「カフェ・ルミエール」

 ここは大陸最北端に位置する小国、ランティス。大陸戦争中、中立を貫き通し、且つ最も被害の少ない国の一つだ。その首都ラスには、「カフェ・ルミエール」というの名の店がある。


 ドアを開けて中に入ると、軽やかな鈴の音が鳴り、とてつもなく広い空間に出迎えられる。木材の色と模様をそのまま活かしたテーブルと椅子が等間隔に並べられていて、半分ほどの席は埋まっていた。奥のロフトには個室も設けられている。全面のガラス張りで、外に見えるのは、丁寧に手入れがされた美しい庭園。



 ここができたのは二年前。大陸戦争終戦の祝いとしてオープンした店で、安らげる雰囲気と空間が、上流階級からの安定した人気を得ている。



 ちりん。


「いらっしゃいませ」

「まだ席はあるかしら? 」

「ええ。何名様でしょうか? 」

「今日は四人いるの」

「待ち合わせでしょうか? 」

「ええ」


 薄ピンクのドレスに身を包んだ令嬢が入ってくると、すぐさまカウンターの奥にある扉からホールスタッフが出てきて、淡々とした手つきで四人席に案内する。銀の長い髪を束ねたそのスタッフは、十五、六ほどの少女に見え、無に近いを表情で、黒いパンツスタイルの制服を着ている。


「ではこちらへ。・・・こちらにどうぞ」

「ありがとう」


 すっと椅子を引いてご令嬢を座らせ、少女はテーブルにメニューを置いた。 


「メニューになります。ご注文がお決まりになりましたら、そちらのベルをお鳴らしください」


 テーブルの真ん中に置かれたベルを指差したその子は、さっと踵を返すと、コツ、コツ、と足音を響かせながらカウンターへ戻っていった。


 しばらくのち、友人が全員揃った令嬢はベルを鳴らして再びスタッフを呼んだ。


 出てきたのはさっきと同じ子だ。

 

「ご注文ですか? 」

「ええ。このページのケーキを全ていただけるかしら? 」

「かしこまりました」


 帰っていくその子を見ながら、黄色のドレスを着た令嬢が言う。


「あの子はいつもあんな感じなの? 」

「そうよ、ここの人たちはみんな個性的なのよ」

「個性的? 」

「見ればわかるわ」


 その言葉に首を傾げながらも、黄色の令嬢は見てみることにした。


「・・・あら、そうなの!? 」

「しかもオーダーメイドなんですって! 」

「まあ! それはすぐに買わなければ! 」


 会話が弾みだした頃、今度は銀髪の子ではなく、可愛らしい金色のボブに大きな白いリボンを着けているのが印象的な子が、ワゴンを押してきた。この子はパンツスタイルではなく、フリルのたくさんついたスカートバージョンだ。


「ご注文の品ですにゃ! 」


 見た目通りの可愛らしい声を響かせながら、テキパキとケーキとカップをテーブルに並べていく。


「お飲み物はカフェラテとミルクティぃとストレートレモンティーであってますかにゃ? 」

「ええ、いい香りね」

「ありがとうございますにゃ」


 ポットを高く持ち上げ、寸分の狂いなく注ぐその技術は、王宮使用人にも負けていない。


「ありがとう」

「失礼しますにゃ」


 コト、と茶器を置いたその子は、また髪を揺らしながらワゴンを押して帰っていった。


「ほら、個性的でしょ? 」

「ええ、本当に」

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