜め息を漏らし、早く朝食にしよう。と母さんに促した。
「むぅ〜! リーウィンちゃんは、もう少し女心ってモノを学ぶべきだわ!」
こんなところで女心云々と言われても……。が正直な感想。
時刻は七時十分頃。まだ時間はたっぷりとあるけど、この調子じゃご飯にありつくまでに時間がかかりそうだ。
僕はそんなことを考えながら、
「はいはい。じゃあ先に食べちゃうよ?」
なんて適当にあしらい、
「天より──」
と一人で食事を始めようとする。
「ちょっと待って!? 母さんも食べるわよ!」
本当に一人で先に食べるとは思っていなかった様子で母さんは、アワアワと焦る。
そんな様子に僕は内心笑いそうになりながらも、ここは堪え両手を組み直す。
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