不機嫌で女王様な彼女は、今日もどこか変だったりする



「……ねぇー」


 そんな風に僕がどれを頼もうか迷っていると、まるで処刑人の様な目で一条さんが僕を見つめてくる。あっ、これ……早く決めないと、もっと怒られるやつですね。


「はっ! す、すみません!」


「……どうして謝ってるのよ?」


「い、いや……その、自分の優柔不断さというかなんというか……あははー……」


「……はぁ」


 僕は誤魔化し半分に笑いながら言うと、一条さんはため息を吐いて呆れ果てた様子を見せた。そして頬杖を突くと、彼女はポツリと呟くように言う。


「ホント、そうよねー。ポチってば、いつも優柔不断よねー」


「……うぐっ!」


 一条さんの放った言葉が僕の心にグサッと突き刺さり、心臓を貫かれた様な痛みが走る。自分で言った事だけれども、それを一条さんから再度言われるとなると、やはりくるものがある。


「……別に、好きに頼んだら?」


「へ?」


 そうして僕が精神的なダメージを負っていると、一条さんは意外な言葉を言ってきた。僕は思わず間抜けな声が出てしまうと、彼女は不機嫌そうにジト目になりながらも口を開いた。


「だからー、好きに頼んだらって言ってるの。今日は、その……特別、なんだから」


「……え?」


「んー? アタシがポチにごちそうしてあげるって言ってるのがー、そんなにおかしい?」


「い、いえ……その……」


 予想外の事が起こり過ぎて思わず僕は素っ頓狂な声を上げてしまった。というか、一条さんの奢り? えっ、いいの? そんな僕の反応を見て、一条さんは不機嫌そうな表情から一変し、今度はムッとした感じのジト目で僕を睨みつけてきた。


 しかし、それも束の間。彼女はすぐに視線を逸らすと、頬杖を突きながらそっぽを向いたまま言ったのだ。


「……そういう事だから、値段なんか気にしてないで、早く決めちゃいなさい。その……有栖ちゃんをあまり待たせないの」


「え、えっと、その……は、はい……ありがとうございます」


 僕は思わずそう感謝の言葉を口にしてしまう。だって、一条さんに優しくされたのって、何だかこれが初めての様な気がするから。……初めて? あれ? だけど、よくよく考えてみればこれって……


「あ、あの……一条さん。1つ、聞いてもいいですか?」


「……何よ?」


「もしかして、これ……僕に対するいつもの罰ゲームか何かですか?」


 僕がその言葉を口にした瞬間、一条さんの動きがピタッと完全に静止した。そして何故か、急に辺りの気温が一気に冷え込んだ気がするんけど、どうしたのだろうか? というか、一条さん。急に口を閉じちゃったんだけれど……何で?


「……ち」


「えっ?」


 急に黙り込んだままの一条さんが何を言ったのか聞き取れなかったので、僕は思わず聞き返してしまう。すると、彼女は顔をゆっくりとこちらに向けてきたのだが……何故か、その……一条さんは笑みを浮かべていた。


「ち……」


「ち?」


「違うわよ! この駄犬がぁっ!!」


 いきなり叫びながら立ち上がった一条さん。そして彼女は憤怒の表情を浮かべつつ、僕の頭に目掛けて真っ直ぐに手刀を振り下ろし、見事な一撃を僕に叩き込んだのだった。


「わたべっ!?」


 まるでケンシロウの岩山両斬波を食らったかの様な、その衝撃と痛みは尋常じゃなかった。というか、すごく痛い。めっちゃ、泣きそうなんですけど……。


「ど、どぼじて……」


「あんたがくだらない事言うからでしょ!」


「ご、ごめんなさい……」


「ったく……」


 僕は頭を摩りながら一条さんに謝ると、彼女は腕を組んでフンッとそっぽを向いた。また機嫌を損ねてしまったみたいだけど、どこかさっきよりも元気そうに見えるのは何故だろうか……?


 とにかく、僕はまた痛い目をみたくないので、これ以上は何も言わない様にした。そして早いところ注文を済ませる事にするのだった。


 ちなみに、一条さんはショートケーキとコーヒーのセット(税込1,400円)を注文し、僕は一条さんの奢りという事とさっき叩かれた分の痛みを上乗せし、この店で一番高いスペシャルジャンボパフェ(税込4,500円)を注文してやったぜ☆ ククク……。


 ……勢いで頼んでしまったけど、ちゃんと食べ切れるかどうか、とっても不安です(泣)


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