期待をする彼女と、それをどうするか悩む僕
「けどー……写真のあんたって、間抜け面よねー」
「……うぐっ!」
ほっとして油断していたところに、一条さんはそんな鋭い指摘をしてきた。僕は思わず呻くしかなかった。だって、自分が思っていた事と全く同じ事を言われたからだ。そんな僕に彼女はクスクスと笑うと言った。
「ま、今回はこれで許してあげるわ。だからー、今度からはちゃんと写れる様に、しっかりと勉強しておきなさいよねー」
「あ、はい……ありがとう、ございます……?」
何がどう許してもらったのか、良く分からなかったけど……とりあえず僕はそう返したのだった。そして一条さんは再びスマホに視線を戻すと、その待ち受け画面をジッと見つめていた。
「……」
「……」
そんな一条さんの様子を僕はただ黙って見ていたのだが、彼女は突然に顔を上げると僕の方を見てきた。その表情はさっきとは打って変わり、真剣なものだったので思わずドキリとする。
「な、何でしょうか?」
「……ポチってさー、この写真のあたしを見て、何か思う事とか……ある?」
普段の強気の姿勢な一条さんとは打って変わって、どこかしおらしさみたいな、そんな雰囲気を纏いながら一条さんはそう言ってきた。
これには思わず僕も面食らってしまい、すぐに返答する事が出来なかった。
「え、えーっと……」
言葉に詰まる僕。こんな表情や感じを見せられたら、うっかり彼女に向かってとても可愛いです、みたいな事を口走ってしまいそうになる。
「無いの? それとも、何かあるの?」
「あ、いえ……そのぉ……」
「……何よ?」
いや、そんなジト目で睨まれても困るんですけど!? もう、どう答えればいいか分かんないよ!! そんな僕の心情に構う事なく、一条さんはただただジッと僕を見つめ続けていた。
「……やっぱり、可愛いって思う?」
「え!? あ、えぇっと……」
しばらくして、一条さんは独り言の様にそうポツリと呟く。僕はまたも返答に困るのだけれど……そんな僕の事情なんて、彼女は待ってくれない。そして数秒ほどして、今度は僕の目をジッと見つめながら言った。
「正直に言いなさいよ」
「は、はい! あ、いや……そのぉ……」
一条さんの言葉に思わず反射的に返事をしてしまった僕だけど、すぐに言葉を濁す事しか出来なかった。だって、ここで素直に答えるとか、何だか負けな気がするし……。だからこそ、僕は―――
「へ? いや、特に何も……」
と、そんな感じで適当にお茶を濁す事にした。だって、ここで可愛いだとか言った場合、絶対に一条さんにからかわれる未来しか見えてこないんだもの。なので、ここは彼女が欲しがっている答えじゃない言葉を返す事で、向こうからのカウンターを防ぐ事にした。
そして僕がそう言うと、一条さんは何故か少しだけ残念そうな表情を見せると、その後は何とも面白くないとばかりに、深々と大きくため息を吐いた。
「……ま、あんたはそういう奴よね。知ってたわ」
「え、あ……そ、そうですか?」
「そうよ」
僕は何となく一条さんの言葉に違和感みたいなものを覚えながらも、とりあえずそう返した。そして少しの間が空いた後、今度は一条さんが口を開く。
「……さて。それじゃあ写真も撮った事だし、さっさと食べるわよ」
「あ、はい……」
そうして一条さんは僕から視線を逸らしてケーキに向き直ると、フォークを手に取りそれを小さく切り分け、それを自分の口に含んだ。そしてゆっくりと咀嚼し終えると、彼女はその味に満足したのか、少ししてニッと笑ったのだった。
「うん、美味しいわね」
「そ、そうですか……」
僕はそう相槌を打ちながら、自分の前に置かれている巨大なパフェの山に視線を移した。こんな大きな山、本音で言えば登頂なんて不可能だと思っている。
しかし、自分でこのパフェを頼んだ以上、しっかりと食べ切らないと作った人に失礼だ。それに、昔から言うじゃないか。お残しは許しません、ってね。
「……どうしたのよ? あんたもさっさと食べなさいよねー」
あっけらかんとした様子でそう言う一条さんに僕は思わずジト目になってしまう。しかし、僕はそんな彼女に対して特に何も言う事はなく、ただ黙々と目の前のパフェに集中する。
「……いただきます」
そして手を合わせた後、勇気を振り絞って巨大なパフェの山に僕はダイブするのだった。
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