第四話「囚われのものたち」(5/6)
5.
――ヒメが海に帰るまで、今日を含めて残り三日。特にやることもないので、三人はあることをしていた。
「じゃじゃーん!」
指田がクローゼットから出してきたのは、とあるボードゲームであった。
「なんですかこれ?」
「私が小さかった頃に買ってもらったやつだよ。実は捨てられなくって、今でもクローゼットの隅に置いてあったんだ〜」
積まれたボードゲームは三つで、オセロと将棋ができるものが一つと、唯斗の見慣れないボードゲームが二つであった。
「私も遊んだのは遥か昔だから、うろ覚えなんだけどね。この機会に遊ぼうかなと」
指田はそう言うと、ヒメにどれを遊んでみたいか聞いてみた。唯斗の見慣れない二つのボードゲームは、どうやら三人で遊べるらしく。それを聞いたヒメは、なんとなくで四色のカラフルな箱を選んだ。
「お、ブロックスだね」
「ブロックス?」
唯斗が聞くと、指田は箱を開けながら説明を始める。
「パズルみたいなピースが四色あって、それぞれ色ごとに分かれるの。それで、オセロ見たいな盤があるんだけど、そこに様々な形のピースを参加者の順番ずつでハメていくの。置く時は必ず自分の色と隣接してなきゃダメで、角か面が繋がってないとダメね。置き方によって、後半になるとどんどん置ける形が少なくなってくるから、自分のピースを置けなくなった人が居たらその時点でその人は負け。逆に、全てのピースを最初に置き切るか、他の人がピースを置けないように妨害して全員を負けさせればその人の勝ち。どう? 説明だけを聞いたら結構簡単でしょ?」
指田がそう言うと、唯斗は納得した様子で頷いた。ヒメは少しだけ首を傾げていたが、やってみたらすぐにわかると指田に言われたことで頷いた。
出てきたのは六角形の盤で、指田によると四角形のものもあるらしいのだが、こっちはまた少し違うバージョンとのことだった。ピースはクリスタルの四角形のようなものがいくつか繋がって形作られており、それぞれ形は様々であった。
盤にはピースが綺麗にハマる凹みがあり、それがオセロの盤のように広がっていた。
好きな色を選ぶように言われ、ヒメは青を、唯斗は赤、指田は黄色を選んだ。
「まず最初に、一個だけ好きなピースを置くの。ほら、角に近いところに三角のマークがあるでしょ?」
指田に言われて二人は盤を見ると、確かに角に近い場所に三角のマークがあった。そこに好きなピースを置いてと言われ、二人は持っている中で小さいピースを置いた。
指田だけは大きなピースを置いており、クスクスと笑いながら右手を差し出した。
「はい、じゃんけん」
「ジャンケン……とはなんだ?」
海の中では人の手のようなものが生えた生き物はおらず、じゃんけんを知らないのも二人には納得がいった。
「えっとね、グーとチョキとパーっていうので構成されていて――」
指田が手で形を作りながら教え、ヒメもそれの真似をしながら覚える。ルールは簡単なので、こっちはヒメにもすぐに理解できた。
「それじゃ順番決めじゃんけんやるよ〜」
指田の合図で、三人は片手でグーを作り構える。
「最初はグー、じゃ〜んけ〜ん――」
「ジャンケン」
「じゃんけん」
ポンっと合わせて声をかけ、それぞれの出した手を見る。
「お、ヒメちゃんの勝ちだね」
「勝った」
ヒメがドヤ顔でそう言うと、二人は小さく笑いながら残りの順番をじゃんけんで決めた。そして決まった順番は、ヒメ、指田、唯斗の順であった。
「それじゃ、用意スタート〜」
指田の合図で始まると、ヒメは取り敢えず、小さなピースを最初に置いたピースの隣に置いてみる。
「よし、次は私だね〜」
指田はそう言うと、また一つ大きなピースを置いた。
「次は唯斗」
「はい」
唯斗は新たに、中くらいのサイズの細長いピースを置いた。そうして順番通りに回して行くと、段々と盤が埋まっていく。そこで唯斗は気付いた。
「これ、最初に大きめなピースを置いておかないと、終盤苦しくなるのでは?」
唯斗の言葉に、指田は瞼を閉じた笑顔でピンポーンと答えた。
「つまり……」
唯斗はヒメの方を見る。ヒメは小さいピースから置き始めていたため、マスが埋まるごとに置く場所に困り出していた。
「う……」
「あはは、気付いてきたね。このゲームのやり方に」
指田が最初に大きめのピースを置いていたのは、終盤になって置けるマスが少なくなった時でも、小さなピースを置けるためであった。
「あえて黙ってましたよね、それ」
「ヒントは言ったも〜ん」
指田は楽しそうにはぐらかしたが、ヒメの方は顔を歪めて置く場所に酷く悩んでいた。
その顔が面白く、ショッピングモールなどに置いてある小物に描かれたなんとも言えないキャラクターの表情に見えて、二人は笑い始める。
ヒメはなんとか置ける場所とピースを見つけ出し、安心した表情を浮かべる。しかし、次に順番が回ってきた時には置ける場所は無くなっており、ヒメは残念そうに白旗をあげた。
「よぉし、ワンダウン。あとは私と唯斗だけだね。でも――」
指田はニヤついた顔でピースを置いて唯斗を見る。唯斗は途中で気が付いて大きめのピースを消費していたが、最初に小さなピースは使っていたため場面は苦しくなる。
「うぬぬ……」
「ふふっ」
結果はわかっていたようなもので、勝負は指田の勝ちとなった。
「よっしゃ〜!」
「流石に経験者には負けるか……」
「クヤシイ」
ヒメが悔しがってもう一回と言ってきたので、指田はいいよ〜と言って、ピースを集め直してから二回戦目が始まる。じゃんけんをして順番を決める。今度は指田、ヒメ、唯斗の順番となった。
「よーし!」
「サシダ、小さいピースを使うといい」
「ヒメ……流石にそれは無理があるかと……」
「あはは! いいね、この試合でヒメちゃんが勝てたら考えてあげよう」
それは意味がないのでは? と唯斗は内心ツッコミたくなったが、二人は楽しみながらも真剣そうにやっていたのでやめておくことにした。
そしてその結果は、唯斗の勝ちであった。
「だー! また負けた!」
「流石唯斗、飲み込みが早いね」
ヒメは親に願いが聞いてもらえず、お店の床でジタバタと暴れる子供のように、床に倒れてバタバタと暴れ倒している。
「こらヒメ……あんまり暴れないでくれよ」
「あはは、ヒメちゃん子供みたい」
すると、突然起き上がったヒメは頬を膨らましてもう一回と言ってくる。ここまで来ると、女子高生くらいの皮を被った幼い子供と言った方がしっくりくるレベルだ。
そんな姿が面白く、最初は唯斗も呆れたように言っていたのに、段々と笑いながら話している。指田に関しては最初から笑っており、その笑いも本心からのものであった。
――そうしてしばらく遊ぶと、次のボードゲームを遊ぼうと指田が提案した。その頃にはヒメも勝てるようになっており、唯斗もヒメもその提案に乗った。
もう一つのボードゲームは、ロックペーパースイッチというゲームであった。それは将棋のようなもので、駒がジャンケンのグー、チョキ、パーで構成されている最大四人で遊べるボードゲームであった。
正方形の盤に、将棋と同じように決められた並び方をさせる。ただ、並べるところは四つある角に並べていく。四人が並べ終わると、最終的に上から見た時、正方形の中に四五度回転させた正方形の空きスペースが生まれるような形となる。
中央には四角形の角の方向に一つずつ、回転する矢印のマークがあった。
「これはね、自分の駒がそこに行くと、場に出ている任意の別の自分の駒と交換することができるんだ。上手く使うと戦況を有利にできるし、下手に使うと敵に取られちゃうこともある。考えて使うと面白いよ」
指田からの説明が終わると、先ほどと同じように唯斗は頷いて、ヒメは首を傾げていた。駒を入れ替えるスイッチ機能の部分は理解できたのだが、駒の動かし方が覚えられない。
「大丈夫だよ、ここに説明書あるから。その通りに動かせばいいよ」
ロックペーパースイッチの駒は、将棋のようにそれぞれ決められた動かし方があった。ペーパーは十字方向へ無制限に動かせる飛車のような役割で、シザーは斜めへ無制限に動かせる角行のような役割を持っている。ロックは王将のように全ての方向へ動かすことができる。しかし制限はあり、三マスまでしか移動はできない。
相性はジャンケンと同じで、ロックはシザーに強く、シザーはペーパーに強い、そしてペーパーはロックに強い。
今回は三人のため、一つだけ角は何も配置していない状態となるが、三人はそれぞれ自分の駒を並べ終わることができた。
同じ種類の駒は五個までで、その種類のどれかが無くなればその時点で敗北となる。また、将棋とは違って相手の駒を取っても自分の駒にはできない。
「それじゃ、準備はできたね?」
三人は頷き合う。配色は先ほどと同じで、赤が唯斗、青がヒメ、指田が黄色であった。
「じゃんけんしようか〜」
そしてまた、順番を決めるジャンケンが始まる。今度は唯斗、指田、ヒメの順番となった。
「それじゃ、始め〜」
指田の合図と共に、三人によるロックペーパースイッチが始まった――。
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