第2話何だ!ここは

朝、5時には目を覚まし洗顔してから、アイスコーヒーを飲む。

これは、武田のルーティンである。朝ご飯は、たまに惣菜パンを食べるだけ。

昨日の面接で田村さんに、服装はラフでいいと言っていたが、武田は仕事するのにあまりにもカジュアルな格好は出来ないタチなので、黒ジーンズにワイシャツを着て、シャツを腕まくりした。

バッグに1リットル入りの水を2本リュックサックに入れて、8時半に家を出た。

最寄り駅まで、徒歩で5分の場所に住んでいるため、通勤は苦にはならないが、電車の混み具合はため息が出るほど。

作業所は最寄り駅から3分の場所である。9時前に施設のインターホンを鳴らしても誰も出て来ない。

しょうがないから、喫煙所のイスに座り待っていた。

9時過ぎに、田村さんが現れた。

「武田さん、早いですね。案内します」

と、言ってこの、まっ白い作業所では無く、違う作業所に連れていかれた。

田村さんは、南雲なぐもさんを紹介して、そこで働く事になった。

まだ、新しい施設なので、人数が集まるまでは、ここの事業所で働く事になった。

武田はここの利用者に驚いた。

ぴょんぴょん跳ねている若い男や、腰の曲がったオジサン、急に叫びだす女。

話を聴くと、ここはB型施設であると。武田はA型施設に就労しているので、B型で働くが、給料はA型の額を貰えるそうだ。


南雲さんが、施設を案内して10時から作業が始まった。

仕事はDVDの箱の研磨。

オイルで箱の汚れを落とすのだ。武田は丁寧に1時間で10箱磨いた。

僕よりも先に入所した女の子は、1時間で50箱ぐらい磨いていた。

すると、B型施設の職員に、

「A型施設で働くのに、こんなスピードでは困る」

と、言われた。メガネをかけたその職員は爬虫類のような目をしている。

南雲さんは、このB型の職員では無い。僕の施設の職員だが、人数が集まるまではここにいるらしい。

「武田さん、気にしないで。最初は丁寧でいいですから」

と言ったが、

「やっつけ仕事なら、早く出来ますよ」

と、言って何十箱も磨いた。

休憩中、喫煙所でタバコを吸っていると、腰の曲がったオジサンの立野さんが武田に声を掛けた。

「お兄ちゃん、今日からここ?」

「はい。宜しくお願い致します。暫くここで働いて、A型の事業所に行きます」

立野さんは、シガレットケースに「わかば」を入れていた。

タバコ代の無い人には、立野さんが1本あげていた。

吸い殻から長いヤツを探して、シケモクを吸う利用者もいた。

昼ご飯は弁当が出るのだが、武田は食べなかった。

これで、1ヶ月で数千円分だ。缶コーヒーで済ませた。

昼からも、DVDの箱磨き。午前中、武田に困ると言った爬虫類の様な職員は機嫌が良くなり、ニコリと笑う。

武田が入所したときは、利用者は2人しか集まっていなかった。

ここで、約1ヶ月半作業した。

慣れて来ると、磨いた箱の検品もするようになった。

検品は大抵はA型施設では、仕事が出来る人間しかやらない。

15時、作業終了。

1日4時間労働が基本だが、場所によってはもっと長い時間働ける。

だが、武田は先ずは生活リズムを整えるのが先決だった。

金曜日なると、もう疲労困憊。

これに、慣れなきゃいけない。体力の欠如。そんな身体だから、フルタイムは難しいのだ。

帰りに、僕より先に入った女の子が辞めると言った。

だから、自販機で好きなモノ飲んで良いよと言うと、桃の天然水のボタンを押した。

その女の子は、昼休み毎日彼氏と電話していた。

外で喫煙していると、

「今日も、検品させてもらえなかった。……うん、新しい人ばかり検品するの」

と聴こえてくる。だから、辞めるのだと。

別に気にはしない。仕事が出来ないから検品出来ないのだ。

女の子から、ジュースのお礼を言われて武田は、

「じゃね。次の職場で頑張ってね」

と言うと

「はい。ありがとうございました」

と2人は駅で別れた。

季節は晩秋。

12月になり、ようやく、まっ白い作業所で働く事になった。

利用者は3人しかいなかった。

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