【アラウコの叫び】〜南アメリカ近世の歴史〜

レイノウェレンの戦い/前編

第2話「碧眼の人馬」

この時期に自然界に異変が起きた

実際に語り継がれている天変である

マプチェ達は異変を見て、危険を察知し

有事に備えることが出来たと言われている

-8年前-

1536年海から再び災厄が押し寄せる。

が、蛇ではなく、人だった。

-コルディジェラ・デ・ナウエルブタ山脈-

ある日鮮やかな緑色の鳥たちがざわめき出した。

フタウエ「これは！？太陽が食われておる・・

鳥たちが、なんという数じゃ

皆に知らせなくては。」

フタウエは頭につけている斧を外し、山の向こうへ投げた。

その斧は南のマプチェの集落まで飛んでいった。

赤いバンダナを身に付けた男が、飛んできた斧をしっかり受け止めた。

彼の名はクリニャンクと言い、この地のロンコ(指導者)であり、ラウタロの父だった。

クリニャンク「この斧はフタウエ様のものだ。遂に災厄が訪れたか、急ぎ北の者どもに伝えなければ。」

-戦の始まりの地-レイノウェレン

「おい、この地は何と言う？」

如何にもコンキスタドールらしい装いをした

地位の高そうな男が言葉を発した。

男の名はゴメス・デ・アルバラドといい、

ペルーのコンキスタドールとして

有名なフランシスコ・ピサロと双璧をなす

ディエゴ・デ・アルマグロの命で南方遠征の指揮官を任されている。

アマル「ハイ、神様。

レイノウェレンでございます。」

浅黒い肌の先住民の少年は、無機質で幼い声で答えた。

手入れのされていない髪でほぼ顔は隠れており、

まるで悍ましい目が話している様だった。

アマル「この地はニュブレ川とイタタ川の合流地点になっております。

左手にあるのがニュブレ川、斜め前方がイタタ川でございます。」

アルバラド「ふむ、この地なら右方からしか相手は攻めてこれまい。」

アマル「マプチェはイカれております。一応川方面も用心した方が良いかと。」

アルバラド「ふむ、グレゴリオ右翼は頼んだぞ。」

「任せろ。」

銀色の甲冑に身を包む

鋭く冷たい目つきの男が答えた。

グレゴリオ・デ・カスティニャダ。

アルバラドの腹心であり、

グレゴリオと呼ばれている事からも

アルバラドとは親しい間柄である。

アルバラド「我らはひとまずここで待機する」

-ピクンチュ族の集落-

ピクンチェの先住民「なんだあれは！？」

ピクンチェ斥候「みんなー聞いてくれ！

大きなリャマが丘に現れた・・」

顔に複雑なペイントを施した一際大柄な男が、

野太い声でゆったりと話しかけた。

ピジョルコ「そこまで驚くことか？」

ピクンチェ斥候「いえ、それが・・

上半身は人の形をしている様に見えるのです。」

斥候の報告で、辺りがざわつきだした。

「なんだそれは・・」

「これが新たな災厄か・・」

ピクンチェ斥候「さらに人の頭部と見える部分には、空の様な色をした目までついております。」

再び辺りがざわつきだす。

「俺たち大丈夫なのか・・」

一際低く腹の底に響きわたる声が、ざわつきを一蹴させた。

「うろたえるな。ピクンチェの名が泣くぞ。

南の奴らが言ってた通り、備えて正解だったな。」

その声の主はピクンチェ族をまとめているミチマという者だった。

ミチマの顔には各々の両目の下

真っ直ぐ伸びる赤い線がシンプルにペイントされている。

ピジョルコの様に横に太い訳ではなく、

筋骨隆々とした長身の男で、

ピクンチェの長は彼だと

一目で分かる様な説得力のある佇まいをしていた。

ミチマは一呼吸おき力強く叫んだ。

ミチマ「者ども・・出陣だ！」

ピクンチェ兵達は、ミチマの号令で雄叫びを上げた。