第50話 未来視
「未来視、だと?」
「そうだ、違和感の正体もやっとわかった。アイツはアタシらが動くより先に動いてる、攻撃が行われる前に既に回避してるんだ」
なるほど、奴の目が光を放っていたのは未来視の能力を使っていたというわけだ、それならこれまでの攻防にも納得がいく。
いつどこからどんな攻撃が来るのか事前にわかっているのだとしたら、ベルゼブブ程の力があれば防ぐのも避けるのも容易いだろう。
「へぇ、どうしてわかった?」
「言ったろ、動きを見てたらある程度想像はつく。アンタ武術は素人だろ、そんなんでアタシの目を誤魔化せると思うな」
「見ればわかるか……そういやルシファーの奴もそんなこと言ってたな」
「それに確信したのはついさっき、シアンがアタシに治癒魔法をかけてた時だ。あの時追撃してこようものなら、アタシは片手を犠牲にアンタの首を貫くつもりだった。だけどアンタは絶好のチャンスで何もしなかった、アタシが反撃に出る未来が見えてたんだろ」
「スゲェな、こんな早く気づかれるとは思ってなかったぜ。だがわかったところでどうする?どう足掻いたところで、俺は常に未来を視てるんだぜ⁉︎」
確かに奴に攻撃を当たらない理由はわかったかもしれない、だが根本的な解決にはなっていない。
未来が見える限り隙をつくことは不可能、常に奴は万全の体勢で迎え撃ってくる。
わかっていても回避も防御もできない攻撃、或いは未来視の力を持ってしても予測不可能な攻撃を繰り出すしかない。
「ようやく理解したみたいだな、俺様が食う側、テメェらは食われる側ってことに!」
これまでとは比にならない数のハエが放たれる、どうやら向こうは決着をつけに来ているみたいだ。
「コイツは防げまい!」
豪雨のように無数のハエが降り注ぎ、その一つ一つがまともに喰らえば致命傷になるような爆発を引き起こす。
絨毯爆撃、なんて言葉では生ぬるいほどの猛攻。
ある意味で未来が見えていようがいまいが関係ない、そんな攻撃だ。
「秘奥大地呪文“アマサムーン”」
まずはこれを凌ぎ切らないことには攻撃に移れない。
数には数で対抗だ、大地呪文で土壁を何層にも作り出して降り注ぐハエを防ぐ。
「みんなそのまま伏せとけよ!」
「そう来るのは視えてたぜ、じゃあコイツはどうだ⁉︎」
そりゃそうか、コイツが視えるのは俺たちがどう攻撃してくるか、だけじゃない。
どう防御するかもわかっている、つまり詰将棋のように攻めてくるわけだ。
「秘奥火炎呪文“フランダール”」
火炎呪文には火炎呪文で相殺する。
後手に回るのはどうしようもない、とにかく耐えればそれでいいんだ。
「やるじゃねぇか、それなら──」
「そう何度も自由にハエを出せると思うな。秘奥氷結呪文“シガレザード”」
ベルゼブブがハエを放出した直後、周囲の空気ごと氷結呪文で凍らせる。
これ以上数を増やされるとさすがに厄介だ、自由に動かしてはならない。
「そのまま爆ぜろ、秘奥雷撃呪文“ゼルテドライ”」
「チィッ!」
ベルゼブブは大きく距離を取りつつ、新たに放出したハエで障壁を作りながら魔法を避けていく。
やはりこの至近距離でも未来視で防がれてしまうか、だが怒涛の攻撃は凌ぎ切った。
「す、凄い……」
「テメェどうなってやがる、本当に人間か?初めてだぜ、俺様の攻撃が防がれる未来しか見えなかったのはな」
それで攻撃を中断してくれたのだとしたらラッキーだ、おかげで今度はこっちのターンだ。
「……しょうがねぇ、こうなったら我慢くらべだ。テメェらの体力と魔力が底をつくまでやってやるよ」
恐らくベルゼブブの魔力の絶対量は俺たち人間のそれとは比にならない。
確かにアイツの言う通り持久戦に持ち込めば、圧倒的に不利なのはこちらだ。
今のように攻撃を防いでいるだけで魔力を消耗していき、いずれは限界を迎える。
奴の選択は最善といえる、一つだけ大きな誤解をしている点を除けば、だが。
「ユニ、あれをやるぞ」
「あれって……冗談でしょ⁉︎まだあれは実戦では一度も使ってないわよ!」
「それでもやるしかない。ベルゼブブを唯一倒せる手段だ」
「アイツは未来が視えるのよ、それを上回ることなんて──」
「ユニならできる、そうだろ?」
「あー、もう!わかったわ、やってやるわよ!やればいいんでしょ⁉︎」
「ああ、信じてるぞ」
ユニが指を鳴らすと、ベルゼブブの周囲に光り輝く結晶が現れる。
「あ?何かするつもりか?」
「そこに浮かぶ結晶、その一つ一つがお前の弱点だ」
「何意味わからねェこと言ってやがっ⁉︎」
「視えたようだな、これから何が起こるのか」
この一ヶ月で俺たちはユニの究極魔法を完成させるのとはまた別に、もう一つの魔法を編み出した。
これは俺とユニの二人が揃って初めて使える魔法、渾身な魔法を無防備なところに直撃させる、格上の敵をも倒し得る技。
例えベルゼブブが未来視を使えようが関係ない。
何故ならこれは防御も回避も不可能なのだから。
「いくぞ、ユニ」
「準備オッケーよ、いつでも来なさい!」
「秘奥雷撃呪文“ゼルテドライ”」
俺が放った雷撃呪文はあらぬ方向に飛んでいく。
だがそれでいい、狙いは初めからベルゼブブではなく、その周囲に浮かぶ結晶なのだから。
「小癪な真似をしてくれるじゃねェか!」
結晶に直撃した雷は反射され、ベルゼブブの背後から襲いかかる。
当然ハエを使って防ごうとしているが、そうはいかない。
「ビビッドドラゴンブラスター!」
五色の龍が全方位からベルゼブブに迫る。
こうなればもう避けるしかないだろう、だが避けた魔法は結晶によって反射され、再度ベルゼブブに向かっていく。
「言ったはずだ、その全てが弱点だと。例えどれだけ未来を視て避けようとも、一度放った魔法は永遠にお前に迫り続ける」
「それなら全部掻き消してやるまでだ!」
「そうはいかないがな」
避けても無駄ならば防ぐしかない、そう考えるのは当然だ。
だが防御はさせない、常にこちらから新たに魔法を撃ち続けてその隙を与えない。
ここからは持久戦だ、俺はひたすらに魔法を放ち続け、ベルゼブブを追い詰める。
そしていつか、俺たちの魔法は直撃することになる。
「こうなったからには防御も回避も不可能、コレこそが七大悪魔を倒すために編み出した俺たちの必殺技の一つ」
「“鏡の世界”二人の天才が放つ魔法の恐ろしさ、その身をもってとくと味わいなさい!」
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