008-討伐戦の終幕-
「という事らしいわ〜。時間がかなり押しているから制限時間は三十分♪ 三十分の間でどちらがより早く上手に作れるか勝負よ〜。作るものは食器ならなんでも良いわ〜。あ、
五戦目も予定通り行うことが決まり、確か陶芸づくりをするんだよな? なんて確認する声もチラホラ上がる中、母さんが声をあげ、
だけど、フェルだけは母さんの元に残ると駄々をこね、引き続き母さんのそばに居ることに。
そのあとは皆、茶色い粘土を配られ作品造りの開始だ。
僕はなにを造ろうかな〜。造るなら母さんが喜びそうなものを作りたいな。なんて考えながら手を動かす。
母さんは花が好きだし花をあしらったものを造ろうかな。
でも僕の好きな花も入れたいし……。なんて楽しく考え、トルペの花やレヴェンツァなどの形を形成していく。
※トルペ=鬱金香、レヴェンツァ=蒲公英※
皆、見た感じ順調な滑り出しで、良い感じに造れている気がする。
なんて僕は安心しきり手元に集中する。
三十分と言うのは本当にあっという間で、僕がふぅ……と一息着いたたところで時間が終わってしまった。
完成させることは出来なかったけど、僕の中ではとても上手くできたと思う!
作ったものは小皿や小さな器の類を造ったんだ!
僕は他の人達はどんなものを作ったんだろ? なんて興味津々に見ていく。
皆、個性が輝くモノを造りあげていて、中には三十分でそんなに素敵なものを!? と思わず息を呑みそうな素敵な作品を手掛けていた人もいた。
ただし! 一人を除いては。
カルマンだけはかなりの不器用なのか、歪な形をしたよく解らないモノを造りあげていた。
「それはなに?」
僕は恐る恐るカルマンに聞く。
「これか? これはロザルトをイメージした壺だ」
カルマンはどうだ上手いだろ! と言いたげな表情で誇らしげにその作品を見せてくる。
「あ……うん……そう……なんだね……。でも壺って食器なの?」
僕はどこからつっこめばいいのか、いやつっこむべきではないのか解らず、壺は食器に入るのか? なんてカルマンに聞いてみた。
「壺は食器にならないのか!?」
「いや……解んないけど……食器って食事をする器のことじゃないのかなって……」
「……まぁ問題ないだろ」
カルマンも僕も食器のことはよく解らない。これは食器に入るのかと同時に固まった。
「二人ともどうしたの〜?」
そんな僕たちに気づいたのか母さんが声を掛けてきた。
僕はそれが助け舟だと直感し、この得体の知れない不気味な物を食器としてカウントしていいのか否か、確認をとる。
「えっと……これはなにを作ろうとしたのかしら……?」
目の前には気味の悪い笑みを浮かべているような顔が描かれていて、ツボの形状は中太型で先は丸みの帯びた三角形の様な形になっている。
そこになにをイメージしたのか、二つの丸いものがあり一瞬カリッシュの腸詰を連想したということは内緒。
これを壺だと言われても誰だってリアクションに困る。
母さんも例外なく困り顔をしていたけど、一生懸命造ってくれたと考えたのか、
「個性的でとても素敵ね〜壺も一応食器の類いよ〜」
と苦笑しながらフォローしていた。
いやぁ。こんな訳の解らない物の良い部分を見つけ、褒めることができるなんて流石母さんだな。なんて感心しかけたけど、思い返すと母さんは壺の形状には一切触れていない。
人の長所を見つけることが得意なはずの母さんでさえ、困らせることの出来るカルマンの才能には、天晴れとしか言いようがないのかもしれない。
そしてこのカルマンの個性的な壺のお陰で相手チームに軍配が降り、不名誉的な負けが確定した。
「じゃあまだ焼きあがっていないけど勝者チームはアルンドチームに決定よ〜♪ また焼き上がれば連絡をするから教会に取りに来てちょうだいね♡」
母さんのその言葉でこのよく解らない勝負事は無事幕を閉じた。
その帰り、案の定というのか、カルマンはどうして負けたのか理解していなかった。
自分に非がないと思い込んでいるらしく、ぶつくさと不満を口に。
そんなカルマンを慰めるのはとても骨が折れたけど、まぁフェルがいる……。
フェルのせいで僕の慰めは水の泡になったのは言うまでもない。
「オマエ、そういえばへんてこりんなモノ造っていたガウけど、あれはなんだったんだガウ?」
「あれは壺だ。おまえ、俺の才能が解らないなんざ目が腐っているんじゃないのか?」
「アレを才能と言うガウなら、オレサマの方が上手く造れるガウ!」
「それはどう言う意味だ?」
ここら辺で雲行きが一気に怪しくなり、カルマンはフェルをギロリと睨みつける。
「オマエの壺とやらは気味が悪くて見ているだけで呪われそうだガウ! それにどっからどう見ても、ちん──」
僕は、フェルがなにを言おうとするかを瞬時に理解し、咄嗟に口を塞ぐ。
フェルは口をモゴモゴさせ暴れ回ったけど、どうにか落ち着いた頃くらいにコソッと
「カルマンの壺については触れない方がいいよ」
と耳打ちしておいた。
「ところでだがおまえの見つけたあのミミズはなんだと思う?」
カルマンはそんな僕とフェルを横目に、視力比べの時に生け捕りした、得体の知れない生き物のことを聞いてきた。
「さぁ? 僕も見た事ないし……」
そう言い、麻袋の中に入っているはずのミミズを確認する。
だけどそこに入れたはずのミミズはどこにもいなくて、僕は唖然とする。
「どうしたんだ?」
「えっと……この中に入れていたはずなのにいつの間にか消えてて……」
「そんなわけあるか! もう一度よく確認してみろ」
カルマンはそう言い、僕が持っていた麻袋を奪い取り中身を確認する。
「なぜいない?」
「それは僕が知りたいよ!」
僕もカルマンもキョトンとし、どうして消えたのか? なんて話しながら歩く。
「まぁ居なくなったものは仕方ないか……」
「そうだね。連れて帰ったところで飼えるわけでもないし……。まぁどこかで力強く生きていてくれると思うよ」
僕はそう言い笑う。
「……そう……だな」
だけど、カルマンは顎に手を添え、なにかを考える素振りをみせ始める。
「ところでカルマンどうして僕の家に来たの?」
「……? あっ……」
カルマンは、僕の質問に、は? と言う様な素振りを見せたあと、周りをキョロキョロと見回す。
そしていつの間にか僕の家に来てしまっていたことに気づき、
「また今度、魂の専属契約の話をしよう」
そう言ったあと、フェルにも悪態をつき帰路へ。
その夜、僕たちの家ではカルマンの壊滅的な芸術センスの話題で持ち切りになったのは言うまでもない。
フェルに関しては、
「あの程度ならばオレサマでも造れるガウ」
と威張り散らし、僕も母さんも
「あれは要らないからね」
「置き場所に困っちゃうわ〜」
なんて苦笑しながらフェルを止めた。
そんなこんなで終わってからも尚、よく解らなかったメテオリットの欠片討伐戦は無事終え、僕はまた平和な日常に戻るのだった。
こうなったのは、一ヶ月と数週間前まで遡る。
あれは、僕が誕生日の日の前日、変わった夢を見たことが始まりだった気がする──。
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