魔法使いの靴
クラーク王国主催の結婚式当日
天候はあいにく小雨が降っているが
午後には止むだろうといわれている
結婚式用の華やかなウェディングドレスを身に纏った
自身の姿見に映った晴れ姿を初めて目にした
ミクチェルは
支度をすませたベイカーさんに軽く会釈した
「元気のない顔してますね
やっぱり悩みはあるでしょうけど」
「そうね
スーパーヒーローも最初は正体を隠してた」
「スーパーヒーロー?」
「あたしを助けにきてくれるひと」
純白のウェディングドレスが映える中で
立ち上がってこちらを振り返るミクチェルは
穏やかな微笑みをうかべていた
小雨のぱらつきが止んできたころ
予告状を出したジェレミーはミクチェルとの約束を果たすべく
ひとり教会へ向かっていた
途中公園の並木道に差し掛かったところで
公園内の噴水を何気なく目にしていた
ジェレミーの頭上にコツンと音を立てて
なにかが落ちてきた
不審に思って頭に手をやり
地面を確認すると
片方の靴が転がっていた
誰かが落としたのだろうか
辺りを見渡すジェレミーに声がかけられる
「靴、履かせにきて」
ジェレミーが近くの大木の上を見上げると
ひとりの少女が枝に座って
靴が脱げた片方の足をこちらへ向けていた
「その枝、ふたりも登れるかな」
とはいえジェレミーは仕方なく木の枝に手をかけると
ゆっくりと登って少女の隣にたどり着くと
枝に腰を下ろして片方の靴を差し出した
「ありがと」
だが、少女がお礼をいった次の瞬間
大木の枝が折れ
ふたりは地面へ落ちてしまった
「いて…」
コメディカルに向かい合わせに折り重なるように落ちず
少し場所がずれていたことから
ジェレミーは下敷きにならずにすんだが
結局痛い思いをした
「もう、だから転がった靴とか拾うと
ろくな目に合わないんだよ!」
「あはは、ごめんごめん」
少女は靴を履いて立ち上がると
少しよろけながら、大木に手をついて笑った
ジェレミーは初めて出会った黒髪の少女に
ミステリアスな雰囲気を見出して
思わず見つめてしまった
クラークの城にはいなかったタイプの
美少女であった
「王子さまを好きになるひとは
かわいいんだろうな」
「え?」
唐突に返答に戸惑うことをいいだす少女に
ジェレミーは思わず首を傾げた
「ジェレミー王子みたいなひとを
好きになるような女の子だよ?
かわいいこだよ」
「そ、それは…そうだといいけど」
どうしてそんなことをいってくるのだろう
以前から彼を知っている少女ではないにも関わらず
「ぼくは君みたいなこともっと早く
出会っていたかったよ
そうしたらなにかが変わってたかも
しれないのに」
ジェレミーは少女にぽつりと本心を明かした
彼女はジェレミーの隣へ近寄ると
服の
「ねえ、ガラスの靴の持ち主の名前
知りたい?」
「なんで君がそんなこと知ってるんだよ」
驚いたふうになるジェレミーに
少女は微かに笑うと言葉を続ける
「ミクチェルよ
世界でたったひとりの名前の女の子」
「ミクチェル?」
「クラークのお城であなたを待っているわ」
「…ぼくが誰だか知ってるみたいないい方だね
わかった、教えてくれてありがとう
ミクチェルは必ずぼくが助け出すよ」
ジェレミーが振り返った先に少女の姿は
見当たらなかった
一方、クラーク城ではなく
城内の敷地にある教会では
正装に着替えたローガンと
花嫁姿のミクチェルがふたり並んで
周囲の者たちから祝福されていた
果たして誰も血を流さずにはいられない
婚儀になり得るだろうか
ジェレミーが報復のため
花嫁を狙って予告状どおり
戻ってくるとしたら…
教会のまえに待機していた門番が
扉へ近寄る少年へ声をかけた
「待て、君は結婚式に招待されているのか?」
ふたりの門番は遅れてきた招待客の顔を見るなり真相に気付き
口元を震わせながら本人確認しようとした
「あなたは…まさか」
「ぼくは…ガラスの靴を拾った王子さま」
正しき者を招き入れよ
シルクハット帽子を被り
ステッキを手にした
今教会の入室許可を得るため
静かに微笑した
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