第5話 未来人の自己紹介(2)
大島さんのステージ――もとい自己紹介の後は元の順番通り男子が指名されていく。心なしか皆元気でハキハキした声なのは大島さんに名前を覚えてもらいたいからだろう。男子高校生って単細胞。
「それではお次は神崎さん」
「はい」
男子の紹介が終わり、女子の番になる。指名されたのは背の高い美人の女性――いや、女子生徒。
彼女が立ち上がった途端、男女問わず息を飲み、空気が冷たく張り詰めた。
「神崎夕です。県外の中学校から来ました。以上です」
やや低めなアルトボイスでの自己紹介はそれで終わってしまった。
一応、皆拍手を送るが淡白な自己紹介に少し戸惑っていた。
彼女にはどこか近づきがたいオーラがあった。
ショートの黒髪と切長な瞳、鼻筋の通ったシャープな輪郭の顔はすごく綺麗だけど大人っぽい。
クラスのほとんどの男子よりも高い身長は外国のモデル顔負けのスタイルで、男子高校生が話しかけるにはハードルが高い。俺なんてもっと無理だ。
「あ、ありがとうございます、神崎さん。えっと……神崎さんはスポーツなどされてましたか?」
「いえ、特には」
「良かったら女バス入らない? 私、顧問なんだけど」
「結構です」
「あ、そうですか……」
加えて先生相手にも崩さないこの無愛想さ。コミュニケーションが苦手なのか、それとも気難しい性格なのか。
どちらにせよ、そういう性格だと世の中やっていけないよ。
とお節介を考える元三十五歳のおじさんであった。
「(じっ)」
うん? なんだろう、視線を感じるぞ? 神崎さんが俺を見ている……いや、睨んでいるような……。
え、なんで!? もしかしてお節介が声に出てた!?
「それでは次は杉野さん」
「はい。杉野
次に自己紹介した杉野花菜さんは先ほど校舎裏に来てほしいと言ってきた女の子だ。
神崎さんとは対照的に小柄で丸っこい童顔が可愛らしく、三つ編みにした亜麻色の髪と合わせてお人形のような少女。
ほんわりした雰囲気の癒し系で天使様のようで、男どもがデレっと相好を崩している。俺も見惚れちゃった。
と、着席した杉野さんと目が合う。
ひらひら。
すると杉野さんは胸の前で小さく手を振った。
途端、男子達がザワザワと騒ぎ出した。
「こらこら、皆、騒がないで!」
「(今、手を振ったよな)」
「(誰に振ったんだろう?)」
「(俺だよ)」
「(それだけはねぇって!)」
氷室先生が注意して静まるが男子高校生達は落ち着かない。
確かに手を振っていた杉野さんは可愛らしかった。大島さんや神崎さんほど目立つ容姿じゃないが、男どもの心を鷲掴みにする可愛さでは負けてない。
あれだけ可愛い子だから、誰に向かって好意を向けたか関心の的になるのは決まっている。
俺も男だから彼らの気持ちはわかる。入学式に出会った女の子が自分に運命的一目惚れをしたのでは……と妄想してしまう。
だが悪いな、
あの会話の後というタイミングだ。放課後の待ち合わせの約束をした俺に合図を送ったに違いない。
俺だってそれが分からぬほど愚鈍じゃないさ。
…………全然身に覚えにないんですけどね!?
やばい、心臓がバクバクしてきた!
女の子との待ち合わせという未経験のイベントと杉野さんの記憶が全くない罪悪感と焦燥。
誰なんだ……一体誰なんだ!?
いつ、どこで、どんな出会いをしたんだ、過去の俺!
せっかく青春ぽいイベントが起こるのに、思い出せないと嫌われちゃう!
誰か答えを教えてくれぇぇ!!
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