第14話 勧誘③

 占拠されたショッピングセンター AM10:49

 

 貴音は付近の包囲している警察官の横に降りた。

 

「死傷者、敵の能力者の有無含め状況は?」

 

「メテオブレイカー!毎回助かるよ、死傷者の正確な数は分かりませんが入り口に警備員がぐちゃぐちゃになった物が......いくつか見つかっているので恐らく数名亡くなっています。そして敵に能力者は1人は確実にいます。そして今アナーキストユニオンが声明を出しました。」

 

「クソッもう亡くなられた方がいるのか......読んでください......」

 

「府中刑務所のアナーキストユニオンのメンバー、メンバー志願者を全て解放し、ナノテクノロジーを扱える研究員と設備材料を提供しろ。正午まで返答が無ければショッピングセンターの店舗は肉屋だけになる。だそうです......」

 

「クソが、頭イカれてんのか、それでジョーク言ったつもりか?それに国がそんな条件呑むわけない。その上ナノテクノロジーに対しても理解度が低い、何を持って奴らは成功とするかも理解できない。そもそも研究員がずっと人質になるじゃないか!それにここは埼玉だ、なんで府中なんだよ東京でやれよ!いや、やるな......すまない、敵は何人で武装は?」

 

「自衛隊員から鹵獲した銃器やアーマーを装備、200人は絶対に超えています、包囲できた側の反対側には武装車両が6台いて近づけません。それに人質の人数が多すぎる、例えあなたでも犠牲者を出さずに対処は不可能かと......」

 

「アナーキスト名乗っているだけのただの暴れたがりのテロリストめ......」

 

「コラテラルダメージは避けられません、あなたの速度を活かしてやるしか......」

 

「いや待った方がいいです、正午までに嘘でもいいので返答すれば良い。時間はまだ稼げますので、中に能力者が内なるヒーローが目覚めるのを期待しましょう......ダメなら私が突入します。それに私がきた事は勘付かれていないと思います、ただ相手も馬鹿ではないので私が来る事自体は警戒していると思います。だから大量に人質を取った......」

 

 人質の前にはヒーローは無力ってのは定番で腹が立つ。何で日本で銃武装の奴らが200人以上いるんだよ......もう隕石落下は終わったんだからヤケクソになる必要がないのに。ヒーローが神頼みしたら終わりだが内部に戦闘系能力者がいる事を願うしかない、もし起こればその反乱のタイミングで突入してやる。


 ――――――――――――――――


 ショッピングセンター内のアクセサリー店 AM11:12


「テメェらの命はこのままだと1時間未満で終わるぞ!笑えるなぁ!」

 そう人質に向けて言い放つテロリスト達。

 

「1人ずつ即死しない様に撃ち殺してやるからな!」

 

 そう言いながら1人の女子の腕を掴んで銃口を向けた。

 

「待てねえ!どうせ1人殺ったって変わりゃせんわぁ!」

 

「やだっ!助けて!響!」

 

 と泣き叫ぶ私の友人を引き摺り出して組み伏せテロリスト3人が喚き散らしている。赦さない。私のチャージは完了した。殺させはしない。

 

「おい!あーしを代わりに殺せ!」

 

「おうおう感動的だなあ!よーし良いだろう惨たらしく殺してやるからこちらに近づけ!」

 

「わかったよ」

 

「響!」

 

「いいからあーしに任せな!」

 

「泣かせるなぁ!ムラムラしてきたぞ!強姦してからぶち殺してやる!」

 

 1人が銃を下ろし掴みかかろうとしてきたタイミングで私の腰に巻いていたカーディガンを投げつけて暴漢の顔に引っかかった。

 

「んが!?」

 

「炸裂ッ!」

 その瞬間にカーディガンが爆発し暴漢は倒れた。

 

「なっ!?こいつミューテェイトだ......」

 

 チャージしておいたヘアゴムを残りの2人に向け放つ。

「あーしの勝ち!」

 

 と勝ち誇りドヤ顔でポーズを決め顔面にぶち当たったヘアゴムが炸裂した。

 

「ほぎゃあ!?」 「ぶべえ......」

 ばたりと倒れ1部区画の見張りが潰れた。

 

「こういう時のためにチャージし続けて良かった......」

 

「響ありがとう!」

 と私の親友が泣きついてくる。

 

「前からあーしはミューテェイトだから守るって言っていたから何とか助けれて良かったよ〜早く他の人も連れて逃げよう!それにテレビでよく見る不殺の戦士も来てくれると思うし!」

 

 そう言いながら逃げようとしたら爆発音で何人も来た。

 

「何人いんの!」

 そう言いながらアクセサリー店の小物に勝手にエネルギーを入れた物を投げつけた。

 

「ん?可愛い抵こ!?ぶげぇっ〜......」

 

「見た目で判断するとかあーしより馬鹿じゃん、まあ死なない程度に調整しているからありがたく思いな!」

 

「流石響!憧れる〜!」

 

「照れるし〜やめろよ〜あーしより可愛い咲に憧れるわ〜」

 

 なんてはしゃぎながら走って逃げていると前方にまたテロリストがいた。

「反抗する人質が出たと連絡があってから通信途絶、腹が立つぜ〜もう関係なくぶっ殺してやるわ!」

 

 何こいつら?何がしたいの?と思いながら後ろからそいつに抱きついた。

 

「なっ!?女?何だ俺様の勇ましい姿に惚れたか〜?」

 

「救えないね、あんたは勇敢ではなく野蛮だしノータリン」

 

 そう言いながら全集中で防弾ベストにチャージし蹴り飛ばし離れた。

 

「爆ぜろ!」

 

 男は呻きも言葉も放つ前に爆発の衝撃で気絶した。

 

「ん......この店は!?みんなあーしのいう通りにして!」


 ――――――――――


 店外 AM11:55

「もうダメです、嘘でも返答します!ん?いや待て無線ジャックした限り女子高生が中で暴れ回っているそうです!」

 

「本当に!?子供の能力者か?ならもう突入する、混乱している今を叩く!」

 

「能力者であると思われます。女子高生の触れた物が爆発したとか......」

 

「わかった!ならば突入する!」

 

 目立たない様屋上から女子高生がいると思われる場所の反対から入り撹乱させる。奴らは馬鹿だから人質を殺すべきか反抗者を殺すか迷ってアホな事をするに違いない。


 

「おい!こっちも警戒しろ!」

「あっちで暴れてんだから良いだろ」

「そうや、気にせ......」

「ん?おい!いな......」

「あぁ!?何で誰も......」

 

 「ふう〜空を飛べるってやっぱり便利だな、それにしても暗殺ゲームやっている気分だな。ちゃんと生かしているけどね」

 

こちら側の輩は全員ぶっ飛ばしたから外の車両を破壊するか。そう言いながら飛び立ち壁をぶち破って車両の前に出る。

 

「お、おい!メテオブレイカーだ......やられちまうぞ!」「早く機銃で撃て!撃て!」「RPG-7用意!」「10式戦車、主砲準備!」

 

「なっ自衛隊は戦車まで奪われているのか!それにしてもこの数は異常だぞ!?どうなっている!?」


「発射!」「撃ちまくれ!」「戦車の機銃も使え!!」

 

 貴音に向かって全弾打ち尽くした煙に包まれたが貴音は無傷だった。

 

「この程度で私が倒せたらE4に勝ってないわ!」

 

 そう言いながら車両から次々とテロリストを引き摺り出し投げ飛ばした。

 

「こちらメテオブレイカー車両を無傷で無力化した、早く捕まえて取り返してくれ、私は中に戻る」

 

 そう言い戻り中間まで戻ると驚きの光景を目の当たりにした。女子高生を中心に皆がスポーツに使う色々なボールを次々とテロリストに投げつけ爆発させていた。

 

「なんだこれは......アメコミや漫画でも似た能力を見たがもしかしたらそれより優れているのではないか!?」

 そう独り言を呟きながら加勢に入り次々と薙ぎ倒して行く。

 

「メテオブレイカーよ!」「ヒーローが遂に来たぞ!」「いや、この娘もヒーローだぞ、お前ら!」

 そう老人が言うと周りがハッとなり能力者の女子高生に改めて感謝しながら安全な方から出て行く。

 

「君のおかげで助かった!ありがとうございます!それで名前は何と言うのですか?」

 

「あ、......あーし?あーしは炸羅響さくらひびき......っす、こっちはあーしのダチの咲」

 

「ど、どうも〜」

 

「そうですか!無理に敬語は使う必要は無いですよ!ヒーローは良き隣人の様に振る舞うべきですからね!」

 

「なら、あーしにもタメでいいよ、それより早く逃げ......」

 

 言う途中に、このショッピングセンターの最上階からいきなり目の前に何かが落ちてきた。

 

「テメェらが計画をオシャカにした奴らかっ!!許さないいぃい!!このブッチャー様が相手だぁあ!!」

 

「カンガルー!?」

 

 マズい、こいつはミューテェイトじゃないミュータントだ!今までのことを考えると話が通じない奴が多い!

 

「響!爆破して!」

 そう言うと咲がスーパーボールを大量に投げつけた。

 

「ナイス!点火ッ!」

 

 爆発は成功、だがしかしカンガルーの皮膚と肉が少し抉れただけだった、だがカンガルーを怒らせるには十分だ。

 

「ぐがああ私の肉がぁあ!!」

 

「ダメだ!君たちは逃げろ!」

 

「きゃっ!」

 咲の方に殴りかかったカンガルーの両手を止めた。

 

「なんて力......無力な方から狙う畜生が!ふんっ!」

 

「ふぐぅっ......」

 

 頭突きを喰らわせ怯ませたところに、そこそこのエネルギー弾を打ち込んだ。

 

「仕留めたか!?」

 そう言った瞬間、煙の中から弾丸のように何かが飛び出し咲が壁に思い切り叩きつけ宙返りし後ろに戻った。

 

「ん゙ん゙ん゙ん〜っ......響たす......」

 それはカンガルーの袋にいた子カンガルーだった。そしてそいつは躊躇いなく無能力者の子を狙った。

 

「母さん、これで1匹やったかな!成功ならこれで人間は44匹目!」

 

「咲......嘘!嫌だ嫌だ......私がッ!私が守る......守るって約束したのに......」

 響は咲に駆け寄り手を取る。その姿は口からを血を吐き肋骨が服を貫通しており誰がどう見ても助からない。

 

「ごめん......うぐ......ごめん、隣にいたのに......」

 

「響は悪くな......い......謝らな......いで、私のような......無力な人を助け......」

 

 口から血を大量に吐き僅かに力を振り絞り握った手から咲の手と首がガクッと落ち咲は動かなくなった。

 血塗れの響は泣き叫んだ。助けれず無力の響はただ泣き叫ぶことしか出来なかった。

 

「うるさいなぁ!あの世?同じところに送ってあげるよ!」

 

 飛び蹴りで響の頭を砕こうとした子カンガルーの足を高速移動した貴音が無言で掴んでいた。その目には涙があった。

 

「......!?メテオブレイカー!......?泣いて......いる?」

 

「俺が......俺が不殺なんて掲げていたのが間違いだった、あそこで蒸発させていればッ!!!」

 

 そう叫びながら子カンガルーの足を握り潰し腹を殴りつけ吹っ飛ばした。

 

「グギギッ!ぐおっおお......」

 金属の壁にめり込み血塗れの子カンガルーは痙攣している。

 

「我が子をよくも゙ぉお゙お゙お゙!」

 と起き上がりカンガルーの本気のラッシュを貴音は顔面に喰らった。

 

「決まったッ!......な!?」

「......いいか、ヒーローは全能じゃない。だが勘違いするな、俺はお前如きは本来相手じゃないんだよ、こうする事も出来る」

 

 そう言いカンガルーの四肢をへし折り骨が飛び出た。

 

「ぐうううう、ヒーローがやる事じゃねぇええ」

 

「黙れ」そう言い子カンガルーがめり込んだ方に蹴り飛ばした。

 

「うぐっ、動けん......降参だ!負けだ!」

 

「非戦闘員で無能力者の子供を優先して殺して虫のいい事を言ってんじゃねぇぞ」

 

 そう言い周りに被害が出ない最大限の局所的なエネルギー弾を放つ準備をした。

 

「地獄で詫びろ、吹き飛べ」

 

 その瞬間、響が後ろから抱きつくように放とうとする腕を下ろさせた。

 

「なっ!」

 

「ダメ!だって不殺のヒーロー、メテオブレイカーでしょ......テレビであーし見たもん!どうしようもない時以外はどんな生物も殺さないって!今が?」

 

「......私は......私が不殺主義で無ければ君の友人を助けれたのに......私が殺してしまったんだ、亡くなった者達は戻らない。これは私のケジメだ」

 

「違う!あそこで親カンガルーを殺し切っても子カンガルーの存在はわからなかった!これは何があっても防げなかったんだよ......ただでも横にいたあーしに力があれば......ねぇ、お願いあーしを!大事な人を!これ以上同じ思いをする人を!減らせるように守護者ヒーローにして!」

 

この子はとても派手で金髪で不良の様に見えるだけで、精神は黄金そのもの。優しさからくる正義その物だ。

 

「わかった、ありがとう。君をヒーローにする訓練をしよう、そして君をヒーローチームに迎え入れたい」

 

 これは償いだ、彼女がもう何も奪われないように。

 

「わかった!あーしは受け入れる、もう咲みたいに大切な人を失いたくない。......そして私も不殺を掲げる」

 メテオブレイカーは私と咲の為に泣いてくれた、この人に着いて行く。咲本当にごめんね。もう咲みたいな人は絶対に生まないから!


 


 5つ下の子に止められるなんてな......あの子は身体強化の無いタイプのミューテェイトだから、しっかり鍛えてあげないと......

 この次に会った人も失礼だが見た目に寄らず正義の男だった。私がいつもの通報を受け駆けつけた時には代わりに片付けてくれていたな。

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