星降る夜の願いごと
窓辺に置いた2足のガラスの靴を眺めていた
ミクチェルはカーテン越しに窓の外の星空を見上げ
枕を抱いてベッドに横になっていた
すると、窓の外からノックの音がしたので
ミクチェルは音がした方へ目を向けると
ベッドから起き上がり、窓のそばへ駆け寄った
「ミクチェル」
「魔法使いさん
あなたに会いたかった…」
ミクチェルがカーテンを開いたそこにいたのは
あの日彼女にガラスの靴と魔法の杖で
馬車やドレスを与えた魔法使いだった
「どうぞ、入って」
「願いごとは3つまでだよ」
「うん、わかってる」
ミクチェルの部屋へ招き入れられた魔法使いは
ミクチェルと同じ年頃に思える
黒い長い髪をした少女だった
「あのね、あたしとあの王子さまを
結婚させないでほしいの」
「舞踏会、楽しくなかったんた」
魔法使いの少女は眉を下げ
悲しげな顔になる
「別のひとになってるのよ
理由は教えてくれそうもないけど
今のジェレミー王子はあたしが舞踏会で
ダンスを踊った王子さまじゃないわ」
「偽者の王子さまと結婚したくないんだね
わかった」
魔法使いが杖を振るおうとする
これであの偽者の王子と結婚する未来は
絶たれるということになるのだが…
「待って」
ミクチェルは魔法が発動するのを阻止した
「あたしも魔法を使いたいな」
そう提案したミクチェルは
魔法使いから借してもらった魔法の杖で
魔法使いに魔法をかけた
すると、辺りが光の粒子で煌めいたあとに
魔法使いのフード付きの黒いローブは
ミクチェルが愛用していた町娘風の格好に
様変わりしていた
三面鏡の鏡にふたりで映り
ミクチェルは大切にしていたアクセサリーをひとつ
鏡のまえの椅子に座り
きょとんとしている魔法使いに
プレゼントとして髪に飾った
「かわいい」
ミクチェルがそういうと
魔法使いの少女は照れたように微笑んだ
「きっとあなたに恋をするひとがいるから」
しばらくすると
こうしてはいられないからと
魔法使いは席を立ち
ミクチェルと出逢った窓辺のそばで
彼女が今まで大切に扱ってくれた
ガラスの靴の片方に手を触れて
優しげな眼差しでお礼をいう
「ミクチェル、ここでお別れよ
ガラスの靴はあなたのもの
大切に持っていてくれてありがとう
あなたのしあわせを願っているわ」
ミクチェルはガラスの靴を2足
返すつもりでいたのだが
最後にひとつだけ
魔法使いにすがるように尋ねた
「ねえ、あたしが大人になっても
また会いにきてくれる?」
「…うん、きっとね」
願わくば魔法使いとともに空飛ぶほうきで
連れて行ってほしかった
彼女の知らない世界にいる少女の国へ…
ほうきに乗った魔法使いは
振り返ってミクチェルに手を振ると
虹の彼方に消えていくように
星空に姿を消したそのとき
一条の流れ星が空を駆けていった
窓辺からミクチェルは
魔法使いに最後の別れを告げて
そっとカーテンを閉めた
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