第18話 打ち明けた秘密
所変わって私の部屋。
香織ちゃんと伊織くんが、深刻な顔をしている。
ちなみに伊織くんはちゃんと、服を着ている。
お風呂に入るつもりだったんだろうけど、それどころじゃないって言って、一度脱いだ服に再び袖を通してUターン。
香織ちゃんも含めた三人で、私の部屋までやってきたわけだけど。
部屋の主である私は真ん中で正座してうつ向いていて、伊織くんと香織ちゃんは手に、数枚の紙を握っている。
それは連日私の所に届いていた、脅迫状だ……。
「なんだよ、これ……」
伊織くんの低く冷たい声に、ビクンと身を震わせる。
やっぱり、怒ってるよね。こんな大事なことを、今まで黙ってたんだもの。
そして香織ちゃんはというと……。
ビリッ!
手にしていた脅迫状のうち一枚を真っ二つに裂いたかと思うと、続けて何回もビリビリに破いていく。
その目は血走っていて、いつもの明るい笑顔とはかけ離れててちょっと怖い。
だけど、そんな香織ちゃんに伊織くんは物怖じせずに話しかける。
「おい、やめろ。少し落ち着け」
「これが落ち着いていられる!? 華恋がこんな物送られていたんだよ! ていうか伊織、よく平気でいられるね!」
「平気なわけないだろ。……腸が煮えくりかえっているよ」
静かに、だけどまるで地獄のそこから響いてくるような声からは、静かな怒りを感じる。
香織ちゃんと違って叫びはしないけど、伊織くんも本気で怒ってる!
どうしよう、私のせいだ!
私は正座をしたまま床に手をついて、二人に土下座をする。
「本当にゴメン! 自分で何とかしなくちゃいけなかったのに、二人を巻き込んで、嫌な思いさせて……」
「違う、華恋は何も悪くない! 悪いのはこの、手紙を送った奴だよ」
「同感。どこのどいつか知らないけど、必ず見付だして後悔させてやる」
二人は私を、慰めながら立たせる。
それから今まで何があったのかを、詳しく話した。
上履きに画鋲が入れられていたこと。私だけじゃなく、真奈ちゃんの上履きにも入れられてたこと。
伊織くんや香織ちゃんと仲良くしてたら真奈ちゃんまで何かされるかもしれないから、三人と距離を置こうとした。
だけど今日も水を掛けられて、そのためジャージで帰ってきたことも、全部。
「そんなに……伊織、やっぱり聞いて良かったじゃない。話してくれるのを待ってるなんて、悠長なこと言ってる場合じゃなかったでしょ」
「悪い……今回は完全に俺が間違ってた。ああ、くそ! こんなことなら、昼休みに詳しく聞いておくべきだった!」
伊織くんは自分を責めてるけど、それは私が悪いんだよ。
「とにかく、早いとこ犯人を見つけてとっちめなきゃ。華恋にこんなことして、ただじゃおかない」
「待って香織ちゃん。見つけるって、いったいどうやって? 手掛かりは何もないんだよ」
「それは……伊織、アンタ頭良いんだから、何とかできない? こういう時のために、刑事ドラマ観てるんでしょ」
香織ちゃん、そんな無茶な。
だけど予想に反して、伊織くんはコクンと頷いた。
「任せろ。幸い、手掛かりならある」
「え、どこに?」
私にはさっぱり分からなかったけど、伊織くんは手にしていた手紙をスッと差し出してくる。
「この送られてきた脅迫状だ。手書きで書かれてることからも、犯人の不用心さが分かる。調べられてもバレないって思っていたのか、それともそもそも調べると思っていなかったのかは知らないけど。だから香織、大事な手掛かりを破らないでくれ」
香織ちゃんは、「そういう事は先に言ってよ」って言ってるけど、私もちょっとビックリ。
確かにこれが犯人に繋がる唯一の品だけど、こんな手紙だけで見つけられるものなのかな?
「とにかく、取り扱いは慎重に。それと犯人を見つけるには時間が掛かるだろうけど、それまでに何かされないよう、学校ではできるだけ華恋の傍にいてガードしておいた方がいいな」
「え? けどそれだと、犯人を怒らせちゃうんじゃ……」
私は守ってもらえるかもしれないけど、もしも犯人が標的を真奈ちゃんや他の友達に変えたら?
そうなったら自分が何かされるよりも、よっぽど嫌だよ。
だけど香織ちゃんが、優しく背中をさする。
「任せといて。華恋の友達も、絶対に守るから。と言うか、いくら怖いからって距離を置かれるのはもうたくさんだし、真奈ちゃんだってそっちの方が嫌なんじゃないの? あの子もだいぶ気にしてたよ」
う、それは……。
真奈ちゃんまで被害に遭わないよう距離を作ってたけど、そのせいで余計に傷つけてしまっていたかと思うと、胸が苦しくなる。
きっとたくさん、心配掛けていたんだろうなあ。
「とにかく、これ以上好きにはさせない。明日から行動開始だ」
力強い声で、宣言する伊織くん。
その顔はとても頼もしくて、苦しかったはずの胸の奥が、少しキュンってなった。
そして次の日。
絶対に犯人を見つけると言ってくれた伊織くんは、学校の昼休みに……。
「みんな。よかったらこれ、書いてくれるか?」
「草薙くんどうしたの?」
「これって、プロフ帳?」
クラスの子達を集めて、伊織くんが差し出しているのはプロフ帳。
そして私は自分の席で、ドキドキしながらその様子を眺めていた。
「俺、転校してきてしばらく経つけど、みんなのこともっと知りたいから、書いてくれたら嬉しいんだけど。ダメかな?」
いつものキリッとした表情を少し崩して、歩みより易そうなスマイルを見せる伊織くん。
その顔に何人かの女子はときめいちゃってるけど、戸惑っている子も少なくなさそう。
プロフ帳って小学校の頃は書いてる子多かったけど、中学生になったら少なくなっちゃったもんね。
子供っぽいって思ってる子も、多いのかも。
だけどそんな中、伊織くんに近づく生徒が1人。
「オーケーオーケー、書かせてもらうよー! 伊織くんに私のこと、たくさん知ってもらいたいしね」
「ありがとう水無瀬さん。水無瀬さんのことたくさん知りたいから、できるだけ多く書いてくれると嬉しいな」
「了解。任せといて!」
真っ先にプロフ帳を受け取ったのは真奈ちゃん。
するとどうだろう。触発されるように、さっきまで様子を見ていた子達が次々と、「私にもちょうだい」、「いっぱい書くね」って、受け取り始める。
「ありがとう。日本ではプロフ帳ってのが流行ってるって聞いたんだけど、もっと早く書いてもらったらよかったな」
ニコッと笑う伊織くんにみんなは、「いつもと雰囲気違くない?」ってキャーキャー言ってる。
そしてプロフ帳を受け取った真奈ちゃんは、私の席へとやって来た。
「上手くいってるね。さすが伊織くん」
「うん……ごめんね真奈ちゃん、つきあわせちゃって」
「いいって。それに私も、華恋に酷いことした奴見つけるのには、大賛成だしね」
眉を吊り上げる真奈ちゃん。
するとそこに、もう一人近づいてくる。
「こっちも順調ね。お姉様のクラスでも、盛況だったから」
「大場さん……ありがとう、わざわざ2年生の教室まで行ってくれて」
「お姉様に協力できるのなら、いくらでもやるもの。そ・れ・に、このプロフ帳はしっかり書いて、お姉様に読んでもらうんだから!」
ニマニマと幸せそうに笑う大場さんの手には、伊織くんが配っているのと同じプロフ帳が握られている。
けどこれは、伊織くんからもらったものじゃない。実は2年生の教室では今頃、香織ちゃんが同じことをやっているんだよね。
そしてこっちで真奈ちゃんがやってたように、大場さんには香織ちゃんのプロフ帳を受け取る、第一号になってもらっていたの。
どうして二人がプロフ帳なんて配ってるのか。
話は、数時間前に遡る……。
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