第14話 忍び寄る影
体育の授業で足を捻った次の日。
朝はいつも通り、香織ちゃんや伊織くんと一緒に登校。
捻った足は一晩経って痛みが引いて、問題なく歩けるようになっていたんだけど。
「華恋~、足まだ痛むなら私が、学校までおんぶしてあげようか?」
「い、いいよ! 町中でそんな事して、私を恥ずか死させる気!?」
「そうだぞ香織、華恋の迷惑を考えろ」
「むう、伊織には言われたく無いよ。昨日、お姫様抱っこやったって言うじゃん」
ごもっとも。
もう、香織ちゃんも伊織くんも、過保護すぎるんだってば。
足なんてもう、大丈夫だって言ってるのに。
むしろ気がかりなのは足じゃなくて、あの手紙の方なんだけどね……。
下駄箱に入っていた脅迫状。
体育の時の騒動で気にする余裕なんてなくなってたけど、落ち着いて冷静になったら、また怖くなってきた。
穴の空けられた写真からは、強い怒りや恨みが感じられたし、いったい誰があんなものを送ってきたんだろう?
誰かに相談しようかとも思ったけど、でも実害は出ていないし。下手に騒いで心配かけなくないから、黙っているの。
手紙も写真も誰にも見せる事なく持って帰って、今は私の机の引き出しの中にしまってある。
このまま何も起きないでくれたらいいんだけどなあ。
けど、その考えは甘すぎた。
学校について香織ちゃんと別れて、伊織くんと一緒に昇降口に行って下駄箱を開けた時は、もしかしたらまた変な手紙でも入ってないかって心配だったけど、何もなくてホッと胸をなで下ろす。
まあ昨日の今日で、また何かしてくるなんてこと無いよね。
そう思いながら、上履きを取り出して靴から履き替えたんだけど……。
「痛っ──!?」
悲鳴を上げかけて、飲み込んだ。
な、何今の?
上履きをはいたとたん鋭い痛みが走って、思わず足を引っ込める。
少し離れた所にいた伊織くんを見たけど、こっちの様子に気づいていないみたい。
私はそのまま気づかれないよう、上履きをひっくり返してみたけど、そしたら何かがポトリと、床に落ちた。
これは……画ビョウ?
拾い上げてみたそれは、小さな画ビョウ。
その先端はさっき足に刺さった際についた血で、ほんのり赤くなっている。
幸いそれほど深く刺さったわけじゃなくて痛みは大した事なかったんだけど、どうして靴の中にこんなものが?
何かの拍子で、入っちゃったのかな?
けど昨日帰る時は何ともなかったはずだし、紛れ込むなんておかしいよね。
ということは、まさか……。
昨日入っていた脅迫状のことが、嫌でも思い出される。
もしかして脅迫状と同じように、誰かがこっそり下駄箱を開けて、上履きの中に画ビョウを仕込ませていたのだとしたら。
事故じゃなくて、意図的に私を傷つけようとしたってこと?
その事に気づいて、背筋がサーッと冷たくなる。
嘘でしょ。まさかこんなことをしてくる人がいるなんて……。
「ん? どうした華恋?」
「な、何でもないよ!」
伊織くんが聞いてきたけど、私は咄嗟に拾った画ビョウを隠して誤魔化した。
怖かったけど、伊織くんに話して良いか分からない。
伊織くんは不思議そうに首をかしげたけど、私は何でもない風を装って上履きに履き替える。
「おまたせ。さあ、行こう」
「ああ」
教室に向かって、二人並んで歩いて行く。
怪我をした足が痛んだけど、悟られないよう自然にしながら。
下手に騒いで心配かけない方が良いよね。
まだわざとやられたって、決まったわけじゃないんだし。
そう、思っていたけど……。
教室に入るといつも通りの風景が広がっていて、伊織くんも私もそれぞれの席へと移動する。
すると、先に登校していた真奈ちゃんがやってくる。
「華恋、おはよう」
「おはよう、真奈ちゃん」
「ふふ、伊織くんと一緒に登校、今日も仲いいねえ」
「も、もう。そんなんじゃないってばぁ」
いつも通り笑いながら返したけど、もしも脅迫状を送った誰かが聞いていたらって思うと、冷や冷やする。
画ビョウの件も繋がってるかは分からないけど、少なくとも私と伊織くんや香織ちゃんが仲良くしてることを良く思ってない人がいるのは確実なんだから、気を付けないと。
「そういえばさあ、今朝ビックリした事があって。さっき下駄箱で上履きに履き替えたら、中に画ビョウが入っていたんだよ」
「画ビョウ!?」
思わず大きな声が出ちゃった。
上履きの中に画ビョウって、私と全く同じじゃない!
「そ、それで、大丈夫だったの? 怪我はしてない?」
「平気平気。履く前に気づいたからね。けど、そのままはいてたら痛い目にあってただろうね。いったいいつ入ったんだろう?」
真奈ちゃんは不思議そうにしてるけど、いったいどういうこと?
私の上履きに画ビョウが入っていたことと、無関係とは思えないんだけど!?
でもあの脅迫状の送り主が画ビョウを入れたんだとしたら、真奈ちゃんまで狙う理由が分からない。
嫌がらせが目的なんだとしたら、狙われるのは私だけのはずなんだけど……。
「華恋、顔色悪いけど大丈夫?」
「え? 平気平気。全然元気だよ」
本当は足が痛むし、それ以上に胸がざわついて気持ち悪くなってるけど、またも笑って誤魔化す。
私の上履きにも真奈ちゃんの上履きにも画ビョウが入っていたなんて、偶然なのかなあ?
そんなことを考えながら、カバンから取り出した教科書を机の中に入れていたけど、ふと手に何かが触れた。
あれ、昨日何か、持って帰るの忘れてたっけ?
だけど中にあったソレを取り出して、目を見開いた。
机に入っていたのは、昨日下駄箱に入っていたのと同じ封筒だったの。
これってもしかして、昨日と同じ人からの手紙!?
「……真奈ちゃんごめん、やっぱりちょっと気分悪いから、保健室に行ってくる」
「本当に大丈夫? 私も行こうか?」
「いい、一人でいいから」
心配してくれるのは嬉しいけど、手紙のことを知られて、下手に巻き込みたくない。
付き添うという誘いを断ると、私はさっきの手紙をポケットに忍ばせて、急いで教室を出た。
そして人気の無い廊下の端までやってくると、封を開けて中を見る。
するとそこには……。
【草薙姉弟と仲良くするな。これ以上近くにいたらお前とお前の友達が、不幸になるぞ。】
書かれていた文章を見て、ドクンと心臓がはね上がった。
私だけじゃなくて、友達も? なんで!?
いや、そんなの決まってる。私だけに嫌がらせをするよりも、友達を巻き込んだ方が効果があるからだよね。
事実さっきまでは心のどこかで、我慢すればいいやって思っていたけど、友達を巻き込むとなるとそうはいかない。
そして気になるのが、さっき真奈ちゃんの上履きに画ビョウが入れられてたってこと。
やっぱりあれも、この脅迫状の送り主の仕業?
私の上履きにも仕込まれていたし、タイミングからいってそうとしか考えられない。
ということはもしかして今後も、こんな嫌がらせをされるってこと?
私だけでなく、関係ない真奈ちゃんまで!?
さっきは気づいて難を逃れてた真奈ちゃん。
だけどもし何度もこんなことをやられたら、いつかは怪我しちゃうかも?
どうしよう。
香織ちゃんや伊織くんに、相談した方がいいのかな?
だけど手紙には、さらにこう書かれていた。
【この事は誰にも言うな。言えばお前も友達も、ただじゃおかない。早く家から出ていけ】
──っ!
ダメ、相談なんてできないよ!
犯人はもう既に画ビョウを仕込んでいるんだもの。
ただの脅しとは思えない。
下手に話したら真奈ちゃんまで嫌がらせにあっちゃうかもしれないし、香織ちゃんや伊織くんにも迷惑をかけちゃうかも。
けどこれって、どうしたらいいんだろう?
家から出ていけなんて言われても、今住んでいるのは私の家でもあるわけだし、言ってることが滅茶苦茶だよ。
けどそんな滅茶苦茶な考えの持ち主だからこんなもの送ってきたり、嫌がらせしたりできたのかも。
話が通じる相手かどうかも、分からないよ。
怖くなってキョロキョロと辺りを見回してみたけど、怪しい人影はない。
だけどいつどこで見ているか分からないから、やっぱり気が抜けないよ。
と、とにかくなるべく、手紙の送り主を刺激しないようにしないと。
そうなるとやっぱり、香織ちゃんや伊織くんとは、あまり仲良くしない方が良いのかなあ? それに、真奈ちゃんとも……。
真奈ちゃんと仲良くしていたら、いつまた嫌がらせをされるかわからない。
これは私の問題なのに、真奈ちゃんまで巻き込みたくなんかない。
本当は嫌だけど……すっごく嫌だけど、真奈ちゃんとも距離を置いた方がいいかも……。
悶々と悩んでいると、始業のチャイムが鳴る。
私は手紙をポケットにしまうと、ズキズキと痛む胸を押さえながら、教室に戻った。
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