第47話 完成
「……で、できた!」
ボロボロに砕け散った障壁魔法、背後に広がる凄まじい破壊の跡。
血の滲むような一ヶ月に及ぶ修行の末、ユニの究極魔法は遂に完成した。
七大悪魔にも届きうる一矢、まさしく奥の手である。
「レオ王子、こっちもいけるわよ」
「ヴィニア、アンタなんでメイドなんかやってんだよ……」
両者共に立ってはいるものの、満身創痍。
だがどちらが勝利したのかは一目でわかる、アリンの剣が叩き折られているのだ。
「レオ王子。遂にボクの奥義が完成しました!」
「よし、間に合ったな」
いつ奴らが地獄を制圧して地上への侵攻を始めるかわからなかったが、少なくともこれでスタートラインには立てた。
全員ゲームに例えるならばクリア時のレベルは既に大きく超えている、数値にして70〜80といったところか。
もちろんこれで安心というわけではないが、一旦肩の荷が降りた。
「あれ……」
「レオさん、大丈夫ですか⁉︎」
安堵のあまり膝の力が抜けてしまったらしい。
その場に倒れそうになったところを、シアンが支えてくれた。
「無理もないわ、一番頑張ってたのは間違いなくレオだもの」
「アタシらの修行に付き合った後、夜中に一人でやってたんだろ?そんな無茶もすれば当然だな」
「気づいてたのか」
「レオ王子、貴方はとても頼りになる人だけど、私たちのことももっと頼っていいのよ」
「そうです、ボクたちはレオ王子のためならもっと強くなります!」
「ありがとう、みんな」
何故だろうか、今なら奴らにも勝てるような気がしてきた。
「お腹、空いたな」
「レオさん、たまにはどこかに食べに行きませんか?」
「お、楽しそうじゃねえか」
「そうね、顔を見せた方がみんなも安心するかもしれないわ」
「護衛はボクたちが務めるので心配いりませんよ!」
「じゃあお言葉に甘えてそうするか」
張り詰めすぎた糸はいつか切れてしまう、たまには休息も大切だ。
ということで俺たちは汗を流した後、息抜きも兼ねて城下町に出ることにした。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「どうぞウチを見ていってくださいよ、レオ様!」
「あ、王様だ!」
「国王様、いつもありがとうございます」
街を歩いていると、色んな人が声をかけてくれる。
彼らの笑顔を見たり、小さな子どもたちと触れ合ったりしているのこれが平和なのだと実感する。
そういえば、本来の俺はこの人たちに恨まれ、反逆され、そして殺されるんだったな。
最初はその未来を回避する、その一心で生きてきたというのに、気がつけば世界の命運を背負うことになってしまっている。
でも案外悪いとは思わない。
この世界を守りたい、この人たちの生活を守りたい、今は心からそう思う。
そのためならどんなに苦しくても、戦い抜いてみせると。
「どうしたの、レオ王子」
「いや、負けられないなって」
「当たり前じゃない。負けないわよ、アタシたちは」
「アタシらに任せな、勝つからな」
そう思えるようになったのは、間違いなくみんなと出会ったからだろう。
気づかないうちに俺も随分変わってしまったみたいだ。
「あ、レオ王子。あそこ美味しそうだと思いませんか?」
「そうだな、行ってみるか」
正直なところお腹が空きすぎて食べられるならどこでも良かったので、ヴィニアが提案した場所に向かう。
さすがにお昼時は超えているからか、あまり人の姿はなかった。
「れ、レオ様⁉︎」
「驚かせてごめん。ホント特に深い意味はないからあまりに気にしないでくれ、難しいかもしれないけど」
突然王族が側近を引き連れてきたらそりゃあ驚くだろう、しかも婚約者と言われている隣国の王女まで連れてきているのだ。
店の人には悪いことをしてしまった。
「しかし俺、王族らしいことは何もしてないな」
「いいんじゃないですか?私も王女らしいことなんてとてもできていないですし……」
「気にする必要ないだろ、アタシだって騎士らしくないって散々言われてきたしな」
「確かにそうね、むしろ騎士と正反対って感じかしら」
「ユニに言われたくねーよ。名家の生まれとは思えないただのワガママ娘のくせによ」
「何ですって⁉︎」
ああ、なんかすごく懐かしいな、勇者パーティって感じがする。
まさか自分がその一員、というか勇者的な立ち位置になるなんて夢にも思っていなかったが。
「ボクはメイドらしい……のでしょうか」
「私はそう思うわよ、ヴィニアちゃん可愛いし」
「可愛いって、そんな」
「お、飯きたから食べようぜ」
そんなくだらない話をしていたら注文が届いた。
もうお腹が空きすぎてすぐにでも平らげてしまえそうだ。
「んじゃ、いただきます!」
すぐさま料理にがっつく……わけにはいかない。
これでも王族なので礼儀作法に則ってそれらしい振る舞いをする。
まあ王族がこんな一般の店に来るな、と言われたらそれまでなのだが。
ゲームなら自国の安宿に金を払って泊まる王子がいるくらいなんだし、これくらい許してもらおう。
味も普通に良い。
普段は上品なものばかり食べていてアレも当然美味しくはあるのだが、だからこそたまに食べるこうした庶民的な料理がより一層美味しく感じられる。
何となくで入ったけれどあたりかもしれない、現に他の客も美味しそうに食べて……
「食べ過ぎだろ……」
ちょうど俺の視界の先のテーブルには一人の男がついている。
彼の前には数十枚の皿が積み上げられており、なおも手を動かすペースに変化はない。
「いやぁ、やっぱ美味ぇなぁ!おいおかわりだ!」
「か、かしこまりました……」
「……ん?」
驚きの余りじっと見つめていたら、目が合ってしまった。
そして男は手で口元を拭い、舌なめずりをしてからニヤリと笑った。
「やっぱいいわ、もっと美味そうなモン、見つけちまったたからな」
瞬間、緊張が走る。
この悍ましい気配は他の誰にも真似できない。
「ああ、クソッ!食ってる最中だってのにまた腹が空いてきやがった」
「みんな、気をつけろ。ヤバいやつに出会ってしまった」
「やっぱ地上に来るのは正解だったな。さて、テメェらは一体、どんな味がするんだろうなぁ?」
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