十人のスタッフ

「ありがとうございましたにゃ! 」


 最後までいた老夫婦を見送って、カフェ・ルミエールは「閉店」と書かれた札を扉にかけた。


「全員帰ったにゃ!」


 片付けを始めた店内で、るんるんとした足取りの少女の声が特に響く。


「十、五十。これでこっちは終わりました」

「こっちもこれで全部かな」


 カウンターでは少年と少女が売上の計算をしている。


「悪い、洗いもん追加や」

「うへー・・・、今から上がるとこだったのに」

「・・・ユウェン、もっと早く、持ってこい」

「すまんって。手伝うわ! 」


 厨房で並んで洗い物をする男三人。


「ここ拭き終わったぞ? 」

「あと窓際のが残っているんだが、頼んでもいいか? 」

「わかった」


 テーブル拭きに勤しむ男女二人。


「ねえフウちゃん、クガン産の豆ってまだあったかしら? 」

「ないんですか? 」

「そうなのよ。発注を忘れちゃったみたい・・・」

「・・・ちょっと待ってくださいね。えーと・・・、あ、やっぱり! ここにもう一袋ありますよ! 先輩前入り切らないからって場所を変えたじゃないですか」

「そういえばそうだったわね! 助かったわ! 」

「いえいえ、あせる先輩も尊かったです!」


 さまざまなコーヒー豆や茶葉を確認する二人組。



 カフェ・ルミエールのスタッフはこれで全員だ。これほどの人気カフェならもっと人数がいそうだが、ホールスタッフ六人にキッチンスタッフ二人、さらにバリスタ二人の計十人で回している。



 しばらく経ち、片付けは全て終わったが、誰一人帰らない。


「今日は誰が行くのにゃ?」


 栗色の髪と目を持つ語尾のにゃが特徴的な猫獣人、ミランが問う。


「さあ? あたしは何も聞いてないけど・・・」


 軽くウェーブのかかった燃えるような赤色の髪を持つ美女、ではなく女装男子のカロン。その証明として、胸は見事なほどに平らだ。椅子の背に肘をついて髪をかき上げている。


「ユウェンは行くのかにゃ?」

「いや、俺も今日は非番や。けど、なんかアランは行くっぽかったで? 」


 東洋系を表す黒髪黒目で、長い髪を一本の三つ編みにして垂らした、地元の方言だという訛りのある口調で話す男、ユウェン。


「今日は私とロゼとリオンとアランだけだ」


 ガチャッとスタッフルームから出てきたのは、青紫の髪を持つ中性的な顔立ちの美少年、ではなく髪を短く切り揃えたスタイリッシュな麗人、ユラ。


「あれ、ユラ今日担当だったのか」


 少し遅れて、反対側のドアから、ユラとそっくりの顔に、やはり同じ色の長い髪をポニーテールにした少年、ユノが出てきた。こっちは顔立ちのせいで少女に見える。


「僕も行きますよ」


 ユノについて後ろから出てきた、ユノより一回り小さい少年リオン。おそらく多くこの中では最年少。灰色の癖っ毛が特徴的で、右は青、左は金と、瞳の色が異なっている。


「あら、アランちゃんは?」

「まだ中いると思いますよ」

「もう出てきたぞー」

「あ、アランさん」


  がっしりした体格のゴワゴワした茶髪を持った男、アラン。スタッフの中では一番身長が高く、見た目もイケオジである。


「あれ、ロゼはまだなのか?」

「そういえば見てないにゃ」

「・・・かなり前、見た」

「お、トルゼン。いつ見たって? 」

「部屋、行った、たぶん着替え、二十分前」


 途切れ途切れの単語でコミュニケーションを取っているこの無口な男、トルゼン。ユウェンと同じ黒い髪と目を持ち、見た目は強面だ。


「ねえ、フウちゃん!ロゼちゃんが何してるか見てきてくれないかしら!」

「わかりました!」

「たぶん寝てるにゃ!」

「寝てるんだったら、起こしてきて!」

「はーい!」


 リオンと同じくらいの背丈にフリルのメイド姿がなんとも可愛らしい、ピンクゴールドの髪を肩で切り揃えたおかっぱの女の子、フウ。この年にしてカロン推しを極めている。


「ロゼ先輩いましたよ!」

「ん、ふぁあ・・・」

「ほら先輩!」

「・・・もう行くの?」


 しばらくしてフウに手を引かれながら現れた眠そうな少女、ロゼ。見た目的にはフウの姉といったところだろうか。純白の髪は、寝起きなのにも関わらずサラサラなストレートで、目が濃い赤色をしている。


「もう行かないと間に合わないぞ?」


 ユノのその言葉に反応したアラン、ユラ、リオン、ロゼの四人。よく見れば、四人は他の人とは違って、制服から真っ黒い衣装に着替えている。


「やべっ!行くぞ!」

「いってらっしゃーい!」


 慌てて出て行ったアランに続いて、三人も入り口近くにかけてあったローブを手に取って、店を後にした。



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