9話-不可思議な夢-

「運命の歯車が、もうじき動き始めます」


 始まりはきっとこの夢。僕の運命を変えた元凶。


 そんな悪とも善とも呼べる夢の中、容姿の全てを白い霧に覆うようなが、理解しがたい言葉を告げたことが全ての始まり──。


 不思議なことに、その声はノイズ混じりで男か女なのかも判らない。なのに遠くから響くような、耳元で囁くような……そんな独特な響きを持っていた。


「運命の歯車……?」


 ポツリと呟くけど、僕の運命とはなにか? 考えてみても、まるで答えなんて解らない。心当たりも特にない。


 僕に特別な力もなければ、目立つ才能も特にない。どこにでもいるような普通の人間だと思う。まぁ、強いて言えば女性に間違われる容姿を持っていることくらいかな……。


 だからこそ、自分に向けられるという言葉には疑問しか浮かばない。


 疑問の中に色を付けるように、不安と困惑が入り交じり、なんとも言えない心の白煙が、シミのように広がっていく。


 それに、という言葉に現実味がないからか、僕には全く関係がないように感じてしまう。


 それでも運命とはなんなのか? 尾を引くように脳裏へ引きずっていく。


「僕の運命ってなんですか?」


「あなたは次に目が覚めた時、ここで話した内容の大半を忘れていることでしょう。ですので、あなたの運命について少しだけ伝えておきます」


 そう聞いたと同時に、目の前にいるは僕の言葉に言葉を重ね、なにかを伝えようとする。


 だけどそれっきり反応がない。今、目の前にいる人影は、幻影の類なのか? そう思わされる程にその次が返ってこない。


 まるで吹き込むことを忘れたように、沈黙だけが漂う。


 でも僕の目の前に、が居るのもまた確か。


 これが幻影の類ならば、ここまで惹き付けられることもないと思うんだけど……。それくらい、目の前に居る誰かの言葉や存在には、なんとも言えない重みが感じとれた。


 だけど、なんの返答もない──。


 僕の質問にも、自身が伝えようとしている内容も一切、教えてくれない。


 不安が僕の中で強まっていく。


 そんな不安を払拭するために、この存在がなんなのか、自分なりに考えてみることにした。


 一瞬、過ぎったのは脳の錯覚。壁のシミなんかが、顔に見えたりするアレ。僕の脳が勝手に錯覚を起こし、ナニカが存在するように誤認しているだけかも。


 この考えが一番しっくりくるな。そう思ったけど、やっぱりただの錯覚で、ここまでの存在感を放つことは可能なのか? そこに着地する。


 最終的には答えなんてでなくて、僕は理解を得ようとその誰かを、じっとぎょう視し続けた。


 だけど、なにも判らない誰かをぎょう視したところで、深い霧の中。


 なにもかもが有象無象で、ここが白い空間。それしか判断できない。


 なにも判らない。判断材料が存在しない。

 これは夢か現実か? そんなことをあれこれと考えていると、徐々に霧に包まれた空間が、僕から遠のいて行くような……。


「あなたは運命のために、魂の使命こん願者ドナーになりなさい。その理由は今はまだ知らなくて良いのです」


 忘れ去られた言葉を取り戻すように、誰かはそう告げる。


 そんな言葉を皮切りに、体だけがどこかへ連れ去られる感覚に抗い、僕は理解できないがなにか? 繰り返し叫び続けた。


「さぁ、未来を切り開きなさい。あなたがこの世界の真実を暴くのです。そして──」


 もう暗闇の中に差し込む、一筋の光程度の霧しか見えなくなった頃。


 僕の耳元で、誰かがそう呟いた気がする……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る