一章『母の想いとこの願い』

10話-十六の誕生日



ピヨピヨピヨッ、ピヨピヨピヨッ――


「リーウィンちゃん、朝よ〜♪ 起きなさ〜い!」


 黄色い鳥を模した目覚まし時計が鳴ると同時に、母さんの元気な声が部屋中に響き渡る。


「ふわぁ〜……起きてるよ……zzz」


 そんなことを思いつつも、なにか、変わった夢を見ていた様な……。でも、どんな夢を見てたんだっけ? 確か、『運命が──』なんて言ってたっけ? だけど、僕はただの一般人だし……。


「運命……、運命……。運命ってなんだっけ……?」


 うわ言のように「運命」という言葉を繰り返すうちに、ゲシュタルト崩壊してきたっぽい。なにを考えなきゃいけないんだっけ?


 うーん、解んないし、きっとただの夢だよ。うん、きっとそう。そう結論づけ、布団から顔だけを出し、目覚ましを止めたあと再び眠りに落ちかけ──。


 ハッ! 今日は、魂の使命こん願者ドナー登録する日じゃん! 僕はそれを思い出し、ベッドから飛び起き、慌ててリビングへ向かった。


 そして、リビングに着くなり、寝ぼけたまま食卓に腰を下ろした僕に、背を向け朝食の支度をする母さんは、


「リーウィンちゃん、おはよう〜! 顔を洗って、歯を磨いて来るのよ?」


 そう指示をしてきた。


「ふぁーい」


 そんな会話のあと、僕は洗面所へ。顔を洗って歯を磨いて──うぅ……眠い……。


 歯磨きの時間って退屈だし、シャカシャカって一定のリズムが刻まれるから眠たくなるよね……。そんなことを思っていると、


「リーウィンちゃん〜! 起きてる? ちゃんと起きてないと、チュウしちゃうわよ〜?」


 母さんがちゃめっ気たっぷりな言葉を発する。そんな言葉に思わず面を食らい、危うく歯ブラシを飲み込みそうになる。危ない、危ない。


 急に変なこと言わないでくれないかな!? そんな小言を垂れながらリビングへ戻ると、テーブルには、さっきまでなかったはずの美味しそうな香りを漂わせる朝食が!


 朝食はとても豪華で、メインディッシュはカリュッシュの腸詰め! そんな腸詰めの彩りを良くするためか、緑や赤、黄色の果菜類や根菜類が添えられ、その下には瑞々しい緑の葉菜類が敷かれている。


 そんな青々しい野菜や、ほんのり香ばしい肉の香りが僕の鼻孔をスッと抜け、自然とヨダレが……ジュルリ。


 そんな朝食を吟味しながら、今日のモーニングティーはなんだろ? なんて考えていると、


「リーウィンちゃん、ちゃんと目は覚めたかしら〜? 今日は何の日か分かる〜?」


 そんな僕を横目に母さんは、上機嫌に微笑む。


「今日は、魂の使命こん願者ドナーになれる日だよね!? 昨日は楽しみすぎて寝付けなかったよ!」


 僕はソワソワしながらも、今日の特別なイベントがいかに楽しみか、笑顔で答えた。


 だけど、母さんの求めてた回答はそれじゃなかったらしい。


「半分は正〜解。でも〜、半分は不正解よ〜?」


 そんなことを言いながら、「もっとほかにもあるでしょ?」なんて悪戯っ気な笑みを浮かべる。


「……?」


 だけど僕には心当たりがない。今日は魂の使命こん願者ドナー登録をする以外になんか用事あったっけ? そんなことを考えながらいぶかしげていると、ヒントよ。なんて言いたげに、奇麗に包装された小箱を手渡してきた。


 だけどやっぱり心当たりがない。僕は小首を傾げ、悶々と悩む。


 そんな僕の態度に待ちきれなくなった様子で母さんは、


「リーウィンちゃん、十六歳のお誕生日、おめでとう!」


 そう言ってギュッと抱きしめてくるから、今日が僕の誕生日だと思い出した。


 チラッと見えるカレンダーには、今日だけ大きなハートマークが。めちゃくちゃ楽しみにしてたんじゃん!? そんな驚きを内に零しつつ、


「母さん、ありがとう! でもそんなに回りくどいやり方じゃなくても良かったんじゃないかな?」


 なんて苦言を呈しながら、僕は母さんの腕から抜け出した。


「回りくどくないわよ! なに言ってるのかしら? あー! さては、誕生日のこと忘れてたとか!?」


「(ギクッ)まっ、まっさかぁ〜! そんなわけないじゃん! もう僕だって立派な成人だよ? そんな子供みたいに自分の誕生日を忘れるなんて──……」


 僕は昨日貰ったばかりの成人の証を見せながら、必死に言い訳を並べる。


 だけど母さんは、そんな僕の心を見透かしているように目を細め、怪しむようなジト目を向け始める。


 そんな母さんに、僕はたじろぎながらも、


「プ、プレゼントは、あとで開けるね!」


 話を逸らすように、プレゼントをテーブルの隅へ置いた。


 だけどそんな僕の態度が気に食わなかったらしい。


「え〜、どうして〜? 今、開けてくれないの〜?」


 母さんは、わざとらしく頬を膨らませ、


「リーウィンちゃんは、女心ってモノが全く解ってないわ!」


 なんて意味の解らない文句を並べ始める。


「はぁ──」


 こんなところで女心云々と言われても……。そう内心、呆れながらも僕は、軽くため息を吐き、


「はいはい、そうだね」


 そんな感じで適当にあしらい、食事の前の挨拶をしようと胸の前で手を組む。


 そんな僕を見た母さんは、


「えっ、ちょっと待って!? 一人で先に食べるなんてダメよ!」


 焦った様子で席につき、僕、同様に胸の前で手を組み目を閉じた──。

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